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作家・百田尚樹が見つけた「話が面白い人・つまらない人」の決定的な違い

2023年03月24日 公開
2023年05月24日 更新

百田尚樹(作家)

 

日本のモノづくりの伝統が生んだ零戦

大東亜戦争が始まった当初、アメリカ軍は劣等なアジア人がまともな飛行機など作れるはずがないと、零戦を舐めてかかりました。しかし零戦と格闘したアメリカ軍の戦闘機はバッタバッタと落とされました。

空中戦はドッグファイトと呼ばれます。犬同士が互いに相手の尻尾を嚙もうとぐるぐる回る様子からできた言葉だそうです。

零戦にドッグファイトを挑んだアメリカの戦闘機は、3回転するまでに零戦に後ろにつかれ、銃撃を浴びて撃墜されたそうです。

そのうちに連合軍も「これは恐ろしい戦闘機だ」ということで、驚くような指令が出されます。それは、任務を途中で放棄していいケースは、「雷雨と遭遇した時」と「零戦に遭遇した時」というものでした。

零戦は日本のモノづくりの伝統が生んだ最高の兵器でしたが、実はここに零戦の欠点がありました。というのは、モノづくりにこだわりすぎた結果、1機の零戦を生み出すのに、大変な工程と時間がかかったことです。

たとえば画期的な沈頭鋲(ちんとうびょう)です。鉄板を継ぎ合わせるためには鉄の鋲を打ちますが、普通に鋲を打つと鋲の頭が飛び出ています。それ自体は小さなものですが、1つの機体に何千とありますから、これらは空気抵抗を生み、速度をわずかながら落とすもととなります。

そこで堀越は鋲の頭が出ないように「沈頭鋲」という鋲を考えたのです。たしかにこれで空気抵抗が減り、速度は上がりましたが、そのために工程数が増え、工程時間も延びたのです。

 

聞き手は何も知らないという前提で話す

また機体を軽くするために、中に入っている骨組みに穴を開けるという作業もしました。そのためにまた多くの工程が増えました。

さらに最高性能を得るために、機体にはすべて微妙なカーブがあります。零戦には直線でできた部分がほとんどありません。これが零戦の美しさであり、今も世界の戦闘機マニアから人気の高い理由の1つです。

同時代にできたアメリカのグラマンは、直線ばかりで、翼の形もハサミで切ったように、台形に近い形をしています。もちろん機体一面にはでかい鋲の頭が出ています。

でも実はアメリカ人も、その状態では速攻の性能は望めないことはわかっていました。わかっていながらそうしたのは、「作りやすさ」を考えてのことだったのです。戦時で主婦などを工場で働かせる場合も想定し、熟練工でなくても作ることができ、大量生産がしやすいように設計されていたのです。

1機1機の性能は多少劣っても、数で圧倒すれば戦いには勝てる─グラマンはそういう思想で作られた量産用の戦闘機であったともいえます。それに対して零戦は、日本的な徹底したモノづくりの精神で作られた手作りの芸術作品のような気がします。

零戦に関してはまだまだいくらでも語れますが、どうですか? 零戦についてまったく関心のなかった人でも、興味深く読めたのではありませんか。いや、全然面白くなかったと言われれば、「失礼しました」と申し上げるほかありませんが。

話がかなり長くなりましたが、私が言いたかったことを繰り返しますと、人に面白い話をしようと思う時は、「あなた自身が面白いと思うことを話すこと」と、「話のテーマになっていることを、聞き手は何も知らないという前提で話すこと」です。ひとりよがりの話ではいけません。

 

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