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「黒字なのにお金がない」はなぜ起きる? 損益計算書に出てこない“1億円”

2026年10月16日 公開
2026年10月16日 更新

太田朝子(経営アドバイザー)

「黒字なのにお金がない」はなぜ起きる? 損益計算書に出てこない“1億円”

損益計算書の利益は、本当の利益とは限らない。借入金返済や在庫が生む「黒字なのに現金が減る」仕組みを解説してもらった。

※本稿は、太田朝子 著『売上が下がっても利益が増える 会社のお金の残し方』(日本実業出版社)の内容を一部抜粋・編集したものです。

 

損益計算書の「利益」は、本当の利益なのか?

損益計算書の利益を分析することはとても大切です。しかし、そこに書かれた利益は、「本当の利益とズレている」ことがあります。

名づけて「損益計算書の罠」。これにハマると、「利益は出ているのにキャッシュがない⁉」という摩訶不思議な現象が起きます。私も最初のころは、この罠に見事に引っ掛かり、通帳を見て青ざめた1人でした。損益計算書の利益を信じすぎるのは危険です。ここでは代表的な2つの罠、「借入金返済」と「在庫」を見ていきます。

 

「借入金返済」は損益計算書の「外」で消える

経営に本格的に携わって2年目の決算。「やった!赤字脱出、純利益1800万円!通帳残高も増えているはず...」

ワクワクしながら数字を見た瞬間、目を疑いました。

「...あれ?増えるどころか減ってる⁉」

そのとき、私は典型的な「損益計算書の罠」にハマっていたのです。残高が減った理由は実に単純です。損益計算書には借入金の「返済元本」が出てこないからです。しかし、そうとも知らず、当時の私は、頭の中がお花畑でした。

「損益計算書に『利息』の記載はある。利息があるなら、元本もどこかに書かれているはず。私が、たまたま見つけられないだけだろう」本気でそう信じていました。

しかし、残念ながら元本はどこにも書かれていません。利息は経費になるので損益計算書に出てきますが、元本は経費にならないので損益計算書には出てこないのです。

一方、通帳のなかでは次のようなことが起きています。

話をわかりやすくするために、「利益」と「返済元本」だけで「ざっくり」計算すると、利益が1800万円出ていても、同じ年に元本を1億円返していたら、通帳の残高は8200万円分減ることになります。

黒字なのにお金が減る。これを損益計算書の罠と呼ばずに、何と呼びましょう。

まるで、満席で大忙しの飲食店なのに、閉店後のレジに現金がほとんど残っていない。そんな状態です。

「じゃあ元本はどこへ行ったの?」と思いますよね。

答えは、損益計算書の「外」。貸借対照表の借入金が減っているだけです。

つまり、損益計算書は「どれだけ儲けたか」はわかっても、「キャッシュが増えたか」はわかりません。

私は当時、「利益=キャッシュ」と無邪気に信じていましたが、この経験で視点が変わりました。

利益とキャッシュは別物です。だからこそ「返済元本」の存在を忘れてはなりません。

 

利益を狂わせる「見えない敵」

在庫が増えると、帳簿上の利益はなぜか増えて見えます。

この在庫と利益の関係を理解していないと、損益計算書を見たときに大きな勘違いをして、罠にはまります。もちろん、私もモレなくはまった1人です。

まず前提として、在庫とは「会社に残っている商品や材料」のことです。

まだ売れていない、まだ使いきっていない、いわば「会社のなかで待機中のもの」です。この「在庫」は、「会社の持ち物」なので貸借対照表に載ります(貸借対照表は持ち物リストでしたね)。

そのため、「在庫」そのものは損益計算書には登場しません。代わりに登場するのは、「今期に売った分の原価」です。ここでいう原価とは、今期に売れた分にかかった「仕入代」や「材料代」などのことを指します(損益計算書でわかるのは今期の成績でしたね)。

では、売れ残った分はどうなるか。そう、「在庫」として残ります。

つまり、「売れた分」は原価になり、「残った分」は「在庫」になるのです。

たとえば、商品を100万円分仕入れ、そのうち60万円分が売れたら、その60万円は今期の原価になりますが、倉庫に残った40万円分の商品は在庫になります。

一方、同じ100万円分を仕入れても、60万円分の在庫がある場合は、40万円が今期の原価になります。

このように、在庫と原価はシーソーのように連動して動きます。

帳簿上では、在庫が増えるほど今期の原価は小さくなり、在庫が減るほど今期の原価は大きくなります。

原価は、利益を計算するときに売上から差し引かれる金額です。

そのため、原価が増えれば利益は減り、原価が減れば利益は増えます。

これを踏まえると、在庫と利益の関係は次のようになります。

・在庫が増えると、原価が減り、利益が増える
・在庫が減ると、原価が増えて、利益が減る

つまり、在庫が増えると利益が増えるという理屈になるわけです。そのため、在庫を高く評価しすぎると、利益が実態より大きく見えてしまうことがあります。

ただし、これはあくまで帳簿上の理屈です。現実には、仕入れた時点でお金はすでに出ていることを忘れてはいけません。

先ほどの例でいえば、売れた分が60万円で在庫が40万円分でも、仕入にかかったお金は100万円です。売れた分が40万円で在庫が60万円分でも、同じく100万円が出ていっていることに変わりはありません。

そのため、損益計算書上で利益があるからといって、通帳の中の現金が増えているとは限らないのです。しかも、帳簿上の利益が増えれば、税金という名のキャッシュが多く出ていく場合もあります。

つまり、在庫を抱えすぎると「帳簿では黒字なのに、通帳の残高は減っていく」という罠にはまってしまうのです。この状態を放っておくと、「黒字倒産」という、「会計界のホラー映画」の上映がスタートしてしまいます。

【図解】在庫が増えたら・減ったらどうなる?(イラスト:しゅんぶん)

プロフィール

太田朝子(おおた・あさこ)

経営アドバイザー

年商4億円の中小企業で借金10億円を10年で実質ゼロにした元取締役経理部長。立教大学法学部卒業後、フリーの研修講師として企業や大学で登壇。2010年に嫁ぎ先の部品加工会社に入社。当時の会社は、リーマン・ショックの影響で、10億円以上あった売上が半分以下に激減。「借金10億円」「純利益率−24%」「自己資本比率7%」の瀕死の状態。経営・経理の知識ゼロから、請求書やレシートを1枚ずつ洗い直し、埋もれていた会社の実態を数字でつかむ。数字と現場の両面から再建を進め、売上は4億円台のまま、コロナ禍に借金を実質ゼロに。会社を退く2024年には「純利益率11%」「自己資本比率45%」まで成長。経営とは「会社の真実を見つめること」、経理は「経営の土台をつくる司令塔」、個人は「幸せを感じるためにお金を使おう」をモットーに、企業と個人向けに「仕分」のノウハウを伝授中。

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