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あちこちに残るソ連の置き土産(カザフスタン)

2016年01月07日 公開
2017年10月03日 更新

<連載>世界の「残念な」ビジネスマンたち(5)石澤義裕(デザイナー)

賄賂に忙しいカザフスタンの警察官


カザフ人は日本人と同じアジア系

 

対立候補が現大統領に投票!?

軽自動車で、稚内→サハリン→モンゴル→シベリア→カザフスタンとドライブしている夫婦ものです。南アフリカの喜望峰が折り返し地点ですが、日々アフリカが遠ざかる昨今です。
エジプト行きのフェリーは、テロを恐れて軒並み欠航。モロッコから下る西アフリカは、エボラ出血熱と内戦が立ちはだかります。先日、マリで人質事件が発生。ヨーロッパは難民が溢れ、ロシアの民間機が落とされ、フランスでテロが勃発し、次々と国境が封鎖。民主化とグローバリズムが、世間を狭くしています。
ボクら、この先どこへ流れたらいいのでしょう?

日本人にはあまり馴染みのない中央アジアに突入しました。100以上の民族と30以上の宗教が混在するわりに、内戦もテロもない、平和なカザフスタンです。
首都は、東京都知事選で落選した建築家、黒川紀章氏が設計したアスタナ。随所で奇抜なビルが目をひきますが、近代建築に追いついていない稚拙な施工ぶりに、ちゃんと構造計算しているのか心配になります。

街の中心には、金の玉を祀った塔がそびえ、最上階にナザルバエフ大統領の黄金の手形があります。自分の手形を金で型どらせ、それを国のど真ん中で見せびらかすなんて、よほどの独裁者かと思いきや、意外にその逆です。

ソ連の崩壊後、98.7%という驚異的な得票率で選ばれた、民意の総決算とも言える大統領なのです。四選目では、対立候補ですらナザルバエフに投票し、議会では終身大統領として可決されます。しかしナザルバエフには、それを断る男気がありました。独裁じゃないのです。
長女を副首相に任命し、次女の夫はあちらこちらで総裁という名の専門職に就き、孫は首都アスタナの副市長。長女の別れた夫は、なぜかオーストラリアの獄中で首をくくりますが、一族郎党で国政に奉仕する王族経営です。

ちなみにナザルバエフ大統領は、在任中の行為に関して、退任後であっても逮捕されない法律が適用されます。座布団を差し上げたいほど、用意周到です。


これがうわさの「金の手形」

 

豊富な地下資源で注目を集めるも……

連邦などというお題目を引っさげておきながら、我れ先に崩壊したソビエトは、カザフスタンにふたつの置き土産を残しています。
ひとつは、セミパラチンスク核実験場。四国ほどの面積に、40年間で456回もの核実験が行われた地獄の釜のような土地です。
ふたつ目はウラル海。ソ連がうちたてた国家経済優先「自然改造計画」のおかげで、水量が10パーセントまで減り、魚が死滅。漁業どころか町そのものが壊滅。一晩で100メートルも水がひいたため、錆び付いた船が砂漠に取り残されます。シュールな風景です。

負の遺産「世界一の核実験場」と「20世紀最大の環境破壊」を抱えたカザフスタンですが、三蔵法師が歩いたこの地には、約 46 兆ドルもの地下資源が眠っています。独立後、目覚ましく経済が伸びます。一人当たりのGDPは、かつての兄貴分ロシアに匹敵するほどです。

しかしその恩恵は、なかなか国民の隅々まで行き渡らないようです。
毎日、二度三度と警察官に呼び止められます。
彼らは言います。
「アメリカはドル、ロシアはルーブル、中国は元。日本はイエン」
おもむろに右手をジャケットの内ポケットに突っ込んだり出したりしながら、
「わかるね?」
とウィンクしてみせます。

わかります!
懐が痛むほど理解できますが、こちらも慈善事業で旅をしているわけではありません。無用な募金をするほど心優しくないのです。
ロシア語はわかりませんというロシア語を繰り返し、精一杯目をくりっと見開き、首を軽く傾けながら、へらへら笑います。
こいつ馬鹿か、と警察官が呆れるまで続けます。
これ、意外に効きます!

蛇足。
ソ連の残した遺産に、バイコヌール宇宙基地があります。今では土地ごとロシアにリースしていて、年間1億1500万ドルの売り上げです。
日本とは違う意味で、カザフスタンは核の国です。
世界で唯一、自ら核兵器の放棄を宣言した国ですが、世界一のウラン生産国でもあります。
先頃も安倍総理が営業訪問し、日本の協力で原子力発電所の建設を計画中です。

著者紹介

石澤義裕(いしざわ・よしひろ)

デザイナー

1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。新宿にてデザイナーとして活動後、2005年4月より夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。

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