2014年09月08日 公開
2023年05月16日 更新
営業出身の企業トップというと真っ先に思い浮かぶ人の1人が、TOTOの張本邦雄会長だ。しかしその営業マンとしての歩みは、決して順風満帆なものではなかった。そんな張本氏がお客様と話をするにあたり、決して妥協をしなかったことがあるという。それは何か。40年にわたる経験をお話しいただいた。
※本稿は、『THE21』2014年9月号より一部抜粋・編集したものです。
<取材・構成:塚田有香/写真撮影:永井浩>
入社以来、営業一筋というと、新入社員のころからさぞや活躍していたと思われるかもしれません。でも、実際には逆。最初の注文を取るのに1年半もかかりました。ただ、これには理由があり、私か入社した1973年は、ちょうど第一次オイルショックが始まった年だったのです。
私は洗面化粧台や浴室を大手の建設会社や住宅会社に営業する部署に配属されたのですが、オイルショックのため生産が追いついていませんでした。私の最初の仕事は、「受注いただいた商品ですが、納入できなくなってしまいました」と、取引先に謝りに行くことでした。
ただ、半年ほどで取引先への謝罪が一巡すると、もうやることがない。営業なのに売るものがないのですから。とはいえ、オイルショックはいずれ収束し、生産も回復するはずです。お客様との人間関係を作っておかなければ次のチャンスは掴めません。
先輩社員を見ると、お客様とすごく親しげに話している。でも、じゃあ何を話したらそんな人間関係が作れるかは、誰も教えてくれません。自分なりに考え、人間関係は訪問回数と時間に比例するはずだと、用がなくても担当先に足を運び続けました。売る商品がありませんから、世間話だけして帰ってくる。
でも、何度も通い続けているうちに、「お客様と営業」の関係から「人と人」の関係に変わったと感じる瞬間がくるのです。すると、「近くまで来たので寄りましたが、お茶でもどうですか?」と誘って、いろいろな話ができるようになります。まあ大半は「最近仕事どうです?」といった他愛もない話でしたが、相手がぽろっと重要な情報を教えてくれることも増えました。
最近は雑談が苦手な営業が多いようです。私は、雑談の秘訣は「みっともない話ができること」だと思います。恥ずかしいことや弱点をあえて自分から言ってしまう。すると相手も「そこまで胸襟を開いてくれるなら」と心を許してくれる。それが信頼関係構築のスタートです。
当時は、人間関係がビジネスに直結する可能性が高いよき時代でした。今は当時と違い、ふらっと行って無駄話につき合ってくれる時代ではないかもしれません。ただ、「人と人」の関係の重要性は変わりませんし、そのスタートはやはり、こちらからアプローチすること、直接会って話をすることだと思います。
更新:11月22日 00:05