可能であれば、親が元気なうちにエンディングノートを書いてもらう、もしくは一緒に書くことをおすすめします。
預貯金はどこにいくらあるのか、口座番号、不動産や生命保険、借入金の有無といったお金や資産の情報に加えて、「もし認知症になったら施設に入りたいか、自宅で暮らしたいか」「延命措置を希望するか」といった意向がノートに書いてあれば、いざというときに家族は本人の意思にそって医療や介護の方針を決めることができます。
エンディングノートをおすすめするのは、私に苦い経験があるからです。祖母が突然倒れたとき、事前に本人の意思を確認していなかったため、延命措置を含めた命に関わる判断を、すべて娘である母や孫の私が決めていきました。今でも自分たちの判断が本当に正しかったのかという後悔があります。
そのため、親が元気で判断能力があるうちに、親子一緒に話し合いながらエンディングノートを書ければベストです。私も祖母のときの後悔を繰り返さないように、毎年祖母の命日に母と一緒にエンディングノートを書いています。
「人生の最期に関わることは親に聞きづらい」という人も多いようですが、私の母はさほど抵抗がなかったようで、「棺には何を入れたい?」「じゃあ、舟木一夫の写真集とCD」などと親子で会話しながら書いています。
最近は母の認知症が進行して会話が成立しないことも増えましたが、これまでノートに書いた内容があるので、何かあっても本人の希望通りに物事を進められる安心感があります。
「エンディングノートは、どうしてもハードルが高い」と感じる人は、親に「自分の介護費用は用意している?」と、ひと言だけ聞いてみてください。
介護費用を親のお金で賄えるのであれば、「この先、自分の収入が減っても大丈夫だ」と安心できるし、親にお金がなくて自分が介護費用を出さなければならないようなら、「副業で収入を増やそう」といった判断になるかもしれません。
親の資産状況は自分の将来にも大きく影響するので、この点だけでも確認しておくことを強くおすすめします。
なお介護にかかるお金は、要介護度や、在宅か施設かなどの条件によって変わります。遠距離介護の場合、負担が大きいのが交通費です。工藤家の現在の介護費用は月平均約10万円ですが、そのうち5万円を交通費が占めています。
ただ、交通費を節約する手段はあります。それは親の見守りに役立つIoT機器を活用することです。私の場合、母の部屋に見守りカメラをつけて常時様子を確認できるようにし、エアコンによる温度管理も私がスマホで遠隔操作しています。
離れた場所から見守りや体調管理ができれば、親の家に通う頻度を減らして交通費を節約できます。最近は便利なツールが増えているので、私も以前に比べると介護がずいぶんラクになりました。
お金や時間を節約する方法はたくさんあることを知っておくだけでも、介護の不安は軽減されるはずです。
【工藤広伸(くどう・ひろのぶ)】
介護作家・ブロガー。1972年、岩手県生まれ。34歳のとき、都内企業在籍中に岩手で暮らす父が脳梗塞で倒れて介護離職。40歳のときには、岩手に住む祖母と母のダブル遠距離介護が始まり、2度目の介護離職を経験。現在は講演や執筆活動を中心に仕事を続けながら、母の遠距離介護を行なう。ブログ「40歳からの遠距離介護」や音声配信Voicyなどでも自身の介護体験を発信。著書に『親が認知症!? 離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)などがある。
更新:12月02日 00:05