2012年10月26日 公開
2022年12月07日 更新
メールとともに、いまや欠かせないコミュニケーションツールの1つとなりつつあるSNS。しかし、便利なものには必ず裏があるのが世の常。その代償として、あなたの個人情報が意図しないかたちで利用されているとしたら、あなたはどう思うだろうか。
一般ユーザーにはあまり知られていないSNSの問題点とそのつき合い方について、ITジャーナリストの井上トシユキ氏にお話をうかがった。<取材・構成:笠原崇寛>
※本稿は『THE21』2012年11月号(2012年10月10日発売)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
今年の2月のことです。突如、私のスマートフォンに1日100通もの迷惑メールが届くようになりました。私は同じ携帯電話の番号を、もうかれこれ16年間ほど使っているのですが、その間、迷惑メールが届いたのは3通ほどしかありません。
それが突然この数ですから、これは明らかにおかしい。どこかで私の個人情報が漏れているなと感じました。
私自身は、仕事柄、ネットの怖さを理解していますから、自分のスマートフォンでは無料のSNSアプリなどを利用していません。ですから、私自身のスマートフォンから情報が漏れたことは考えにくい。しかも、届いた迷惑メールで驚いたのは、文面に私の名前を正しい漢字で表記していることでした。
私は仕事ではカタカナの名前を使用していますから、漢字で名前が書かれているということは、それを知っているプライベートの知り合いから情報が流出したと考えるのが自然です。そこでいろいろ調べてみたところ、友人が利用している無料のSNSアプリが原因ではないかと思い当たりました。
このアプリには、インストールすると、スマートフォンなどの電話帳にアクセスして、登録してある電話番号やメールアドレスを自動収集する機能が備わっています。
つまりこのアプリを使うと、登録した本人の個人情報を提供するだけでなく、友人・知人の個人情報まで捷供してしまうことになるわけです。SNSアプリのこうした機能については、そのアプリの規約に明記されているのですが、目を通したことのある人はほとんどいないのではないでしょうか。
多くの人がこうしたアプリをインストールすることで、自分や知り合いの個人情報をそれとは知らないままに提供してしまっているのが現状だと思います。
そもそも考えてみてください。SNSのサービスを提供するには、ソフトのプログラミングやサーバーの維持、システムのメンテナンスなど、多額の費用がかかります。いったい、なぜそれをわざわざ無料で提供してくれるのでしょうか。
それはもちろん、サービスの提供者が何らかのかたちで利益を得られるからです。バナー公告などによる収入もあるでしょうが、それだけで費用が賄えるとも思えません。ユーザーの個人情報を利用することも、利益を生み出す手段の1つになっていると考えられます。
たとえば、無料のSNSのアプリの規約には、利用者の氏名や利用履歴、電話帳の内容などの個人情報を取得し、それを「当社が認める第三者」にも提供します、といった内容の文言が入っていることがあります。
こうした文言が規約に入っていれば、そのアプリをインストールした人はそれに同意したものとみなされ、メールの内容を閲覧されたり、それを第三者に提供されたりしても、何も文句はいえないことになります。
もちろん、犯罪防止やウイルス拡散などを防ぐために、管理者がユーザーの利用状況をチェックし、必要なら警察などに情報提供する場合もあるでしょう。しかし、この規約を活用すれば、たとえば、メールの内容をもとに個人の好みを把握し、それに合った商品の広告メールを送る、というビジネスにすることも可能なのです。
そう聞いて、自分好みの商品の広告を送ってくれるのなら便利だとか、自分の情報が知られてもかまわないという人は別に問題ないのですが、個人情報を流出させたくないのに、こうしたことに無自覚で利用している人は問題です。
「なぜオレのアドレスを知っているんだ!」「迷惑メールが多くて頭にくる!」などと腹を立てている人はたくさんいますが、なかには、知らず知らずのうちに個人情報を捷供することに同意してしまっている場合も多いのです。
無料のSNSにかぎらず、インターネット上では多くのサービスが無料で提供されています。ですからユーザーは、無料なのが当たり前、という感覚に陥ってしまいがちです。
しかし、無料の裏には必ずどこかで利益を得る仕組みがあります。それは場合によっては、ユーザーにとってリスクとなる可能性もあるのです。
「みんなが使っているから」と流されて利用する前に、ちょっと立ち止まって、「このサービスを提供する側はいったいどうやって利益を得ているのだろう?」と、考えてみるべきではないでしょうか。
さらに注意しなくてはならないのは、こうした無料のアプリのなかには、ウイルスが仕込まれているものも見つかっているということです。そのウイルスによって、スマートフォンやパソコンのなかの個人情報を盗まれたり、保存してある情報が削除されたり、場合によっては、スマートフォンやパソコンなどの本体そのものが使えなくなってしまうケースもあります。
それだけでももちろんたいへんなのですが、被害が自分に留まっているならば、問題のあるアプリをダウンロードした自分の不注意を呪うだけで済みます。しかし、それだけに留まらず、自分が他人に被害を及ぼす加害者になってしまう可能性もあります。
無料アプリに仕込まれたウイルスのなかには、指令を受けると特定のサイトを攻撃するプログラムが組み込まれているものも存在します。自分のスマートフォンなどがそうしたウイルスに感染すれば、知らぬ間にサイバー攻撃の協力者になってしまう可能性があるのです。
もし仮にそういう事態になったら、攻撃されたサイトの側からみればあなたは加害者です。場合によっては、損害賠償を求められたり、威力業務妨害罪で逮捕されたりするといった事態もあり得ないとはいえません。実際、海外では、このように意図しないかたちでサイバー攻撃に関わった人が逮捕される事例も出てきています。
ウイルスが仕込まれているような極めて問題のあるアプリは、ウイルスソフト各社のホームページなどでも情報が公開されていますから、インストールする前にチェックをしておきたいものです。
更新:11月27日 00:05