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TOTO会長・張本邦雄氏「営業に大切な『NO』という勇気」

2014年09月08日 公開
2023年05月16日 更新

張本邦雄(TOTO代表取締役会長)

 

できない理由をはっきり伝えれば、信頼される

もう1つ、私かこだわっていたのは「できないことにはNOと言う」ことです。弊社の製品は決して安くはなく、「御社の商品は高くて使えないよ」と言われることもありました。ここで普通は「じゃあ値引きを」となりますが、私はむしろ「なぜ高いのか」の理由を話しました。

「質の高い原料を使い、検査に時間と手間をかけているので高いのです。ただ、欠陥品が出る確率は低く、長いスパンで考えると、決して高くはないと思います」「弊社はアフターサービスに至るまでコストをかけているので、お客様のおっしゃる価格では合いません」などと、はっきり理由を伝えました。

実は私が最初の注文を取れたのも、まさにこの姿勢をご理解いただけたからでした。あるお客様から何度も「価格を下げてよ」と言われ、そのたびにできない理由を伝え続けていたのですが、ある日突然、300台近い数の洗面化粧台を大量発注してくださったのです。

驚いて理由を尋ねると、「TOTOさんが値引きできない理由はよくわかったから、他の内装工事のコストを下げて、洗面化粧台の予算を増やしたんだよ」とのこと。営業冥利に尽きる体験でした。

私はよく若い人たちに、「営業はNOと言う勇気を持て」と話しています。ウソを言ったり、ごまかしたりしたら、のちのちまで尾を引きます。

たとえば、その場しのぎで「一度会社に持ち帰って上司と相談します」などとお茶を濁しても、「この人は自分で何も決められないのか」と思われるだけ。長いおつき合いを望むなら、理由とともに「できないものはできない」と明確に伝えたほうが、相手の信頼を得られます。

ちなみに、これは営業テクニックにもなります。「○○の理由でできない」とお断りした件が、技術の発達でクリアされたら、改めて「○○が解決しましたので、ぜひ」とお伝えすれば、お客様も断れませんよね(笑)。

ともあれこの「受注の取れなかった1年半」は、その場しのぎの営業はしないというその後の私のベースとなる原体験でした。ただ、私の営業スタイルがずっと評価されてきたわけではありません。

1980年代に入ってバブルが加熱すると、弊社にも「値引きをしてでも、売り上げを上げたものが一番」という風潮が生まれました。私は値引きをしないので、注文が入れば儲かりますが、なかなか数は上がらない。数を上げる人ばかりが評価される風潮に、内心忸怩たる思いを抱いていました。

再び流れが変わったのは、バブルが崩壊し、TOTOがリフォーム市場への取組みを強化する方針へ転換したころです。私は営業改革プロジェクトに参画し、メンバーを巻き込んで営業をガラリと変えていきました。

具体的には、「販売革新プロジェクト」を2000年からスタートさせ、「流通営業から接点営業」「御用聞き営業からソリューション営業」「属人営業から組織営業」のキーワードを掲げ、社内組織と販売網の体制を大きく変えたのです。

人間関係の構築は成果に直結するものではなく、悩みを共有することがスタートになります。顧客との接点である工務店やリフォーム店などに行き、一緒になってそのお店の課題を解決するタイプの営業に変えていくことを目指したのです。

考えてみれば、営業ほどブラックボックスはありません。成功した上司の話し方をそのまま真似しても、同じ成果が出るとは限らない。にもかかわらず、上司は過去の成功体験に縛られがちです。よく営業ほど保守的な部署はないと言われるのは、そのためです。

これを変えるには、若い人から変えねばならない。そこで2005年から、「ソリューション塾」を主宰し、営業所の係長クラスを集め「問題解決型営業とは何か」を考えてもらいました。また、2006年からは「トイレプロジェクト」を実施し、各支社の中堅クラスを集めて、「トイレのリフォームを増やすにはどうすればいいか」を議論させました。

ポイントは、マネージャーたちが後ろで見ていることです。特徴的だったのは、発表の際に一見、スムーズな人ほど、あとで行き詰まることです。彼らは議論の場で理想やきれいごとしか語らないから最初はスムーズです。

でも本質的な話をしていないから、どこかで行き詰まる。一方、お客様と衝突しながら苦労している人ほど、本質的な議論ができており、ある時点で両者ともに肚落ちしたとき、ものすごい勢いで前に進むのです。

だから私は、一見行き詰まって悩んでいる人こそ褒めました。そして、それを上司たちが見ている。社内の意識は確実に変わっていきました。時代は大きく変化しましたが、私の基本スタイルである「人と人との関係を作る」「NOの理由を説明する」などの意義は変わっていないと思います。

ただ、誰もがこのとおりにやる必要はありません。私は、営業の本質は「個性」だと考えています。型にはまった営業マンでいいのなら、ロボットにでもやらせればいいのです。話が苦手ならば、相手の話を一生懸命聞く姿勢を強みにしてもいいし、約束の15分前には必ず到着し、自分の熱意や誠実さを伝えてもいい。

もちろん、それを嫌がるお客様もいるでしょう。ただ、極論かもしれませんが、なら自分の個性と合うお客様を探して、つき合えばいい。私のことだって、嫌いな人は嫌いなはずです。でも、それでいいと思っています。

自分の個性を曲げて相手に合わせても、あとあとつらくなるだけ。営業に正解はないのです。そもそも私は、営業を面白いものだと思っていません。だからこそ、「無反応だったお客様が、今日は相手から挨拶してくれた」など、小さな変化を体感し、そこに楽しみを見出す努力をしてほしいと思います。

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