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岩手に住む母親が認知症に...40歳で始めた“遠距離介護”の現実

2023年09月05日 公開

工藤広伸(介護作家)

介護

親は元気だし、まだまだ自分には先のこと──。そう思っている人に、ある日突然降りかかってくるのが介護です。遠距離介護をして10年の工藤広伸さんに、親が元気なうちに考えておくべきことについて語ってもらいました。

※本稿は、『THE21』2023年10月号特集「50代で必ず整理しておくべきこと」より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

東京と岩手を往復 母を介護して10年

遠距離介護のメリット

離れて暮らす親が高齢になり、介護のことが気になり始めたミドル世代は多いでしょう。でも、普段は自分の仕事や家族のことで手いっぱいで、具体的な準備はできていない人が大半だと思います。

おそらくビジネスパーソンにとって最大の不安は、「もし親に介護が必要になったら、どうしよう。今の仕事を辞めて実家に帰らなければいけないのだろうか」ということではないでしょうか。

それが難しいなら、親を自分の家に呼び寄せて同居するか、介護施設に入居させるしかない、と考える人もいるかもしれません。

しかし実際は、離れた場所で暮らす親を「通い」で介護することは可能です。そう言えるのは、私自身が10年にわたって遠距離介護を続けているからです。

私は東京在住で、介護している母は岩手の実家で生活しています。コロナ禍以前は、東京2週間・岩手1週間というサイクルで、コロナ禍以降は、移動を減らすために、東京2カ月・岩手1カ月のサイクルで遠距離介護を続けています。

母はアルツハイマー型認知症で、現在は要介護4の認定を受けています。それでも母は施設に入らず、今も自宅で一人暮らしを続けています。

介護を始めた当初は、「お母さんと同居したほうがいい」「認知症なのに一人にして大丈夫なの?」と周囲から心配されましたが、私が遠距離介護を選んだのは、ごく自然な流れでした。

遠距離介護が始まったのは2012年のこと。母が認知症かもしれないと気づいたのは、祖母が倒れて救急搬送されたことがきっかけでした。同居する母が病院まで付き添い、入院手続きに必要な書類をもらってきていたのに、記入するのをすっかり忘れて白紙のまま放置していたのです。

実はその1年ほど前から、岩手で暮らす妹が「最近、お母さんの物忘れが増えたみたい」と話していたのですが、ここにきてようやく私も「母は認知症なのかも」と疑い始めました。

祖母は、検査の結果、子宮頸がんで余命半年との診断。認知症の疑いがある母に、祖母の世話を任せるわけにはいかなくなりました。

誰が祖母と母の面倒を見るのか。父は母と別居していて、介護の担い手にはなれません。よって一般的には、岩手在住で実家に近い妹が介護する考え方になるのでしょう。

しかし当時の妹は、小学生2人の子育てと仕事の両立で忙しく、介護まで任せるわけにはいきません。ならば、私が引き受けるべきだろうと考えました。

かといって、実家に帰ろうとは思いませんでした。私も妻も東京での生活があり、それを捨てて岩手に戻ることは考えられませんでした。

一方、母もその頃はあくまで「認知症疑い」の段階で、本人は自分が認知症だとは思っていないので、息子からいきなり「東京で同居しないか」と言われても混乱するだけです。

私は東京での生活を守りたいし、母も岩手で暮らしたい。私が遠距離介護を選んだのは、「お互いにとってベストな方法を考えたらそうなった」という非常にシンプルな理由でした。

それに、遠距離介護にはメリットもあります。特に認知症の場合、住み慣れた場所から新しい環境に移ることで起こる「リロケーションダメージ」を回避できるのが利点です。

親を自分のもとに呼び寄せれば子どもとしては安心かもしれませんが、親は知らない土地での生活に不安を増大させ、心身の状態が悪化するケースは少なくありません。

また離れて介護する場合、自分一人ではできないことが多いので、自然と人の助けを借りるようになるのも利点です。責任感が強い人ほど、すべてを自分一人で抱え込んでしまいがちで、頑張れば頑張るほどストレスがたまり、介護する親に感情をぶつけてしまいます。

でも、離れていると、ケアマネジャーやヘルパーなど介護のプロの手を借りざるを得ないので、一人で悩みや孤独感を抱え込まずにすみます。親とも適度な距離を保てるので、たまに会うときは優しく接しようと思えます。離れていることは、親と子の双方にとって良い面もあるのです。

 

親が元気なうちに考えたいこと

このようにして、今から10年前、当時40歳の私は遠距離介護をスタートさせました。34歳のときに父が脳梗塞で倒れ、短期間ながら介護の経験があったので、いつか本格的に親の介護をすることになるだろうと思っていましたが、まさかこんなに早くそのときが来るとは想定していませんでした。

そのため、決して準備万端だったわけではなく、今振り返ると「親の介護が始まる前にやっておけばよかった」と反省する点が多々あります。

今回、私の経験と反省を踏まえて、離れて暮らす親がまだ元気なうちに、ミドル世代にやっておいてほしいことをお伝えします。

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