2012年09月14日 公開
2021年02月04日 更新
Twitter、Facebook、InstagramなどのSNS。現代において、便利で役立つツールだ。ところが、「友達の投稿に『いいね』を押すのが疲れる」「コメントがもらえないと、自分を否定されたと思う」など、“SNS疲れ”に陥っている人が少なくない。
なぜ、SNS本来の使い方を見誤り、便利なはずのツールで疲れてしまうのか。疲れずに使い続けるにはどうすればよいのか、その社会的背景とともに、香山先生にうかがった。
※本稿は、『THE21』2012年10月号 連載・新ワーカホリック世代の「逃げる技術」第3回 より、内容を一部抜粋・編集したものです。
みなさんは、フェイスブックやツイッターなどのSNSを、どのくらい利用していますか。多くの人が何らかのSNSを利用しているようで、私たちの生活にすっかり溶け込んでいるようにみえます。
その一方で“SNS疲れ”も囁かれるようになりました。楽しいものであったはずのSNSにストレスを感じ、離れる人も現われ始めたのです。SNSによって引き起こされる疲れや不安には、いくつかの種類があります。
よくみかけるのは、どれくらいの人が自分の書き込みをみてくれているのか気になって仕方がないというパターンです。
多くの人は、現実の友人とやり取りしたいとか、同じ趣味の人と話すのは面白そうだという素朴な目的でSNSを始めます。ただ、フェイスブックは友達数、ツイッターはフォロワー数が可視化されます。
数が可視化されると、それが自分の価値を示す指標のように思えて、少ないことが恥ずかしいことだと錯覚してしまう。その結果、いつのまにか友達とやりとりするのではなく数を増やすことが目的化し、「この書き込みの反応はどうだろうか」「どれくらいの人が『いいね!』を押してくれるだろうか」と、顔のみえぬ相手の顔色をうかがうようにして書き込むようになるのです。
書く目的が変わったことで、生活まで変わった人もいます。退屈な書き込みばかりではフォロワーが減るので、ネタづくりのためにわざわざ外出して写真を撮ってくるというのです。それで生活に張りが出るならいいのですが、義務的になってストレスを感じているなら本末転倒です。
可視化されるのは、友達やフォロワーの数だけではありません。利用者は「渋谷駅なう」「今日のお昼ご飯はこれ」などと写真を載せたりして実況中継し、自分の生活を周囲に対して可視化させています。これも大きなストレスになり得る。
精神科には、自分の生活が誰かに監視されていると訴えてくる患者さんがやってきます。たとえ妄想でも、誰かに覗かれている状態は強いストレスになります。日本人の生活が個室化しているのも、プライバシーのない環境が人にストレスを与えるからです。
SNSで自分を実況中継するのは、その状況を自らつくっているようなものです。にもかかわらず、いま聴いている音楽のタイトルを自動で書き込んでくれるアプリを平気でスマホに入れたりしている。
冗談で「自動的に生活を撮影してSNSに投稿してくれるアプリがあったらどうする?」と尋ねると、「自分で入力する必要がなくて、楽でいいかもしれない」と答えた学生もいました。
みんなが自分の生活をみせていくと、同じ属性をもった人との比べ合いも始まります。たとえば就活中の学生なら、他の就活生の動向が気になって逐一チェックするのです。自分のことで精一杯なのに、会ったこともない学生が内定を取ったことに一喜一憂していれば、疲れるのも当然です。
しかも、似た属性でつながった人たちが集まると、同調圧力が強く働きます。たとえば誰かが「新卒一括採用はくだらない」というと、「意義があると思う」と言い出しづらくなる。
自由な場であるはずのネット空間が、SNS上ではソーシャルなつながりによって縛られ、画一化されている。そこに息苦しさを感じる人も少なくないはずです。
考えてみると、対人関係の悩みは、メールがコミュニケーションの主流だった時代はもちろん、デジタルツールが誕生する前からありました。ある意味では古典的な悩みです。
ただ、SNSになると関わる人が一気に増えます。気を遣う相手が格段に増えたのだから、疲れたり不安になるのは当たり前かもしれません。
多数の人とやりとりすると、ツールの使い方にも気を遣います。SNSは短期間に一気に普及したので、人によって使い方やマナーについての認識が違います。
そのため、自分はたまにみる程度でいいと思っているのに、友人から「昨日、ダイレクトメッセージを送ったのに返事がこない」と怒られたりする。これもSNS疲れの要図の1つでしょう。
では、どうすればSNSによって引き起こされるさまざまなストレスから逃れられるのでしょうか。
もっとも手っ取り早いのは、アカウントを削除することでしょう。ただ、学生にそういうと、「アクセスしないと、何かあったと心配させてしまう」「自分に関するよからぬ噂が流れたときに訂正できない」といって惰性で続けてしまう。思い切ってアカウントを削除するのは、なかなか難しいようです。
そこで、使い続けるうえでは、3つの点に注意してほしいと思います。
第一に、書き込む内容を選択することです。自分の行動や考えたことを何でもオープンにするのは、ストレスの原因になるだけでなく、炎上のもとになったり、個人情報の漏えいにもつながります。何を発信し、何を秘密にすべきなのか。書き込む前に立ち止まって考えることが、自分を守る壁をつくることにつながります。
第二に、自分なりの使い方を決めて、周囲に伝えることも大事です。「SNSは滅多にチェックしないので、重要な連絡はメールにしてほしい」「フェイスブックはたまにしかみないが、ツイッターなら毎日みる」とまわりに伝えておけば、使い方の違いによるトラブルが減り、神経をすり減らす機会も少なくなるはずです。
第三に、コミュニケーションは無条件によいことだという発想も、変えたほうがいいでしょう。うつで休職していた人が復職するときは、PCを立ち上げたり、メールをチェックするところから始めます。
しかし、エネルギーが落ちているうつの人にとっては、メールチェックでさえハードルが高い場合があります。つまり、デジタルなコミュニケーションは、想像以上にエネルギーを要するということ。
私たちは朝起きてすぐメールをチェックしたりSNSにつないだりしますが、自分でも気づかないうちにそこでエネルギーを使って消耗しているのです。そのことに自覚的であれば、SNSともうまく距離を取れるのではないでしょうか。
【PROFILE】香山リカ 精神科医、立教大学現代心理学部教授
1960年、北海道生まれ。東京医科大学卒業。豊富な臨床経験を活かして現代人の心の問題を鋭くとらえるだけでなく、政治・社会評論、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで発信を続ける。専門は精神病理学。2012年4月よりNHKラジオ「香山リカのココロの美容液」でパーソナリティーをつとめる。
著書に『気にしない技術』『「私はうつ」と言いたがる人たち』(以上、PHP新書)、『悲しむのは、悪いことじゃない』(筑摩書房)『「だまし」に負けない心理学』(技術評論社)など多数ある。
更新:11月27日 00:05