2011年04月12日 公開
2023年05月16日 更新
《『THE21』2011年5月号総力特集「ここが違う!仕事が速い人の習慣」より》
『THE21』5月号の総力特集では、一部~三部で合計15人の「仕事が速い人」たちにご登場いただき、そのスピード仕事術をうかがった。しかし、「自分にはなかなか真似できそうにない」「何から取り組んだらいいかわからない」という読者もいるかもしれない。
そこで、この総力特集を総括する意味も込めて、仕事が速い人たちに共通する5つのポイントから、「仕事が速い人」に生まれ変わるためのヒントを探ってみた。(記事内のP.○○という表示は『THE21』5月号の該当ページ数です)
仕事が速い人は、じつは意外に疑り深い。言い換えれば「疑問をもち、自分で考える習慣」が身についている。
P.22で小室淑恵氏が、「仕事が速い人と遅い人の差は、仕事の受け取り方に表われる」と述べているように、仕事が速い人は指示された仕事をそのまま受け取ることはしない。その仕事の目的は何か、それにはどのような手段がふさわしいのかをまず考えて、相手に確認をとってから仕事に取り掛かるのだ。「仕事が遅い」という自覚がある人は、ただ「わかりました」といって仕事を請けてしまってはいないか、振り返ってみる必要があるだろう。
仕事の指示だけでなく、ふだん何気なくやっている仕事にも疑問をもつことが大切だ。いままでこうしてきたという「慣例的な仕事」(P.38・吉山勇樹氏)にも、ムダが潜んでいる可能性がある。そうした仕事をゼロベースで見直すことで、仕事のスピードアップが図れる可能性は高い。
そしてさらに一歩進んで、「洞察力を働かせること」(P.15魚谷雅彦氏)が大切だ。仕事が遅い人は、「どこかに正しい答えがあるはず」と、必死になってリサーチをする。だが、そんなものはいつまで経ってもみつからない。ビジネスに正解はなく、あるのは仮説だけだからだ。仕事が速い人は調査から正解を導くのではなく、洞察力によって仮説を立て、それを自らの行動によって正しいと証明しようとする。この思考の組み立て方こそ、彼ら・彼女らが、他人の何倍もの速さで成功を手にする秘密なのだ。
多くの人が、「仕事は80%でいい」(P.20・松沢幸一氏)、「完璧主義より合格点主義」(P.35・豊田圭一氏)と異口同音に語るように、「反完璧主義」も、仕事が速い人たちに共通する特徴だ。
真面目な人はつい、「仕事なのだから細かい部分もきちんとしなくては」と考えてしまうものだが、それが仕事を遅くする原因になっている場合も少なくない。第二部の「片づけ編」に登場してくれた桃山透氏が、「整理の最大の解決策は捨てること」(P.36)と教えてくれたように、仕事のスピードアップを図るにも、不要なものを思い切って捨てることが必要なのだ。
とはいえ、仕事が速い人のなかにも弁護士の本村健太郎氏のように、「自分は完璧な仕事ができているか、と自問する」(P.61)という人もいる。だがその本村氏が、「無理だと思ったら、『できません』と上司や周りの人に相談したほうがいい」(P.61)とアドバイスをしていることに留意してほしい。本村氏がいう「完璧」とは、なんでもかんでも自分でこなそうとすることではなく、自分の時間や労力という資源を、もっとも必要なところに効率よく投入する「選択と集中」を指しているのだ。「自分が知っている一割をピンポイントでしゃべることで、あとの九割も知っているようにみえる」(P.59)と語ってくれたタレントの土田晃之氏の会話術にも、共通したものがうかがえる。
その意味で、仕事が速い人たちは、そうでない人たちより「自分の強み」をよくわかっている、といえるだろう。自分に足りないものを数え上げるより、自分はどんなことが得意なのか、何に力を入れたら能力を活かせるのかを考えて、そこに注力したほうが、仕事のスピードを大きく伸ばすことができるはずだ。
仕事が速い人に共通するポイントの3つ目は、「上手に自分をその気にさせている」点だ。
たとえば、アレックス社長の辻野晃一郎氏は、「仕事のスピードを上げるには、話すのでも食事でも本を読むのでも、とにかくなんでも速くやることを心がけるといい」(P.17)と述べている。頭で仕事を速くしたいと思っても、それだけではなかなか効果は挙がらない。だが、行動1つひとつのスピードアップを心がければ、必ず確実な効果が得られる。そうして「仕事が速くなった」という効果を実感することが、習慣化への第一歩になる。
とはいえ、疲れてしまったり、モチベーションが上がらなかったりすることもあるだろう。そういう場合、無理をしないのも仕事が速い人たちの特徴。サッカー日本代表選手の遠藤保仁氏も、「モチベーションが上がらないときにやってもいい練習ができないので、無理はしない」(P.57)と語っていた。「集中力には抜きどころがある」(P.57・遠藤氏)というように、自分のコンディションに応じて力を加減することが、スピードを保ちつつ質のいい仕事をするコツなのだ。
それでも、なかなか仕事に集中できないという人は、経営コンサルタントの山崎将志氏が大胆に提言してくれたように「一度思い切って遊んでみる」(P.25)という方法もある。夢中になれる何かがあれば、そのぶん仕事を速く終わらせたくなるはず。決して仕事をサボるのではなく、自分の欲求をいい方向に導いていくことが、仕事のスピードをアップさせるエネルギーになるのである。
もしかしたら、仕事があまり速くない人は、「仕事が速いヤツはきっと自分の都合で人に仕事を押しつけて、自分はラクをしているに違いない」と思っているかもしれない。だがそれは大きな誤解だ。
たしかに仕事の速い人の多くは、一見、自分の都合を優先する「せっかち」にみえる。タレントの関根麻里氏も「思い立ったら急遽連絡します。メールも面倒なので、すぐに電話をかけちゃいますね」(P.55)と話していたし、イタリアン・シェフの川越達也氏も、「時間をムダにしたくないという気持ちが強い」(P.51)と語っていた。
だがそれは、自分勝手なのではなく、躊躇せず合理的に行動することが、自分にとっても周りにとってもプラスになると、彼ら・彼女らが考えているからなのだ。
第二部・コミュニケーション編の松本幸夫氏が、「仕事が速い人は相手の予定を意識している」(P.40)と教えてくれたように、じつは仕事が速い人ほど、周りの人の状態や行動に気を配っているものだ。だから、適切なタイミングで上司に相談したり、同僚や部下に仕事を頼んだりすることができて、短時間で成果を出すことができるのである。
仕事の遅い人のなかには、「人に頼むより自分でやったほうがいい」と考える人は多いもの。しかし、そこには往々にして「自分の好きにやりたい」「邪魔されたくない」という気持ちが隠れている。そう考えると、仕事が遅いと悩んでいる人こそ、自分のエゴで仕事を滞らせていないか、反省してみる必要があるだろう。
最後に、「仕事が速い人」はやっていて、「仕事が遅い人」はあまりやっていない習慣について述べたい。それは、「緊急でない重要なこと」に、必ず時間を遣っていることだ。
多くの仕事があると、人はつい、目の前の「緊急な仕事」に注意を奪われがちだ。しかし、もしかしたら、その仕事は緊急であっても重要ではないかもしれない。何より怖いのは、そうした雑事に時間と労力を奪われることで、「いますぐやらなくてもいいが、いずれはやっておくべきこと」に時間を使えなくなってしまうことだ。
この「緊急でない重要なこと」に注目することの大切さは、『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著/キングベアー出版)をはじめとした多くのビジネス書でも述べられているが、仕事が速い人はそれを見事に習慣化している。
川越達也氏が、「どんなに忙しくても、気になるお店に直接足を運ぶ時間は確保している」(P.50)と語るのもそうだし、アナウンサーの秋元優里氏が、「気になった記事を切り取って、スクラップとしてまとめている」(P.53)というのもその一例だ。彼ら・彼女らは、「緊急でない重要なこと」に時間を投資すれば、それが後々何倍もの効果となって返ってくることを知っているのだ。
もちろん、お金の投資で失敗することもあるように、重要だと思ったことが、それほど役に立たないこともあるだろう。しかし、それは「まったくのムダ」ではない。それこそ仕事を速くするために、欠くべからざる「必要なムダ」(P.53秋元優里氏)なのである。
更新:11月25日 00:05