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ガンホー・森下一喜 行き詰ったときは思い切って脱線しよう

2014年11月04日 公開
2022年08月08日 更新

森下一喜(ガンホー・オンライン・エンターテイメント社長)

『THE21』2014年11月号より》

 

 驚異の3千万ダウンロードを突破したスマホ向けパズルゲーム「パズル&ドラゴンズ」。その生みの親であるガンホー・オンラインーエンターテイメント〔株〕社長の森下一喜氏は、経営者でありながら自らゲーム開発の先頭に立つ。
 「ケリ姫スイーツ」「ピコットキングダム」などのヒット作を生み出し続ける会社を率いる、森下氏が日々心がけていることとは?

 

まずは自ら仕事を楽しむ姿勢を持つ

 ゲームを作るうえで、最も意識しているのは、「ゲーム作りを楽しむ」ことですね。

 ゲームの制作現場は、外からは華やかで楽しげに見えるかもしれませんが、当然ながら、楽しいことばかりではありません。売れるかどうかわからない不安もあるし、予算や納期に対するプレッシャーもある。なかなか面白いもの、納得がいくものができず、産みの苦しみを味わうことも少なくありません。

 しかし、その状況を「つらい」「苦しい」と感じながら、ゲームを作っていると、必ずアウトプットに表われます。たとえば、遊び心がなくなり、既存のゲームと似通った無難な作りにな

る。そんなゲームが面白いはずがありませんよね。

 楽しさや面白さを提供したいなら、まずは、自分たちが楽しむこと。そうすることで肩の力が抜けてきて、面白いアイデアが浮かぶようになります。

 理想は、スタッフみんながゲーム作りを楽しんでいることです。すると、何も言わなくても、プログラマーやデザイナーが「こんなふうにしたら面白いと思ったので、作ってみましたけど、どうですかね?」と独自のアイデアを加えたものを出してくるようになります。そんな状況が作れれば、自ずと面白いゲームに仕上がっていきます。

 ただ、「楽しもう!」と言うだけでは、スタッフの心は動かせません。少なくとも、僕が眉間にシワを寄せて仕事をしていたら、スタッフも楽しめませんよね。だから、僕が率先して楽しむ姿を見せるというわけです。

 順調に進んでいるときはもちろんですが、何かトラブルがあったとしても「ドラマが起きたね~」とそのシチュエーションを楽しんでしまいます。「面白いゲームを作ろう」という姿勢

がスタッフから感じられれば、発売日が遅れてもアイデアがイマイチでも、とがめることはありません。

 仕様などを決める会議をしていて行き詰まってしまい、場の雰囲気が悪いときには、ゲームと関係ない方向に、話を脱線させます。『人志松本のすべらない話』じゃないですけど、昨日あった面白い話とか、とてもこの誌面には書けないような下らない話をし始める(笑)。

 そうしてフル脱線させると、「あっ、それ面白いですね!」というように、脱線した話から、行き詰まった状況を打開するヒントが得られることがあります。そうならなかったとしても、少しはリラックスしたムードになるのかな、と。

 そうやって僕が楽しそうにしている姿を見せることで、スタッフも「あ、自分も楽しもうかな」という気になるんじゃないか、と思っています。

 

過酷な仕事であっても何かしら楽しさがある

 振り返ってみると、「仕事を楽しむ」という考え方は、ゲームの世界に入る前、20代の頃からありました。

 実は、僕は20代前半の頃、お笑い芸人を目指していた時期がありまして、そのときにいろいろなバイトをしていました。高収入だけどキツい仕事もありましたね。

 今でも覚えているのは、エアコンのオーバーホールの仕事です。夏の暑い中に室内で行なうのですが、エアコンが止まってぃるうえ、養生を部屋中に敷いているので、呼吸が苦しくなるぐらいの暑さ。エアコンは高いところにあるので、ずっと上を向いて作業をします。正直、肉体的には相当キツかった。

 でも、そんな仕事にも、楽しみを見出すことはできました。たとえば、電動ドリルでネジを締めるとき、いかに最小限のドリルの回転でネジを締めるかを追求し、1人密かに楽しんでいた。また飲食店の仕事だと、たまに「ラーメン、食べて行きなよ」とごちそうしてくれたりするんですよね。それがすごく嬉しくて「次の店でも何か食べられるかな?」と行く先々で期待していました(笑)。

 そうやって些細なことでも楽しみを見出していくと、仕事にも身が入る。すると、仕事ができるようになり、ますます楽しくなるんですよね。

 また、23歳のときに、販売管理などのシステム構築会社に入社し、営業マンになったのですが、そこでは、誰もしていない方法で成績を上げることに楽しみを見出していました。単に期待されていなくて、会社から見込み客を紹介してもらえず、放置されていただけなのですが。「見返してやる!」と思いましたね。

 まずはタウンページの1ページ目を開き、片っ端から電話をかけました。無謀でしたが、「ウチが何屋か知っています?」と言われて、「仕事内容がわかる会社にかけないと話がかみ合わないな」と気づきまして。僕が理解できるレコードなどのエンタメ業界の会社に集中的にかけたら、契約が取れるようになったのです。以来、新人営業マンは僕と同じ方法で営業するようになり、ちょっとは見返せました。

 仕事は、人生で最も多くの時間を費やすこと。どうせやるなら、楽しんだほうが得ですよね。ほんとうにやりたい仕事ではなくても、考え方次第で楽しみはいくらでも見つけられる。楽しい人生が送れるかどうかは、その発想の転換ができるかどうかで決まってくると思います。

 その時は嫌な仕事だったとしても、あとで役に立つこともある。多くの仕事をした経験は、ゲームを開発するうえで、「何か面白いか」を判断するときの基準を形作りました。そう考えると、人生で経験してきたことは何一つとしてムダじゃない。エアコンの仕事をはじめ、かつて仕事をさせていただいた方とは、今でもつきあいがありますが、本当に感謝しています。

 

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