2013年01月07日 公開
2022年10月27日 更新
もし転職によって、「やりたいこと」と「やるべきこと」を重ね合わせようとするなら、「経済的到達点を下げること」を意識したほうがよい、と冨山氏。
「年収1000万円の人なら『年収500万円でもいい』と収入のラインを下げるということです。すると、オファーされる仕事が増え、やりたいことと一致しやすくなります。
いまや、年収400~500万円もあれば、それなりに満たされた生活が送れる時代ですから、冷静に考えると、経済的到達点を多少下げたぐらいで、どうってことはないはずです。
しかし、現実にはこれを下げられない人が多い。自分自身の虚栄心が強いということもありますが、家族や恋人など周囲の人の虚栄心が強いというパターンも多いですね。一度上げた生活レベルを下げられないわけです。
しかし、その虚栄心を捨てなければ、たくさんの給料をもらっているのに、モチベーションが低いという最悪の状態に陥ります。年収が高いのにモチベーションが低い人は、思い切って経済的到達点を下げる努力をしましょう」
異動などによって、これまでに経験したことがなく、不得意そうな仕事を与えられたとき、多くの人は、モチベーションが上がらないだろう。しかし、そんなときこそ自分のモチベーションを高めるチャンスと冨山氏はいう。
「モチベーションが高まるのは、やりたいことをやっているときと、自分の成長が感じられるとき。未経験の苦手な仕事なら、少し何かを覚えただけでも、成長を感じられるので、モチベーションが高まりやすいのです」
冨山氏自身、そのような経験をしている。コンサルティング会社のコーポレイトディレクションで働いていた30代半ばのころ、冨山氏は、携帯電話会社に出向し、営業組織の責任者をすることになった。もっとも、出向当初はモチベーションが低かったという。
「サラリーマンをしたくないと思って選んだ仕事なのに、泥臭い営業の現場で、サラリーマン的な働き方をせざるを得なくなったわけです。さらに、東京で生まれ育った人間が関西のノリについていけるのかという不安もありました。
ただ、『泥臭い営業の世界でも、関西の会社でも、自分はやっていけるのか』というテーマを設定して、日々仕事に取り組んでいたら、徐々に楽しくなり、やる気が上がりました。
どうせやらなければならない仕事なら、モチベーションを少しでも上げたほうがいい。会社のせいだと嘆く前に、何か自分を奮い立たせるテーマが設定できないか、あがいてみるべきだと思います」
どんな工夫をしてもモチベーションが上がらないのなら、無理して頑張らないことも1つの選択肢だ、と冨山氏はいう。
「中途半端に頑張ると、往々にして周囲の足を引っ張るし、結果が少し出たら出たで、いたくもない部署に居続けるハメになる。どっちに転んでもよいことはありません。昼寝しておきましょう」
もっとも、冨山氏のいう「昼寝」とは、何もしないでダラダラ過ごすことではない。仕事以外の別のことに情熱を注ぐことだ。
「私は、こういう時期こそ、自己研鑽をするべきだと思っています。たとえば、経済学や哲学などを勉強し直してもいいし、語学を学んでもいい。これらはまとまった時間がないと身につきませんからね。左遷されたら、左遷先の史跡を巡りまくり、歴史を学んでもいいでしょう。
そんなことをしていたら、会社で冷や飯を食わされそうですが、食わされたとしても、同じ会社でも復権のチャンスはある。出世競争も、かつては一度負けたら終わりの『トーナメント戦』でしたが、いまや多くの会社で『リーグ戦』、あるいは『敗者復活戦』になっています。
トーナメントを勝ち抜いた人が業績不振で排除され、傍流にいた人が大抜擢されることは珍しくありません。そうして再び陽の目を浴びた時に、自己研鑽が役立つのです」
冨山氏自身、自己研鑽の重要性を体感している。
「産業再生機構では約4年間で41社の再生に携わりましたが、じつは、設立されてから半年間、すごくヒマだったんですよ。そこで、その期間に、経済学やファイナンスなどを勉強し直したんです。それが、その後の企業再生の現場で力になりました。
そもそも、諸外国のビジネスパーソンと比べて、日本のビジネスパーソンは教養がなさすぎ、勉強不足すぎです。仕事のモチベーションが上がらないなら、自己研鑽に対するモチベーションを上げる時期があってもよいと思います」
このように広い視野で人生を考えれば、何か1つくらい高いモチベーションで臨めることが見つかるはずだと冨山氏はいう。
「最初はモチベーションが低くても、実際にやってみたら、あとから上がった、ということも少なくありません。だから、仕事でも自己研鑽でもいろいろ試してみるといい。そうして、何かに情熱を注ぎ込んでいれば、必ず得るものがあるはずです」
〔1〕正しい自己評価をする
自分の仕事の実力を正しく評価しないと、「もっとすごい仕事ができるはずなのに、誰も与えてくれない」と腐ったり、「自分は仕事ができないから冒険しない」と消極的になったりする。いずれにしても、モチベーションを下げる原因となる。自分を客観視するのが難しければ、周囲の人の評価を聞こう。
〔2〕経済的到達点を下げる
自分の市場価値と同等の給料をもらいながら、やりたい仕事も追い求めるのは虫のいい話。好きな仕事のオファーを増やしたいなら、自分の市場価値よりも年収を下げる覚悟が必要だ。30代のビジネスパーソンなら、「将来に向けた経験を積む」という意味でも、経済的到達点を下げることを考えるべきだろう。
〔3〕戦略的に仕事をする
30歳を過ぎて「本当はこの仕事がやりたい!」と未経験の仕夢に取り組もうとしても、身になるまでに時間がかかるし、オファーもこない。これではモチベーションを維持しにくい。それなら、自分の得意な仕事に絞り込んで、そこに力を集中投下したほうが、周囲から認められ、モチベーションは高まりやすい。
冨山和彦(とやま・かずひこ)
経営共創基盤〈IGPI〉代表取締役CEO。1960年生まれ。東京大字法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役社長、産業再生機構COOを経て、IGPIを設立。数多くの企業変革や業界再編こ携わり、現在に至る。著書に、『挫折力』『lGPl流 経営分析のリアルノウハウ』以上、PHPビジネス新書)「結果を出すリーダーはみな非情であるj(ダイヤモンド社)など。
(『THE21』2013年1月号特集「結果を出す人の「やる気」の出し方」より)
更新:11月22日 00:05