2015年08月06日 公開
2022年01月18日 更新
生前、ジョブズは京都を何度も訪れるなど、禅に深く傾倒していたと言われています。それも人間そのものを変えようとしたことと関係していると思います。
西洋では、モノは自分の外にある存在であり、観察の対象であると捉えます。しかし、禅においては、自分は世界と一体であると考える。山の中で修行するのも、自分は山の一部であると感じるためです。
ジョブズはこの考え方に強く関心を持ったのだろうと思います。なぜなら、彼が作っているモノは拡張された人間の一部だからです。人間の外にあるモノではないのです。
まさにこの思想に基づいて、ジョブズは製品を作っています。駅の券売機のタッチパネルは、人間の外側にあるモノと感じられるでしょう。自分の外にある対象物を、指先で押して操作する。それに対して、同じタッチパネルでも、iPhoneを操作していると、iPhoneと自分とが一体になっているような感覚が得られます。
こうしたジョブズの考え方やそれに基づいた振る舞いが、他人からはクレイジーにも見えたのでしょう。
1997年にアップルに復帰したときに、ジョブズが同社のテレビCMで世に放ったのが「Here's to the crazy ones.」で始まるコピーでした。
たぶん、彼自身は自分がクレイジーだとは思っていなかったと思います。むしろ、「自分は真っ当で、人類を前進させるために頑張っている。それなのに、気がついたら自分が興した会社を追い出されたり、人格を非難されたりする……」と、寂しい思いをしていたのではないでしょうか。そのときに、「人類を前に進めた偉大な人たちは、みんなクレイジーだと言われてきたんだ」と、自分への「慰み」として、このコピーが出てきたのではないかと思います。
ジョブズは、デジタル領域とネットワークが人類を変えるとピュアに信じていた。だから、クレイジーだと言われようと、成功できたのです。
スティーブ・ジョブズ(1955~2011)
米国生まれ。1976年、スティーブ・ウォズニアックとともにアップルを創業。『マッキントッシュ』などを世に送り出すが、85年に同社を追放される。その後、NeXTの創業、ピクサーのCEOを経て、97年にアップルに復帰。98年、『iMac』を発売してヒットさせる。2000年、アップルCEOに就任。同年、『iTunes』と『iPod』で音楽事業を開始。07年、『iPhone 』を発表。11年、がんのためCEOを退任。
《取材・構成:川端隆人写真撮影:稲垣純也》
《『THE21』2015年6月号より》
更新:11月25日 00:05