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ベンチャー社長・出雲 充 氏の「超・効率的仕事術」

2013年04月30日 公開
2022年12月19日 更新

出雲充(株式会社ユーグレナ社長)

『THE21』2013年5月号より》

わずか0.05mmの身体に動物性、植物性の両方の栄養素を含み、驚異的な光合成能力で二酸化炭素を効率よく吸収する微細藻類のミドリムシ。世界で初めてミドリムシの大量培養に成功し、食料問題、環境問題、エネルギー問題を一気に解決する道を開いたベンチャー企業が〔株〕ユーグレナだ。日本のみならず世界が注目する前人未到のプロジェクトを、想定よりも早く実現させてしまったのが社長の出雲充氏。一見すると“仕事が速いベンチャー社長”の代表と思える出雲氏だが、その仕事スタイルは、よくある仕事術とはひと味違っていた。<取材構成:川端隆人/写真:まるやゆういち>
   

やる順番を考えるより、来た順番に取りかかる

“フォルダ分け”こそ最大のムダである

 「2015年までにミドリムシを事業化」という目標を前倒しで達成し、昨年末には東証マザーズヘの上場まで果たしてしまった〔株〕ユーグレナ。それにもかかわらず、「自分は仕事が速いわけではない」と出雲氏は言う。

 「速かったのは、社会の変化のほうでしょう。それに乗ることで、事業化を早く達成できたのだと思います。たとえば、地球温暖化問題への関心が高まったことで、二酸化炭素を吸収するミドリムシが一躍注目を集めました。社会の要請が強くなった結果、我々が早めに“登板”させていただいたというのがほんとうのところです。

 私自身の仕事の進め方についてお話しすると、人によって合う、合わないがあると思いますが、優先順位を考える時間が一番もったいないと思っています。ですから、優先順位を考えずに仕事をしています。

 たとえば、私の電子メールのメールボックスには、フォルダが1個しかありません。『受信トレイ』だけです。フォルダやフィルタを使って、相手によってフォルダを分けたり、『緊急』『あとでやる』『プライベート』といった細かい分類をしたりしている人もいますが、私の場合は来た順番に処理していくだけ。一見些細に思えることだろうと、会社にとって非常に重要な判断であろうと、メールに関しては優先順位をつけずに届いた順番に処理していきます。『あとでじっくり考えて返信しよう』ということはしません。とにかく『受信トレイ』がすべて既読になることを目指すのです。

 また、スケジュール管理は、現状は基本的に全部自分でやっています。これも『仕事のスケジュールは秘書に管理してもらって、プライベートは自分で』といった“フォルダ分け”の手間をかけないためですね。

 携帯電話については、iPhoneとガラケーの2台使いです。iPhoneはメールなどのデータ通信だけ、ガラケーは通話だけと分けています。“フォルダ分け”のようですが、これも分類の手間をかけないための工夫です。『仕事用の通話はiPhone、プライベートの通話はガラケー。ただし緊急の際にはつながりやすいガラケーを……』といった基準で分けると、『この人にはどっちの番号を教えたらいいんだ?』といった迷いが必ず出てきます。データ通信のiPhone、通話のガラケー、と形式的に分けておけば、そんな手間は生じません。

 人に仕事を割り振る場合も同様です。当社にはマーケティング、研究開発、総務人事、経営戦略の4つの部署があって、それぞれ担当部長がいます。仕事を誰かに振らなければならない場合は、必ずこの4人の部長の誰かに振ります。これなら0.1秒で判断できますし、絶対に迷わない。情報の伝達でトラブルになったり、気を遣わせたりすることもありません」
   

“くだらない仕事”こそ差をつけるチャンス

 仕事の優先順位づけや分類に時間を使わないという出雲氏の姿勢。その背景には、そもそも“大事な仕事”と“くだらない仕事”を分けない、という考えがある。

 「私は、この世に“くだらない仕事”はないと思っています。ミドリムシのような、一見“くだらない生物”と思われる生物が世界を救う可能性を持っているのと同じように、みんながくだらないと思っている仕事にこそ、大きな可能性があるのではないでしょうか。

 私が最初に就職したのは銀行でした。店舗にあるATMにお金を詰めに行くのは新人の仕事で、これがなかなか大変なのです。たとえば、金庫から2億円の現金を出してきて、5台のATMに4000万円ずつ詰めるとなると、相当の重労働です。しかも、当然のことながら、現金を金庫から出す、金庫に戻す、といった手続きの度に、いくつもハンコをもらわなければいけない。1日3回も現金を補充したら膨大な時問を費やしてしまいます。

 現金の補充は、一見すると“くだらない雑務”のようです。でも私は、『不足せず、多すぎず、ぴったりの現金はいくらだろうか』と真剣に考えました。神田神保町の支店にいたので、本を買いに来る人がたくさんお金を下ろすタイミングや、近くの大手出版社の給料日の出金額などを観察するのです。出版社のみなさんは、給料日が晴れだと大金を引き出して飲みに行くのですが、雨が降ると会社に閉じこもってしまうのか、出金額が一気に減る、とか(笑)。そうやって情報を集めて、その日に必要な金額を予測してお金を入れておく。予測が当たると楽しいものです。逆に、大きく外れたときには、調べてみると『毎年この時期は○○社の社員総会があって本社に人がいない』といった新たな情報が手に入ってくる。“くだらない雑務”どころか、幅広く顧客や経済全体へとアンテナが広がっていくわけです。

 こういう仕事が良いのは、ポジションにかかわらず、工夫の余地があることです。いくら努力しても、新人がそう大きな業務を任せられることはありませんが、コピー取りなどの“雑務”は新人でもベテランでも同じくチャンスがあり、しかも漫然とやっている人が多いので差をつけやすい。工夫して仕事の効率を上げれば時間の余裕ができ、その時間で先輩たちの仕事を手伝えば可愛いがられて、『こっちの仕事もやってみる?』といったチャンスも回ってくるわけです。

 仕事に優先順位をつけず、あえて“くだらない仕事”に集中したほうが目立つこともあります」
   

“アタマ”を良く使えば仕事は自然と速くなる

 新人銀行マン時代から効率化の工夫に力を入れていた出雲氏。しかし、その仕事スタイルは、効率やスピード自体を目的として目指すものではない。

 「毎週火曜日の朝礼でいつも言っているのは、『ベンチャーはアタマを良く使わなくてはいけない』ということです。といっても、勉強しろといった意味ではありません。『明るく、楽しく前向きに』の頭文字を取って、“アタマ”を使おう、ということです。

 私が効率よりも大切にしていることは、明るく、楽しく、前向きに仕事をすることです。いくら社会の変化のスピードが速くて、それへの対応が必要だといっても、それでは『スピードが大事だ!』と言えば、それでスピーディになるのか。人間って、そういうものじゃないでしょう。明るく、楽しく、前向きに仕事をすれば、大きな不運にぶつからないかぎり、結果として、仕事はスピーディに進んでいくものだと思います」

 

出雲 充

(いずも・みつる)

〔株〕ユーグレナ 代表取締役社長

1980年生まれ。2002年に東京大学農学部を卒業し、〔株〕東京三菱銀行(現〔株〕三菱東京UFJ銀行)に入行後、1年で退行。2005年、〔株〕ユーグレナを設立。同年、世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功、ミドリムシを食品や化粧品として事業化。飼料や燃料などでも事業化を目指している。2012年、世界経済フォーラムにより「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出。同年、東証マザーズに上場。


<掲載誌紹介>

THE21 2013年5月号

2013年4月10日発売
本体価格 524円     

<今月号の読みどころ>
先が読めない時代は、自ら問題を発見し、アイデアを出し、解決できる人だけが生き残れる時代です。そのためには目の前にある仕事を早く片づけるだけでなく、仮説から検証まで、仕事のPDCAを高速回転することが不可欠です。しかし、「仕事が多すぎて、考える余裕がない」「段取りが苦手で、雑事に振り回される」などの悩みを抱える人も多いようです。そこで今月号の特集では、各界の最前線でご活躍されている方々に、仕事の効率化から「すぐやる人」に変わる方法、賢い24時間の使い方までをうかがいました。これを読めばできるビジネスマンに変わること間違いなしです。

 

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