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コピペ作業は淘汰される...生成AIの進化で広がる「人材間の格差」

2023年07月20日 公開

山本康正(京都大学経営管理大学院客員教授)、松谷恵(D Capital [株]取締役/パートナー)

 

AIコンシェルジュがポケットにいる時代が来る

――生成AIの巨大なムーブメントは、ビジネスだけでなく、私たちの生活にも大きな影響を与えることが予測されます

【山本】例えば、休日に子どもを連れてどこかに遊びに行こうとする人は、自分で行き先を検索して、グーグルマップでそこまでのルートを調べるという人が多いでしょう。そこで得られる情報には、自分の検索スキルという限界がありました。

しかし、生成AIがさらに進化していけば、自分の検索スキルによらず、よりよい選択肢が一瞬で得られるようになるはずです。

いわば、生活全般において、自分のポケットに常にコンシェルジュが入っている。そんな未来が当たり前になりそうです。

【松谷】スマートフォンが登場したときも、情報へのアクセスのしやすさが向上したことで、利便性が大きく増しましたよね。今や、スマートフォンがない生活は考えられません。生成AIも人間にとってスマートフォン同様に生活を変え得る存在だと思います。

ただ、それは同時に、人間というものの価値についてのパラダイムシフトを引き起こす可能性も秘めていると思います。

ChatGPTは、米国の医師資格試験やペンシルベニア大学ウォートン校のMBAコースの授業の試験など、難関とされる試験で合格ラインに達して話題となっています。また、先日、北米の物理学科で教員をしている友人が作成した大学院博士課程の試験を解かせてみたら、合格ラインに届かずとも結構いい線を行っていたので驚きました。

こうなると、「AIが大多数の人間より優秀ならば、そもそも勉強なんかせずに、すべてAIに任せてしまえばいいじゃないか」と考える人が出てきてもおかしくありません。「人間が学ぶ意義」が改めて問われる時代がすでに到来しているのです。

AIの普及によって人間の仕事が奪われるという議論はずっとされてきましたが、生成AIの進化によって、コピー&ペーストで実は事足りるような仕事は、今後急速に失われていくかもしれません。

すでに生成AIが描いたイラストが世の中で量産されていますが、それに人間が価値を感じるのであれば、芸術的、商業的価値の再定義も求められることになるでしょう。

音楽を作る生成AIもあります。それを使えば、例えばクラブで流すBGMも作ることができます。でも、これまでの人類のベストアルバムとも言えるクラシック音楽に並ぶような作品は生まれるでしょうか。

生成AIに、これまでにない新しい一分野を築くようなことはできるのか。そうした視点から考えると、最終的にクリエイターがゼロになるような未来はあり得ないように思います。

しかし、自身の日々の仕事や活動がルーティンに陥っている場合は、生成AIによって淘汰されるかもしれません。クリエイター間の格差が広がるのではないでしょうか。

 

価値が高まるのはビジョンを描ける人

【松谷】同様の格差は、例えばエンジニアにも顕著に現れるでしょう。指示されたコードを書いているだけのエンジニアは淘汰されます。

【山本】つまり、ビジョンを描ける人の価値がより高まるということですね。指示されたことをただ行なうのではなく、自分で問いを作り出せるような人材が求められていく。

【松谷】そうした未来を見据えると、教育のあり方も変わっていくことが避けられません。単純な知識の蓄積だけでも、AIに任せればいいと思考停止しても、生き残れる人材になりません。自分で問いを組み立てるトレーニングが必要になると思います。

AI技術の浸透はこれからの若い世代にも強い影響を与えるでしょうし、おそらくその世代の世界観はこれまでとはまったく違うものになるでしょう。そのぐらいの大きな意識上の変化も起こるのではないでしょうか。

【山本】直近で起こり得る変化としては、単純作業やアウトソーシングできる作業はどんどんAIに代替されていくことが予測されます。例えばコンサルタントでも、パワーポイントの資料づくりだけが成果物になっている"パワポ職人"に近い若手の方はAIに代替される部分が多い。組織から重視される能力が、これまでとは別物になっていきそうです。

これらの大きな変化に無関係でいられる産業は存在しません。これから数年間でAIが社会のあらゆる領域にもたらすであろう変化や影響に今から気付いて手を打っておかなければ、時代からふるい落とされてしまう。大災害が起きたときに逃げ遅れてしまうようなものです。そんな状況に陥らないためのアクションが必要です。

 

【山本康正】
京都大学経営管理大学院客員教授
1981年、大阪府生まれ。東京大学で修士号取得後、三菱UFJ銀行米州本部にて勤務。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得後、グーグルに入社し、フィンテックやAIなどで日本企業のデジタル活用を推進。京都大学大学院総合生存学館特任准教授も兼務。主な著書に『2025年を制覇する破壊的企業』(SB新書)、『2030年に勝ち残る日本企業』『入門 Web3とブロックチェーン』(共にPHPビジネス新書)などがある。

【松谷 恵】
D Capital(株)取締役/パートナー
東京大学工学部航空宇宙工学科卒業、マサチューセッツ工科大学航空宇宙工学科博士課程修了。NASAのラングレー研究所などでの航空機制御理論研究を経て、米ゴールドマン・サックスにてトレーディングの自動化に関する研究開発に従事。その後、(株)ZOZOのテクノロジー子会社の取締役CSOとして研究開発組織の構築とAIの研究開発およびデータ戦略を推進。2021年、パートナーとしてD Capital(株)を立ち上げる。

 

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