
ダイエット外来で、のべ10万人以上の肥満治療を行なってきたシックスパックのイケメン医師(自身も25kgの減量に成功)が、我慢することなく食欲を抑制できるようになる方法を紹介。自然と太る食べ物を食べたくなくなり、舌が、本能が、やせる食べ物を欲し始めるという、「出汁」の作り方と効果とは?(取材・構成:塚田有香)
※本稿は、『THE21』2024年8月号より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

50代に入ると、それまで健康だった人も疲れやすくなったり、お腹周りが気になったり、健康診断の数値が悪くなったりと、様々な身体の変化を感じるようになります。これは加齢に伴う身体機能の変化が顕著に現れ始める年代だからです。肉体改造で健康な身体を作りたいなら、まずは50代の身体で何が起こっているのかを知る必要があります。
年齢を重ねると、男女ともにホルモンの分泌量が低下します。ホルモンは身体を健康に保つための様々な調節機能を担っており、分泌量の変化によってバランスが崩れると、疲れやだるさが残りやすくなります。
新陳代謝が悪くなることも、疲れやすさの原因になります。新しい細胞と古い細胞が入れ替わるサイクルが遅くなり、疲労物質がなかなか排出されないためです。筋肉量が低下し、同じ運動や作業でも若い頃と比べると負荷がかかりやすくなることも、疲れを増大させます。
また、筋肉量が減ると基礎代謝量も低下するため、メタボになりやすくなります。基礎代謝とは呼吸や体温維持など生命を維持するために最低限必要なエネルギーで、そのうち約20%を筋肉が消費します。基礎代謝量が減ると、活動のエネルギー源となる中性脂肪が効率的に消費されず、体内に体脂肪として蓄えられて太りやすくなります。
50代になると生活習慣病のリスクも高まります。例えば高血圧は、加齢とともに血管が老化して硬くなり、弾力性が失われることによって生じます。
たとえるなら、若く健康な血管はやわらかくて収縮性がある新品のゴムホースで、老化した血管は屋外に長年放置されてカチカチになったホースのようなもの。古いホースでは水を勢いよく送り出せないのと同じで、血管が硬くなると血液がスムーズに流れなくなり、血管壁に圧力がかかって血圧が高くなります。
このようにただでさえ加齢によって高血圧になりやすいのに、そこへ塩分の多い食事を好むなどの偏った食行動が加わると、さらにリスクは高まります。
他の生活習慣病についても、糖尿病なら糖質、脂質異常症なら脂質の摂り過ぎが影響します。メタボも「腹囲」および「血圧」「血中脂質」「血糖値」が診断基準となっており、特定健診で引っかかるかどうかは、普段の食生活がカギを握ります。よって50代が健康な肉体を手に入れるには、食行動の改善が不可欠と言えるでしょう。

もしかしたら皆さんは「太るのは運動不足のせいだ」と思っているかもしれません。しかしこれが○×クイズなら、答えは×です。なぜなら人間は運動不足だけでは太れないからです。
もし運動不足で太れるのなら、飢餓で苦しむ貧困国の子どもたちに「動かずにじっとしていれば、体重が増えて健康になれるから大丈夫だよ」と言えますが、現実にはそんなことはあり得ません。太るには必ず食べなくてはいけないのです。
確かに運動すれば筋肉量が増えて基礎代謝が上がり、消費するエネルギー量も増えます。よって「運動すればやせる」は理屈としては正しいのですが、消費するエネルギー量よりも摂取するエネルギー量が多ければ、結局は余ったエネルギーが体脂肪として蓄えられて太っていきます。要するに、肥満の原因は「食べ過ぎ」なのです。
ちなみに運動で脂肪を1kg燃やすには、理論上はフルマラソンを2回走らないといけません。それくらい運動だけのダイエットは効率が悪いのです。もちろん適度な運動は健康にも良いのですが、メタボを解消したいなら食生活の改善が必須です。
かといって、食事を抜くような無理なダイエットは良くありません。健康を維持するのに必要なエネルギーや栄養素をきちんと摂らなければ、50代の身体はますます疲れやすくなり、気力も体力も低下する一方です。
メディアでよく紹介される「炭水化物抜きダイエット」についてもお勧めしません。極端な糖質制限は筋肉量を低下させるからです。さらにはシワが増えたり、頬がこけたり、肌が浅黒くなったりと、見た目もかえって老けてしまいます。
糖質を制限すると、確かに体重はすぐ減ります。しかしそれは脂肪が減ったのではなく、水分が抜けただけ。炭水化物は体内に水分を蓄える働きがあるので、摂取を控えれば身体は脱水状態になります。シワの増加や肌色の変化も、皮膚の水分が減ったことによるものです。
これまで炭水化物を摂り過ぎていた人が、適正な摂取量に戻すために軽度の糖質制限を行なうのは構いませんが、お米を一切食べないなどの過剰な制限は健康を損なう恐れがあるので控えてください。

そもそも無理なダイエットは長続きしません。食べたい気持ちを我慢するほどイライラや不安が募り、ストレスを解消するためにやけ食いしてしまう。これが典型的なダイエットの挫折パターンです。食べ過ぎは良くないとわかっていても、食欲とストレスをコントロールできないことが最大の問題と言えます。
実は私自身、かつて激務によるストレスから身長178cmにして体重92kgまで太ったことがあります。そこから25kgの減量に成功した実体験と、医師としてのべ10万人以上の肥満治療を行なってきた臨床経験から、我慢することなく食欲を抑制する方法にたどり着きました。それは「味覚」をリセットすることです。
やせたいのについ食べてしまうのは、意思が弱いからではありません。食行動をコントロールするセンサーである味覚が狂い、こってりとした濃い味付けの食事や砂糖をたっぷり使った甘いスイーツを食べないと満足できない「デブ味覚」になっているのが原因です。
これは脳の働きと深く関係しています。脂肪分や糖分の多い食べ物を摂取すると、脳でドーパミンと呼ばれる快感物質が作られます。すると脳は「こってり味や甘味は自分を幸せにしてくれる」と学習するので、ダイエットしようと決意しても脳の欲求に逆らえず、つい太りやすい揚げ物やお菓子ばかり食べてしまうわけです。
よってダイエットを成功させたいなら、「デブ味覚」をリセットし、薄味でヘルシーな食事でも満足できる「やせ味覚」へ変えなければいけません。「長年慣れ切った舌の感覚を変えることなんてできるのか?」と疑問に思うかもしれませんが、誰でも簡単に味覚をリセットできる方法があります。それは1日1杯の「出汁」を飲むことです。
私がダイエット外来の患者さんに勧めているのが、鰹節・煮干し・刻み昆布・緑茶から作る「やせる出汁」です。詳しいレシピは上の図を参照してください。これを毎朝1杯飲むように指導したところ、患者さんたちの食欲が抑えられて体重やウエスト周りの腹囲が減少し、血糖値や中性脂肪の数値も改善が見られました。
出汁を飲むだけで食欲をコントロールできる理由は「うま味」にあります。出汁に含まれるうま味は、人間が本能的に好む味であることがわかっています。ある実験で生後4カ月の赤ちゃんに酸味や苦味、甘味などの基本五味を与えたところ、唯一笑顔になったのがうま味でした。
実は羊水や母乳にもうま味物質のグルタミン酸が含まれており、赤ちゃんの脳はうま味が幸福感や安心感を与えてくれると学習します。たとえ成長後の食生活によって味覚が狂っても、もともと好きだったうま味を摂取すれば、脳が満たされて正常な味覚へリセットされるのです。
私が考案した「やせる出汁」の材料には、刻み昆布のグルタミン酸に加え、鰹節のヒスチジン、煮干しのイノシン酸、緑茶のテアニンと、それぞれにうま味成分が含まれています。よって飲むだけで脳がハッピーになり、ストレスが軽減されて食欲も抑えられます。
クリニックの患者さんたちも出汁を飲み始めてから平均3日ほどで効果を実感し、「気づいたら食べる量が減っていた」「外食でも自然とあっさりしたものを選ぶようになった」と話します。味覚が変わってこってり味や甘い味を舌が受けつけなくなり、我慢するどころか、満足感に浸りながら食事の量や内容を改善できるのが出汁のメリットです。
1日1杯でも効果を実感できますが、出汁をタンブラーなどに入れて持ち歩き、空腹を感じたときや食事前に飲むと、ストレスからくる過食を防げます。
まず味覚を正常化し、食欲が抑制されれば、ダイエットにおける最大の関門は突破できます。あとは食事の内容や摂り方を工夫すれば、より健康的な理想の身体に近づけます。
健康な身体を作る基本は3食きちんと食べることです。特に朝食を摂らないと、脳や身体を動かすエネルギーが不足し、仕事のパフォーマンスが低下します。やせるために朝は食べない人もいるようですが、朝食を抜くと5倍太りやすくなるとの研究結果もあるので逆効果です。
1日3回食べても太らないコツは、食事の量を朝と昼は多めに、夜は少なめにすること。朝食を摂ると体内リズムをコントロールする「時計遺伝子」が目覚め、日が昇っている時間は臓器が活発に働きます。よって明るいうちは食べたものが効率良く代謝され、脂肪になりにくい。一方、夜は体脂肪の分解が抑制されるため、遅い時間に食べると太りやすくなります。
たいていの人は夜の食事量が最も多くなりがちです。仕事のストレスを発散するために食べ過ぎてしまい、朝になっても食欲がわかないので朝食を抜くという悪循環に陥ります。仕事を終えて精神的な疲れやイライラを感じたときは、夕食の前に出汁を1杯飲むと気持ちが落ち着いてドカ食いを防げます。
ビジネスパーソンなら残業することもあるでしょう。しかし自宅に帰ってから夕食を摂ると、一番太りやすい時間帯に食べることになります。そこでお勧めしたいのが「分食」です。
まだ日が昇っている夕方の5時や6時頃に、会社でおにぎりやサンドイッチなどの炭水化物を摂ります。忙しくて時間がなければプロテインバーなどでも構いません。そして帰宅後はおかずだけを軽めに食べます。夕食を2回に分けることで遅い時間に食べる量を減らせますし、夕方に一度エネルギーを補給すれば、残業中も仕事のパフォーマンスは落ちません。

毎日の食事でバランス良く栄養を摂るには「PFCバランス」が大事です。これは三大栄養素であるタンパク質・脂質・炭水化物の摂取比率で、厚生労働省の基準ではそれぞれ13〜20%・20〜30%・50〜65%が理想バランスとされています。
しかし忙しいビジネスパーソンが、食事のたびに栄養バランスを厳密に計算するのはなかなか難しいでしょう。そこで私が注目しているのが、1975年頃の日本の食卓をイメージした「1975食」です。東北大学の研究グループが現代と過去の日本食で最も健康効果が高いものを調べた結果、1975年頃の日本食が肥満を抑制し、加齢とともに増える糖尿病、脂肪肝、認知症を予防して寿命を延ばすことが判明しました。
この実験で再現された1975年頃の典型的な献立を上に紹介しましたので、食事をこのイメージに近づけるように意識してみてください。
最近はコンビニでも単品で買えるおかずが増えているので、例えばサバの味噌煮とサラダ、カップ入り味噌汁を組み合わせれば、1975食を再現できます。面倒だからお弁当で済ませたいというときも、少量ずつ多品目のおかずが入った幕の内弁当を選べば、1975食に近づきます。
こうして毎日の食事でちょっとした意識や工夫をすれば、健康的な食生活を無理なく続けられます。私もダイエット成功後にリバウンドしたことはなく、7年経った今も68kgの体重を維持しています。"我慢しないダイエット"で、ぜひ皆さんも理想の身体を手に入れてください。
【工藤孝文(くどう・たかふみ)】
1983年、福岡県生まれ。福岡大学医学部卒業後、アイルランド、オーストラリアへ留学。帰国後、大学病院、地域の基幹病院を経て、現在は福岡県みやま市の工藤内科で地域医療を行なっている。専門は、糖尿病・ダイエット治療・漢方治療。「ガッテン!」(NHK)、「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)など、テレビ番組への出演・医療監修の他、ダイエット関連の著作も多い。
更新:08月04日 00:05