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レアメタルの再資源化で日本を支える 林商会が採用で「学ぶ力」を重視する理由

2025年03月13日 公開

林正裕([株]林商会代表取締役)、吉浦剛史(スポーツキャリアサポートコンソーシアム推進委員)

企業を変える&地域を支えるスポーツ人材論

採用難が叫ばれる昨今、企業は優秀な人材の確保に頭を悩ませている。そんな中で注目を集めているのが、学生時代にスポーツに打ち込んだ「スポーツ人材」だ。その魅力や活用の秘訣とは?

コバルトをはじめとするレアメタルのリサイクルを手がける(株)林商会代表取締役の林正裕氏に、アスリートのキャリア支援の第一人者・吉浦剛史氏が話を聞く。(構成:坂田博史/人物写真撮影:桂伸也)

※本稿は、『THE21』2025年4月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。

 

林正裕

【林正裕(はやし・まさのぶ)】
(株)林商会代表取締役
1965年生まれ。大阪府出身。関西学院大学卒業。家業の(株)林商会に入社後、IT関連事業を立ち上げ、国内外で事業展開。2002年に代表取締役に就任。特殊金属屑専門商社から製造業へ転換し、奈良工場を竣工するとともにレアメタル加工技術を確立。ISO品質保証・環境をはじめ各種脱炭素関連登録認証を受け、2030年に向けカーボンニュートラル・SDGsでの環境経営を推進中。「大阪脱炭素ビジネスコンテスト2025」ファイナリスト。東京大学レアメタル研究会所属。

 

吉浦剛史

【【吉浦】剛史(よしうら・つよし)】
スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポートコンソーシアム」推進委員
(株)スポーツフィールドキャリアサポート推進室長
1988年生まれ。奈良県出身。大和ハウス工業(株)で社内営業表彰を複数受賞後、2015年に(株)スポーツフィールドに入社。現在は関西と九州のエリアマネージャーとキャリアサポート推進室長を兼任。2020年からはスポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポートコンソーシアム」の推進委員も務める。アスリート学生へのキャリア支援のための講演や授業を行ない、受講生は1万5,000名を超える。JKC(全日本フルコンタクト空手コミッション)キャリアサポートアドバイザー。

 

採用で重視するのは学歴よりも学ぶ力

林商会では、レアメタル・レアアース、貴金属の選別・検収から加工・販売までを一貫して行なっている。
林商会では、レアメタル・レアアース、貴金属の選別・検収から加工・販売までを一貫して行なっている。「危惧されているレアメタル・レアアースの供給不足は、リサイクル・リファイン(洗練や純化)によって補うことが可能です」(林正裕社長)

【林】当社は特殊金属・金属屑商、金属加工業と呼ばれる業種で、わかりやすく言うと、金属屑の中からレアメタル(希少金属)を選別し、加工して販売しています。いわばレアメタルのリサイクル業で、リサイクルしたレアメタルはスマートフォンやEV(電気自動車)、航空機、風力発電機など、ありとあらゆる製品に使われています。

【吉浦】いつごろからこの事業を行なっているのですか。

【林】父が個人事業として始めたのは1971年で、80年に林商会を創設しました。当時、大阪にはこうした金属スクラップの零細企業がたくさんあり、私は、母親がモーターをハンマーで叩いて、磁石を取り出すのを見て育ちました。

父が亡くなる前年の2002年に、私が社長に就任。スクラップを集めてきて、それを転売する事業は価格競争が激しさを増し、各社ともじり貧になっていました。そこで、商社から製造業に転換することを決意。奈良工場・奈良技術開発センターを竣工したのが05年です。

【吉浦】事業拡大にあたって、採用活動を行なったと思います。

【林】はい、募集広告を出して、応募してきた200人ぐらいを面接しました。ただなかなかいい人は来てくれません。そんな中でもなんとか採用したうちの1人は、いまでは執行役員になって活躍してくれています。体育会出身で、アメリカンフットボールの経験者です。

【吉浦】まさにスポーツ人財ですね。林社長も学生時代、かなり熱心にスポーツをやられていたとうかがっています。

【林】関西学院大学時代にラグビーをやっていました。その経験から言うと、自分で目標を立て、それを達成していく意識は、体育会系の学生のほうが一般の学生よりも強いかもしれません。私たちは金属を扱っているので、基本的には理系の人財を求めていますが、学歴よりも学力を重視しています。学ぶ力があって体力もあれば色々なことに挑戦できますし、粘り強く継続することもできるからです。

【吉浦】ここ数年間、継続して新卒を採用しています。

【林】父の時代に4人だった社員は18人にまで増えました。新卒採用といえば、私たちの業界にも「飲み会は残業ですか?」と聞く若手社員が現れました(笑)。若い人たちの意識の変化はいままでも感じていましたが、これは驚きましたね。

でも、私たちの業界には環境を守るためのルールが多くあり、その変化に対応していくのは当然のことです。同様に、若手社員の意識の変化にも寄り添っていく。多大な負荷をかけてはいけないのは、環境も人間も同じですしね。もちろん彼らに迎合するわけではないのですが。

【吉浦】職場の飲み会への参加を強制できる時代ではありません。私は年2回、各エリアの営業責任者を集めて飲み会を行なっていますが、その時間は残業時間として認めています。

【林】最近の若い人たちは、学生時代がコロナ禍だったため、先輩と飲みにいくこともあまりなかったようです。それはかわいそうだなと思います。飲み会でざっくばらんに話すことで、その人のそれまで知らなかった一面を知る。そういった経験をしたことがないのでしょう。

【吉浦】仕事とプライベートをきっちりと分けたいと考える学生は確かに増えていますね。

【林】「公」と「私」は、本来は分けなければならないのでしょうが、私の中では表裏一体です。家庭を大切にし、そこが安らぎの場であるからこそ、仕事に邁進できるわけですし。

また、休日に思いきり遊ぶことも大切で、プライベートが充実している人ほど様々な引き出しを持っていて、視野が広い。それは仕事にもプラスになります。当社の社員の大半はスポーツ経験者ですので、休日にスポーツに打ち込んでいる者も少なくありません。私自身も、今年60歳になりますが、ラグビー、自転車、スキー、登山と様々なスポーツを楽しんでいます。

 

日本一になるために「考動」がどれだけできるか

【吉浦】中堅・幹部社員の方々との関わり方はいかがですか。

【林】いま会社の中心となっている40代の社員たちとは、極端に言えば24時間の付き合いです(笑)。社員の子どもたちがどんなスポーツをやっているか、大会でどんな成績だったかまで知っています。正月には子どもたちにお年玉をあげるほど、家族同様の付き合いがあります。これが良いことなのか悪いことなのかはわかりませんが、会社が大きくなったら難しくなりますので、できる間は家族的な経営を続けていきたいと思います。

【吉浦】社員一人ひとりと向き合い、密な関係性を築いているのはすごいことです。

【林】社員一人ひとりのパーソナリティを把握し、それに合った仕事をしてもらうことで、個々の才能を開花させてあげたいという思いがあります。そこでiWAM(アイワム)診断を全社員に受けてもらっています。

iWAMとは「inventoryforWorkAttitudeandMotivation(職場における行動特性と動機づけに影響を与える要素)」の略で、その人が職場でよく使う「言葉」から、興味・価値観、動機を測定する総合適性検査です。「できない」から「やってみよう」へと意識が変わり、目標達成や問題解決のためのトライアンドエラーを繰り返していける動機づけにもなっています。

林商会の企業理念(マニュフェスト)
林商会の企業理念(マニュフェスト)。ユニークなのは、社員一人ひとりが大切にしている言葉を集めて作成されている点。個々のパーソナリティを大切にする林社長の姿勢がここにもよく表れている。

【吉浦】個々のパーソナリティを大事にされていることがよくわかります。企業理念に多種多様な言葉が書かれているのもその証あかしですね(写真参照)。

【林】これは、社員一人ひとりのマニュフェストで、社員が大切にしている言葉たちです。この中に「守離破」とありますが、本来は守破離です。でも、離れてからブレイクするという考え方もあるのではないか。間違っているけれども、それもありだろうと、そのまま載せています。

また、社員には、個人の目標と会社での目標を書いてもらっています。その目標を達成したら金一封が受け取れます。
人は財産であって材料ではありません。だから人材ではなく「人財」だと考え、必ずこう表記しています。

【吉浦】社員の育成については、どのように考えていますか。

【林】与えられたことを、ただこなすだけの人はいりません。自分で考えて動く「考動」がどれだけできるか。それが大事だと言っています。

私たちは弱者であり、弱者がどうやったら強者に勝てるかを考えに考え抜いて、これまでリサイクル技術を開発し、一点突破でニッチ市場を抑えてきました。大切なことは自分たちの強みを見つけること。どうやったら日本一になれるのか。そのために自分たちには何ができるのか。私自身がこうしたことを考え続けてきたからこそ、社員たちにもそれを求めています。

 

資源リサイクルで日本を根底から支えたい

リサイクルされたレアメタルは、スマートフォンやEV(電気自動車)、航空機、風力発電機など、ありとあらゆる製品に使われている。
リサイクルされたレアメタルは、スマートフォンやEV(電気自動車)、航空機、風力発電機など、ありとあらゆる製品に使われている。

【吉浦】御社のリサイクル技術なくしては、できない資源リサイクルもあると聞きました。

【林】はい、コバルトに関して当社が特許を持つリサイクルは、世界中のどの企業にも真似できません。

レアメタルはいまやハイテク産業や製造業にはなくてはならないものですが、世界中を探しても採れる総量はわずか。特に日本ではほぼ採掘されておらず、全面的に輸入に頼っています。
もしものときに備えた国の蓄えも国内消費量の60日分弱しかありません。もし外国の政情不安や鉱山ストライキなどで輸入が止まり、国の蓄えも底をついてしまったら、日本のモノづくりはストップしてしまうのです。

そんな日本で、レアメタルの「再資源化」を手がけているのが私たちであり、日本のモノづくりを支えている自負があります。ある人からは「君たちがやっていることは、日本の資源安全保障に資する大切なことであり、国策だよ」と言われました。

【吉浦】大手メーカーが同じことをやらないのはなぜですか。

【林】金額が小さく、あまりにニッチだからです。100億円規模のビジネスならメーカーが独自でやるでしょう。そうではないので、大手のリサイクルシステムの中に当社を組み込んで活用してくれています。

資源をリサイクル、リファイン(洗練や純化)し続けることができれば、半永久的に資源を活用でき、枯渇することがありません。リサイクル、リファインは夢の源であることから「リサイクル、リファインは夢源」を商標出願しています。

株式会社林商会
林商会は企業方針でもある「世界に貢献する」をモットーに、SDGsに関する様々な取り組みも行なっている。詳しくは同社HPで

【吉浦】今後に向けた新たな活動について教えてください。

【林】「大阪脱炭素ビジネスコンテスト2025」のファイナリストに選ばれました。その内容は、東京大学のメンバーと組み、コバルトなどのレアメタルの先物価格を見通せるプログラムをAIで作るというものです。

例えば、コバルトの価格は10年に一度程度、高騰してきました。2010年代に高騰したのは、中国がレアメタルを買い占めたことが原因で、直近、2022年に1kg当たり約3000円から約1万円に高騰したのはEVの量産化が主な原因です。

このようにコバルトをはじめとしたレアメタルの価格は、先を見通すことが難しいのですが、それをAIでビッグデータから抽出して予測していくプログラムを開発しています。このアプリケーションは特許を申請中で、起業も視野に入れています。

【吉浦】国連が設定したSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けて積極的に活動するだけでなく、脱炭素経営、環境経営にも力を入れています。

【林】日本では、水や空気の安全は当たり前でタダだと思われていますが、世界を見ればそうでないことがわかります。一方、日本には石油や鉱物などの資源はありません。でも資源がないからこそ、SDGsという言葉ができる前からリサイクルに力を入れ、世界No.1のリサイクル技術を開発してきました。

資源を持たない日本が、安定的に資源を調達できるようになること。それが私のライフワークであり、今後はオールジャパンでこれに取り組んでいきたいと思っています。

 

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