
意気込んでジムに入会してみたけれど、仕事が忙しくなって足が遠のき、いつの間にか幽霊会員に......。そんな経験がある人も多いのではないだろうか。始めるより難しいのは、続けること。そこで、ベストセラー『「続ける」技術』で知られる行動科学マネジメントの第一人者・石田淳氏に、健康習慣を継続するコツを聞いた。(取材・構成:小笠原綾伽)
※本稿は、『THE21』2024年8月号より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

これまで何度も「運動しなければ」「食生活を見直さなければ」と思いながらも、習慣にすることができなかった経験は、40代、50代のミドル世代には多いと思います。
一念発起したものの途中で挫折してしまうと、「自分は意志が弱いのではないか」と落胆することもあったかもしれません。しかし、続けられないのは意志が弱いからではなく、続ける方法を知らないからなのです。
私はこれまで、行動科学マネジメントという手法を用いて、数々のビジネスパーソンに、意志に頼らない「続ける技術」をお伝えしてきました。行動は、3カ月継続できれば習慣になり、習慣になれば行動すること自体が好きになります。
では、行動を継続して習慣化するためにはどうしたらいいのでしょうか。4つのポイントをご紹介しましょう。
1つ目は、ベイビーステップで始めること。例えば、運動習慣を身につけたいとき、これまで運動してこなかった人ほど、「毎朝30分ランニングをする」「毎日7000歩ウォーキングをする」などの高い目標を設定しがちです。
かく言う私も、それまでまったく運動習慣がなかったのに、45歳になって突然3キロのランニングを始めました。1日目は何とか完走したものの、翌日は家の階段が上れない状態に。
40代、50代は、若かりし頃のようには動けません。さらに、ケガをしようものなら治るまでに時間がかかります。健康のために運動を始めたのに、ケガをしては元も子もありません。だから、絶対に無理は禁物です。
はじめは「週に2回、20分歩く」くらいの低い目標から始めてみるのがお勧めです。20分通して歩くのが難しいなら、朝10分、夜10分でもいいでしょう。人は、急激な行動の変化に対応できないものなので、いまできる最低レベルに目標を設定したほうが、続けやすくなります。
2つ目のポイントは、やりやすい環境を作ること。ランニングを習慣にしたいなら、ウェアはベッドの横に、シューズは玄関の履きやすい場所に置く。ウェアに着替えるのが面倒なら、ウェアを着たまま寝るのもありです。
ジムにまったく行けていないという人は、ジムの場所を見直してみてください。私は週に3、4回ジムに通っているのですが、なぜ続けられるかというと、ジムが家から5分の場所にあるからです。それが電車で20分の距離にあるジムだったら、通うのが面倒になってしまいます。
ジムに通うなら、家から近い、通勤途中で必ず前を通りかかるなど、物理的に行きやすいところを選びましょう。面倒くさいと思ったら腰が重くなるので、行動を邪魔する要因を減らして、スムーズに始められる環境を作ってみてください。

3つ目のポイントは、人を巻き込むこと。例えば、ウォーキングを目標にしたら、「今日はやったよ」「今日はできなかった」と家族に報告する。ハーフマラソンの大会に出場すると決めたのなら、「半年後にハーフマラソンに出場しようと思います。練習をした日は報告するので応援してください」とSNSに投稿する。ジムでトレーニング仲間を作る。このように、自分の行動をチェックしてくれる他者の存在があると、行動は続けやすくなります。
また、我流で始めるのではなく、まずは無理なく続けられる方法をプロに指南してもらうのも有効です。ジムに通うなら、2、3回パーソナルトレーニングを受けてみると、いまの自分のレベルに合ったトレーニング方法を学べますし、ウォーキングやランニングを始めたいなら、専門家が配信する動画や書籍などで初心者向けの走り方を学ぶのもいいですね。本気で食生活を見直したいなら、食生活アドバイザーに指導してもらうのも心強いものです。
4つ目のポイントは、ご褒美を用意すること。特に運動習慣を身につけたいときは、ご褒美が継続の手助けになります。
ただ黙々とウォーキングしていると、「なぜこんなことをしているんだろう......」とつまらなくなってきますよね。そこで、「15分歩いた先にあるカフェで、おいしいアイスコーヒーを飲もう」などと、楽しみを用意するのです。
「15分筋トレしたら小さなアイスを食べるぞ」「30分走ったらビールを飲もう」「ジムで筋トレが終わったら、好きなだけお風呂に入ろう」など、楽しんでご褒美を設定してみてください。運動が3カ月続いて習慣として定着すれば、ご褒美は自然といらなくなります。
よく、「運動したあとに甘いものを食べたら意味ないですよね?」と尋ねられることがあります。ダイエットをしているなら甘いものを過剰に摂取するのは問題ですが、運動習慣を身につけて健康になることが目的なら、甘いものをご褒美にしてもいいと思います。
それに、食事制限にせよ、運動にせよ、始めてみると、「このカロリーを消費するには、このくらい運動しないといけないな」という感覚がついてくるので、せっかく運動したあとで、甘いものをたくさん食べようとは思わなくなるものです。
以上4つのポイントを押さえれば、運動習慣は自然と身につきます。まずは1週間を目安に始めてみてください。無理なく1週間できれば、2週間続けられるはずです。

次は、食事制限について。お菓子やお酒を控えたり、ハイカロリーな食生活や間食のクセを改善したいと思ったら、1週間だけやってほしいことが2つあります。
1つ目は、体重計を洗面所の歯磨きする場所に置いて毎日決まった時間に乗り、表示された数値をスマホで撮ること。
もう1つは、食べたもの、飲んだものをすべて写真に撮っておくことです。
自分の行動を「見える化」することは、食べ過ぎ、飲み過ぎへの大きな抑止力になります。 写真に撮った飲食物や体重計を、1日の終わりに見返してみてください。「ちょっと食べすぎたかも。明日はおかずを一品減らそう」「昨日より体重が増えている。お菓子はやめよう」と必ず思うはずです。
できれば撮った写真を誰かにチェックしてもらうと、食べる量、飲む量は必ず減っていきます。自分でも食べ過ぎたかもしれないと思っているときに、第三者からも「食べ過ぎじゃない?」と言われたら、食べるのを控えようと思えるからです。
また、本気で食事制限をしようと思うなら、お菓子やお酒、ハイカロリーなインスタント食品などを家にストックするのはやめましょう。習慣化のために行動を邪魔する要因を減らすのと逆で、いつでもすぐに食べられるとどうしても手が伸びてしまうので、食べられない、飲めない環境を作ることが大切。
私も、以前はお酒を毎日飲んでいましたが、お酒を家に常備しなくなってから飲む頻度がぐっと減りました。いまは週3日は休肝日にして、飲む日は外出先で飲むようにしています。
ただ、一気に減らそうとするとストレスが溜まります。人は、ストレスが溜まると、その行動をやりたくないと思ってしまうので、いきなり完璧を目指すことはありません。
いつもは2枚食べていたクッキーを1枚に減らすだけでも、500㎖缶で飲んでいたビールを350㎖缶に替えるだけでもOK! 頑張り過ぎず、無理をせず、ベイビーステップで徐々に減らしていきましょう。
ここまでご紹介してきた方法を実践すれば、いつまでも続けることができる! と言いたいところですが、ほとんどの人が1カ月で必ず挫折します。
うまくできなくなったり、仕事が忙しくなって時間がなくなったり、面倒くさいと思う気持ちが膨らんできたりと、始めたときと状況が変わってくるからです。
そんなときは、回数と時間を減らしてみましょう。ジムに週3回通っていたなら週に1回にする。1日15分の筋トレを5分に減らす。毎日30分ウォーキングしていたのなら週に3回、10分にする。食事と体重計の両方の写真を撮るのが面倒になったら、体重計の写真だけを撮る。仕事が忙しくてランニングをする気力がないのなら、とにかくウェアに着替えて玄関の外に出るだけでよしとする。
このように、回数と時間のハードルをできるだけ下げてみるのです。そうすれば、「せっかくウェアに着替えて外に出たし、5分くらい歩こうか」「5分だけと思って始めたけど、結局15分していた」と、行動を再開しやすくなります。
そして続ける期間も、1年や2年と長く見積もるのではなく、「とりあえず2週間」くらい、と気楽に設定してください。はじめから完璧に、全力で頑張ろうとするほど続かなくなります。続けたいと思うなら、なるべく楽しくラクにできる方法を探すのが一番です。
人は、楽しいことや、心地いいことは続けようとします。運動することも、食事制限することも、「しょせんは趣味」と考えればいいのです。趣味なら楽しくやりたいですよね。まして、筋肉量が落ちていたり、食生活が固定化してしまっている40代、50代なら、無理をすると体を壊したり、大きなストレスを抱えかねません。
ラクして楽しく健康に。それを合言葉に、60代、70代になってからも健やかに暮らせる体づくりを、元気ないまのうちから始めてみてくださいね。
【石田 淳(いしだ・じゅん)】
日本の行動科学(分析)マネジメントの第一人者。精神論と切り離して行動に焦点をあてる科学的で実用的な手法は、短期間で組織の8割の「できない人」を「できる人」に変えると、企業経営者などから絶大な支持を集める。現在は教育やスポーツなどの現場でも活躍中。ベストセラーとなった。『新版「続ける」技術』(Forest2545Shinsyo)ほか、著書多数。
更新:08月04日 00:05