2025年07月28日 公開
連日、命に関わる危険な暑さが続いています。冷房の効いたオフィスにいても、外出先での営業や通勤中、私たちは常に熱中症のリスクに晒されています。初期症状を見逃さず、適切な対策を講じなければ、重篤な健康被害につながる可能性もあります。 ビジネスパーソン一人ひとりが熱中症への意識を高め、自らの命を守るための行動を起こさなくてはなりません。熱中症に対して私たちはどのような対策を講じるべきでしょうか。体温研究の第一人者である早稲田大学人間科学学術院名誉教授の永島計先生に熱中症対策についてお話をうかがいました。
――そもそも熱中症はどのようにして起こるのでしょうか。
永島 人間の体は、健康な状態では、エアコンの温度設定のように体温を37℃前後に維持するようにできています。体温調節は主に視床下部によってコントロールされており、体温が上昇すると体はさまざまなメカニズムで熱を放散しようとします。
安静にしている時にも大事なのは、皮膚血管からの放熱です。体温が上がると高温になった血液を皮膚血管に多く流すことで、体表面から放熱します。運動をした際に顔や手足の皮膚が赤くなるのはこのためです。二つ目が発汗です。汗腺から分泌される汗は、その水分が皮膚表面で蒸発することによる気化熱で体から熱を奪って冷やす効果があります。
高温多湿の環境下では、体表面から放熱しにくく、汗も蒸発しにくくなるため、体の冷却が追いつかなくなり、体温が上昇しやすくなり、熱中症が発症しやすくなります。熱中症の初期段階ではめまいや立ちくらみ、筋肉のけいれんなどが現れ、重症化すると意識障害や多臓器不全に至ることもあります。
――熱中症対策にはどのようなことに注意すればよいのでしょうか。
永島 簡単にできる対策としては、(1)水分補給する、(2)涼しい場所で休息する、(3)冷たいもので体を冷やす、などが効果的です。皮膚血管からの放熱を促すために血液量を増やすのも有効です。信州大学の能勢博先生は、熱中症対策の一つとして、運動後の牛乳摂取を勧められています。これにより、血液中の水分維持に重要なたんぱく質であるアルブミンが増え、体からの放熱に役立つことは研究で実証されています。
よくニュースで取り上げられる子供や高齢者の熱中症の原因として、気温の高さもありますが、子供や高齢者の体温調節の能力の問題があります。子供は汗腺が十分に成長しておらず、そもそも汗をかきにくいのです。人間の汗腺はおおむね思春期になってやっと完成します。
逆に高齢者は、老化によって汗腺の機能が低下して体温がうまく調節できなくなります。つまり、気温や湿度、日射など環境の状態を正しく把握すると同時に、自分や、周りの人の体温を調節する能力を考えて活動することが大事です。
――汗かきの人のほうが熱中症になりにくいのでしょうか。
永島 実際に汗をかける汗腺を「能動汗腺」と呼びます。汗を分泌する能力がない汗腺もあるわけです。熱帯地方など幼少期を暑い地域で過ごした人は能動汗腺が多く、汗をかきやすい体であるといわれています。逆に、寒い国で育った人は能動汗腺が少ないといわれています。現代日本人は、幼少期に、1年中エアコンがきいた部屋で過ごす時間が増えたことで能動汗腺の数が減っているのではないかという予想がされています。
――ビジネスパーソンは汗をかく体になりつつ、熱中症対策も怠らないことが大事ということですね。
成人になってから能動汗腺の数を増やすことはできませんが、たとえば早歩きなど運動を継続的にすることを心がけることによって、能動汗腺の発汗量を増やし、熱を外に逃がしやすい体になることができます。
その意味では、ビジネスパーソンが営業などで外回りしているのは(無理のない範囲で、かつ水分補給が前提ですが)汗をかくという観点では熱中症対策の理にかなっています。高齢者が日頃から、暑さが強すぎない早朝に適度な散歩習慣を心がけることも熱中症対策につながります。
――行政や企業の熱中症対策についてどう見ておられるでしょうか。
永島 熱中症対策は、気温上昇だけが問題なのではなく、本人の体温調節習慣の問題、空気が流れやすい地域環境の整備、「熱中症警戒アラート」をはじめ気候全般の情報提供など多岐にわたっています。昨今、地球温暖化や気温上昇によって春と秋が短くなる「二季化」も指摘されていますので、熱中症対策は21世紀の日本の町づくりや職場づくりの喫緊の課題といえるでしょう。
日本最高気温記録を何度も更新し、「暑さ対策日本一の町」としての地位を確立してきた熊谷市。暑さを逆手にとった観光PRも行われるなどユニークな取り組みを行っている。
近年、地球温暖化の影響もあり、これまで経験したことのないような猛暑が頻発し、熱中症による搬送者数や死亡者数が増加傾向にあります。日本各地で記録的な猛暑が続く中、自治体は住民の命を守るため、さまざまな熱中症対策を強化しています。
埼玉県北部の熊谷市は、夏季には全国有数の猛暑を記録し、その暑さは全国的にも有名です。暑さ対策として、ミストシャワーやクールスポットの設置、独自の暑さ対策イベントの開催など、さまざま取り組みを行っています。
2025年夏は、明治とコラボして『ヨーグルトで水分保持チャレンジプロジェクト』を展開中。熊谷市の夏を彩る名物かき氷「雪くま」にヨーグルトを使ったオリジナルメニューの販売、幼児や高齢者を対象に市内の保育所や高齢者施設へのヨーグルトの提供など、市内31カ所に設置される「クーリングシェルター」では、ポスターやのぼりなどを設置し、水分保持の重要性を発信しています。
更新:08月08日 00:05