2015年07月22日 公開
2023年01月05日 更新
よく「海外で営業するのは大変でしょう?」と聞かれますが、私はむしろ海外のほうがセールスはしやすいと感じています。なぜなら、海外では日本企業の価値が高いからです。とくに私たちが勝負をかけている東南アジアや南アジアでは、「日本製品は品質が良い」「アフターサービスも行き届いていて安心」といった好印象を持たれています。なぜ他の日本企業は、このアドバンテージを活用して積極的に海外へ打って出ないのか不思議なほどです。
ただし“日本人”については、「態度が曖昧で何をしに来たのかわからない」「意思決定が遅い」といったイメージを持たれているのも事実。海外ではわかりにくい表現は嫌われます。ですから私は初対面の相手と会うと、まず最初に「自分は何をしに来たのか」という目的をズバッと伝えます。合弁会社を立ち上げるための商談なら、「一緒にビジネスをしませんか」という曖昧な言い方ではなく、いきなり「50:50の出資比率で、合弁会社を作りましょう」と目指すゴールを明確に伝えるのです。日本で営業というと、「まずはご挨拶に来ました」というところから入るかと思いますが、海外ではそんな前置きは必要なし。海外で信頼を得るためには、とにかく明快かつ端的に話すことが必要です。
とはいえ、初対面の相手に、いきなりこちらのビジネスプランについて話すわけではありません。会って最初の一時間は、私の口から出るのはほとんどが“質問”。相手が何に関心を持っているかを聞き出すのです。相手が興味のないことをいくら話しても、聞き流されるだけ。もちろん商談の前に現地の事情をリサーチし、「相手が望んでいるのはこんなことだろう」という仮説は立てますし、そのためのプレゼンも用意しますが、実際にその場で話すことは、質問に対する相手の答えによって臨機応変に変えていきます。
では、この「質問力」をどう磨けば良いかというと、残念ながらマニュアル的なものはありません。唯一の方法は、普段からアンテナを高くすること。相手がなにげない会話の中で発した重要なひと言をキャッチして次の提案へつなげられる営業と、そのひと言をスルーしてしまう営業がいますが、その違いはアンテナの高さです。それは意識の差とか、執念の差と言い換えてもいいかもしれません。
私は常に、仕事上の課題について考えています。飛行機の中でも電車の中でも、「解決するまで絶対に諦めない」という気持ちで考え続けます。といっても、そのときには答えが出ないことのほうが多い。しかし考え続けていると、商談や交渉の場面で相手のふとした言葉がアンテナに引っかかり、解決策がパッとひらめくのです。
ですから営業で必要とされる「話し方」は、決してテクニックではありません。自分の考えや生き方そのものが問われるのだと、私は考えています。
今回は海外での営業経験を中心にお話ししましたが、これは何も海外での営業に限ったことではありません。日本国内で営業をする人たちも、信念を語ることはできるはずです。
私が最近出会ったある金融機関の若手社員は「僕は自分の会社を、お客様から好かれる証券会社にしたいんです」という信念を語ってくれました。日本では証券会社というだけで、リスクの大きい商品を売る会社だと思って敬遠する人も多いが、そのイメージを自分が変えてみせると言うわけです。その言葉を聞いて、私は素直にすごいなと感心したし、こういう営業マンなら応援したいという気持ちになりました。「この人を応援したい」と思えば、「条件的には他にもっといいところはあるけれど、あなたから買うことにするよ」と言ってくれるお客様も出てくるでしょう。信念を語る言葉を持つことは、営業にとって非常に大きな強みになるのです
更新:11月23日 00:05