2014年05月12日 公開
2022年12月26日 更新
自由に発想を広げるための時間の使い方のキーワードとして、前刀氏は「ストレスをなくす」ということを挙げる。そうした意味で、一度立てた予定に固執することも、かえってよくないという。
「私はいつも同時並行でいろいろなことを考えるクセがあります。そのため、たとえばプレゼンの準備をしているとき、ふと気が散って別のアイデアが思い浮かぶこともあります。そんなとき、私はプレゼンの準備をいったん止め、そのアイデアを突き詰めるために時間を使います。
多くの人は、『予定を立てたら、それをしっかり守るべき』と考えますよね。でも、そのことがストレスになってしまっては本末転倒ですし、そもそも、せっかくの『思いつき』を大事にしない手はありません。
何かを思いついたということは、前よりもいい方法を思いついたということ。だったらそれを突き詰めたほうが成果は上がりますし、長い目で見れば時間短縮にもなるはずです。
もちろん、アポイントなどはずらせませんが、それ以外のことに関しては、事前に立てた予定にあまりとらわれないほうが、発想は広がっていくのです」
また、目的を考えずにタイムマネジメントの手法だけを真似することも、同じくストレスにつながると指摘する。
「おそらく今回の特集では、私の他にもいろいろな方が、いろいろな時間の使い方をお話ししてくれているはずです。それらは非常に有益な知識だと思いますが、自分の目的に合っているかを考えず、片っ端から真似をしても、効果は得られないでしょう。そして、『今日もこの方法が実践できなかった』と悩む。これが一番無駄な時問の使い方ですね」
タイムマネジメントをするにあたっては、仕事のスピードを上げることの「目的は何か」をまず考えるべきだと。前刀氏は主張する。つまり、何のためにこの限られた時間を使いたいのか。単に「仕事のスピードを速くしたい」というだけでは、絶対にスピードは上がらないという。
「タイムマネジメントは、自分を見つめ直すチャンスでもあります。どういうふうに時間を使うか、あるいは使いたいかは、自分がどういう人間になりたいか、どういうキャリアを歩みたいかとイコールだからです。
もう1つ見直すべきは『その仕事はほんとうにやったほうがいいのか』ということです。日本の企業ではとくに、大した理由もないのに何十年も続けているようなことがいろいろとあるものです。
私はソニーなどの国内企業、そしてディズニーやアップルなど海外の企業の双方にいたからわかりますが、日本企業にとってはとくに、会議とレポートが大きな無駄になっています。
また、近年、学生がネット上から気軽に企業の募集にエントリーできるようになっているのですが、そのため応募者が増え、人事が学生の対応に忙殺されているというケースが増えています。私の知っているある企業はそこで、思い切ってネット上での募集をやめてしまいました。ほんとうにやる気がある人は、電話など別の方法で応募してくるはずだと考えたのです。
結果、応募者は減り負担が軽減されたのはもちろん、面接に時間を使って採用した人材のレベルは上がったそうです。つまり、その他の学生のために使っていた時間は、まったく無駄だったということです」
ここまで、「いかに新しいことを発想するか」というテーマで時間術についてうかがった。人によっては「自分は企画をしているわけではないから、関係ない」と思うかもしれない。だが、「それは大きな誤解」だと前刀氏は指摘する。
「今の日本で、与えられたことをただこなすだけ、つまり『自分の時間を売ってお金を稼いでいる』という人はまだ多いかもしれませんが、それではいずれ行き詰まります。実際にそんな発想でやっていける仕事は、今やほとんどないはずです。
どんな仕事でも新しいアイデアや工夫が求められている以上、『いかに新しいことを、いかに早く、自分らしく発想するか』は、あらゆる人にとって大事なことだと思います」
【前刀禎明(さきとう・よしあき)】株式会社リアルディア代表取締役社長。1958年愛知県生まれ。慶應義塾大学大学院管理工学修士課程修了。ソニー、ペイン・アンド・カンパニー、ウォルト・ディズニー、AOLを経て、1999年ライブドア創業。2004年アップルコンピュータ(現アップル)マーケティング担当バイスプレジデント(副社長)に就任、同年アップル日本法人代表取締役を兼務。「iPodの仕掛人」と呼ばれ、ジョブズ氏に託された日本においてアップル復活を果たす。主な著書に『人を感動させる仕事』(大和書房)など。
更新:11月28日 00:05