2016年02月10日 公開
2023年05月16日 更新
――「日本企業に注目が集まっている」「興味深いベンチャーが続々登場している」……こうしたハーバードの日本観は、むしろ今の日本人自身の日本観と真逆のように感じます。
「取材の中で再認識させられたことがあります。それは『日本人ってこんなにすごかったのか』ということです。日本人はどうしても謙遜の精神が出て、自分たちを過小評価しがちです。でも、『ハーバードの教授陣』という世界最高の知性が、日本人のすごさの本質を見抜いてくれた。そんな思いを抱いたのです。
その象徴とも言えるのが、『新幹線のお掃除』で知られるテッセイ(JR東日本テクノハートTESSEI)を扱ったケースです。
華やかな衣装をまとい、ホームに入ってくる新幹線を一礼して迎えると、1両たった7分でスミからスミまで磨き上げる清掃員さんの姿を、皆さんもご覧になったことがあるかもしれません。その会社こそがテッセイです。
実は、テッセイは最初からこうした優良企業であったわけではありませんでした。2005年に取締役に就任した矢部輝夫さんが努力と工夫を重ねた結果、『自分たちの仕事はどうせ清掃』という意識を変え、社員のモチベーションを喚起。今ではその技術とホスピタリティの高さで注目を集め、多くのメディアで取り上げられています」
――『新幹線お掃除の天使たち』という書籍にもなるなど、今、注目の企業ですね。
「とはいえ、まだまだ知らない人のほうが多いでしょうし、トヨタやホンダのような、いわゆる大企業ではありません。にもかかわらず、このケースがハーバードの学生の間で大人気なのです。
実はこのケースを執筆したイーサン・バーンスタイン助教授と2014年に話をした際、本人から直接『テッセイのケースを書きたい』という話を聞いていました。日本のことをここまで見てくれている人がハーバードにいることに驚いたものですが、その後、完成したケースが大人気だということにさらに驚かされました」
――なぜ、テッセイの話はここまで受けたのでしょうか。
「ケースの共同執筆者であるビュエル助教授にうかがったところ、最初は学生たちも『清掃会社から何を学べるのだろう』という感じだったそうです。階級社会の欧米において、清掃作業はあまり階層の高くない人の従事する仕事。海外の空港などに行くと、やる気なさそうにモップがけをしている人を見かけますよね。これが欧米では普通なので、あえて『従業員のやる気を高めよう』などとは誰も考えない。『もっとお金を出せばいい』『やる気がなくても仕事が進むシステムを作る』という発想しか出てこない。
だからこそ、自分たちの仕事の意義を説き、人の役に立つ喜びを伝えることで従業員の意識を変えた矢部氏の事例を知り、『こんな考え方もあったのか』と、新鮮な驚きを感じるのです。
ここに、日本人が今、ハーバードで注目されている理由の一つがあると思います。『お金よりも大事なことがある』『人の役に立ってこそなんぼ』といった、日本人が自然と身につけている価値観。学校でわざわざ習うようなこともないその価値観を、今、ハーバードの学生たちが必死になって授業で学んでいるのです」
――いわゆる「マネー至上主義」のアメリカで、こうした価値観が受けているというのは、正直意外です。
「これは日本が変わったというより、アメリカが変わった結果だと思います。ちょうど私が留学していた2000年頃は金融至上主義の時代。金融工学の知識を駆使していかに儲けるかが追求され、ビジネススクール卒業生も投資銀行に続々と就職していきました。マスコミ出身の私ですら、投資銀行から内定をもらったほどです。
9・11やリーマンショックなどを経て、そんなマネー至上主義が徐々に見直されてきました。お金儲けはもちろん大事だが、品格や倫理もまた、必要なのではないか。そう気がついたとき、日本が再発見された。そういうことではないかと思うのです」
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更新:11月22日 00:05