読者の中には「介護についてまったく知識がないし、何から始めればいいのか見当もつかない」という人も多いでしょう。そんな人にまずやってほしいのが、親が住む地域の「地域包括支援センター(以下、包括)」について調べることです。
地域で暮らす高齢者を支援する公的な無料相談窓口で、対象地域に住んでいる65歳以上の高齢者、またはその家族などが利用でき、次のような専門スタッフが配置されています。
・保健師...要介護状態になる前の予防を担う
・社会福祉士...高齢者の人権や財産を守る権利擁護や虐待問題解決などを担う
・主任ケアマネジャー...介護全般の相談を担う
包括は、小中学校の学区に1つは設置されているので、親が住む家の近所にも必ずあるはずです。自治体のサイトや広報紙などで調べて、場所と連絡先を確認しておきましょう。
包括では、高齢の親に関する不安や悩みについて何でも相談できます。本格的な介護が始まる前のことでも大丈夫です。
例えば、「親が家に閉じこもってテレビばかり見ている」「親の体力が低下してきたので、健康教室を教えてほしい」といったことでも構いません。訪問だけでなく、電話での相談も受けつけているので、離れて暮らす家族も利用しやすいのがメリットです。
そして、いよいよ「親の様子がおかしい」「もしかしたら認知症かもしれない」という段階になったときも、まずは包括に相談してみてください。親を遠距離介護するには何から始めればいいのかを、専門家が具体的にアドバイスしてくれます。「介護のことはよくわからない」という人こそ、包括の存在を把握しておくことが大事です。
加えて確認しておきたいのが、自分が勤めている会社の介護支援制度の内容です。会社の就業規則に記載されていなくても、育児・介護休業法に定められた「介護休業」と「介護休暇」は、すべての企業に適用されます。
介護休業は、介護する家族1人につき通算93日まで休める制度で、3回に分割して取得できます。介護休暇は、介護する家族1人につき年に5日休める制度で、1時間単位から取得できます。
さらにプラスαとして、独自の介護支援制度を整備する企業が増えています。遠距離介護にかかる交通費を支給したり、介護休業を延長できたりと内容は様々なので、自分の会社の制度を調べてみましょう。
どれくらいの休みをとれるのか、会社がどう支援してくれるのかを知ることで、仕事と介護を両立するイメージが描きやすくなります。
同時に、私がおすすめしているのが、今後のキャリアプランを考えることです。特に50代になると、役職定年を迎えて収入が減る人が増えます。それでも親の介護に備えて貯金する余裕はあるのか。本業だけで厳しいなら副業を始める準備をしたほうがいいのか。こうして自分のセカンドキャリアと親の介護をセットで考えると、より現実的な備えができます。
役職定年後に親の介護が始まった場合、「役職がなくなって肩身が狭いのに、そのうえ介護を理由に休んだら周囲に白い目で見られる」とプレッシャーを感じて、自ら介護離職を選ぶ人が少なくありません。
しかし私としては、親の介護が始まっても、仕事を通じて社会との接点を持ち続けることを前提に、自分の将来を考えてほしいと思っています。仕事を辞めて介護に専念した結果、社会から孤立して精神的にも経済的にも追い詰められてしまうケースが多いからです。
例えば、介護が始まる前から副業を始めれば、仮に今の会社にいづらくなって辞めたとしても、副業の仕事を続けながら社会とのつながりを保てます。
自分はどんな形で社会との接点を作っていけるのか、今のうちから考えておくことがとても大事です。
【工藤広伸(くどう・ひろのぶ)】
介護作家・ブロガー。1972年、岩手県生まれ。34歳のとき、都内企業在籍中に岩手で暮らす父が脳梗塞で倒れて介護離職。40歳のときには、岩手に住む祖母と母のダブル遠距離介護が始まり、2度目の介護離職を経験。現在は講演や執筆活動を中心に仕事を続けながら、母の遠距離介護を行なう。ブログ「40歳からの遠距離介護」や音声配信Voicyなどでも自身の介護体験を発信。著書に『親が認知症!? 離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)などがある。
更新:11月22日 00:05