2012年05月14日 公開
2022年09月15日 更新
《 『THE21』2012年6月号より》
橋下徹さんについて、僕の立場は肯定でも否定でもありません。何に対してでもフラットにみるのが僕の姿勢ですから。
橋下さんの発言や政策に対して真剣に怒ったり、熱狂的に支持したりする人が多いようですが、もう少し俯瞰した視点、いってみれば「プロデューサーの視点」からみたほうがより面白いし、学べることも多いのではないかと思いますね。
その視点から「橋下徹氏の打たれ強さの秘密とは何か?」と考えてみると、じつは打たれ強いわけではないのではないか、と思うのです。そうではなくて、「攻撃をエネルギーに変換できる人」なのだと思います。
典型的だったのは、大阪市長・府知事ダブル選挙での圧勝でしょう。既成政党がすべて現職の平松邦夫氏支持にまわり、マスコミのバッシングも強いなかでのあの大勝利を、意外に思った人がいるかもしれません。
でも、僕からするとなんの驚きもありませんでした。叩かれれば叩かれるほど、橋下さんが有利だと思っていたからです。
これは想像ですが、選挙終盤になって、とうとう共産党までが平松氏支持にまわったとき、橋下さんはガッツポーズをしたのではないでしょうか。週刊誌が家族のことまで取り上げてバッシングしてきたのも、「きた!」という感じだったのでは。
なぜかというと、ヒーローは強大な敵に囲まれてピンチにならなければ輝かないからです。
『宇宙戦艦ヤマト』を思い浮かべてください。ガミラス艦隊が強大であればあるほど、孤軍奮闘するヤマトは輝く。攻撃を受けてボロボロに傷つくほど、みんなはヤマトを応援するのです。それがヒーローの論理ですね。
ですから、もしも市長選の前に、「橋下さんは圧勝間違いない」「やっぱりすごい」とメディアで褒めそやされていたら、そっちのほうがつらかったでしょうね。だって、毎週ヤマトがガミラスに圧勝する話だったら、誰も観ないでしょう(笑)。あの市長選で既成政党の半分が橋下さんを支持したり、マスコミが持ち上げるばかりだったとしたら、浮動票は「寝て」しまったと思います。そうであったら、組織票をもっている平松さんが有利だったでしょう。
しかも、そうなる危険性はじゅうぶんにあったのです。なんといっても、橋下さんは大阪府知事として高い支持率を保ったまま市長選に出馬したわけですから。それを自分でもわかっていたからこそ、橋下さんは「状況は厳しい」と言い続けて、孤軍奮闘ぶりを演出しようとしていたのではないでしょうか。
結果的には、マスコミや既成政党がこぞってその演出に“協力”したため、橋下さんはほんとうに孤軍奮闘するかたちになった。見事にヒーロー演出にレバレッジがかかったわけです。大勝利は当然のことでしょう。
もう1つ、橋下さんの仕掛けでうまいなと思うのは、「大阪市役所をぶち壊す」といったことです。
これは、「自民党をぶち壊す」といった小泉元総理と共通していますね。どちらも、これから自分がリーダーになろうという場を「ぶち壊す」と宣言している。ほんとうに壊れたら自分の拠って立つ場所がなくなって困るわけですが(笑)。あえて自分のポジションまで危険にさらす宣言だからこそ、迫力が生まれる。絶妙なさじ加減ですね。
橋下さんにとっての「大阪市役所」、小泉さんにとっての「抵抗勢力」のように、仮想敵をわかりやすく設定するというのはとても大切なことです。
ガミラス艦隊の乗組員がどれだけ死んでも、視聴者はなんとも思いません。一方、ヤマトの乗組員が1人死ねば、わがことのように悲しむ。わかりやすい敵/味方の図式というのは、そのくらい強力に人の心を動かすものなのです。
ですから、そういうやり方の是非は別として橋下さんから学ぶという観点からいうと、「仮想敵をつくる」という手法は無視できないでしょう。
改革を推し進めたいのなら、特定の上司でも部署でもいいので、「会社を悪くしている敵」を設定する。そして、自分の足場を崩す危険を冒してでも「ぶっ壊す」と宣言する。これは周囲の支持を集める強力な手法です。
「民主党は次なる総選挙での敵」とはっきりと発言したことを考えても、橋下さんは日本人が好きなヒーローの図式に自分を当てはめるのが、とてもうまいとわかるはずです。
橋下さんって、笑顔が印象的だと思いませんか? それと、歯がとても綺麗ですよね。
おそらく彼は、自分の笑顔の魅力をよく知っていて、それを最大限に活用していると思います。テレビでどんなに叩かれても、「何いってんだよ」と跳ね返して、綺麗な歯をみせて破顔一笑する。あれがいいんです。見た目で「あの人、素敵」と思わせるのは、味方を増やすうえでとても重要なことですから。
ちなみに外見についていうと、タレントとしてテレビに出ていたころの橋下さんは、薄い色のサングラスをかけて髪を染めた、「弁護士らしからぬ弁護士」というキャラクターで売っていましたよね。もうほとんどの人が忘れていると思いますが。(笑)
政治家としては、「一本筋が通っているキャラクター」をアピールしていますが、一方でとても柔軟なところが橋下さんの強み。“一人パラダイムシフト”というか、状況に合わせて軽やかに自分を変えられるのです。しかも、それをみる側に悟らせない。おそらく本人に聞いたら、「僕は昔から変わりませんよ」と平然というんじゃないでしょうか。
橋下さんには、「現代の戦は選挙なんです」という名セリフがあります。実際、つねに戦いの高揚感を求めているところはまるで戦国武将のよう。攻撃されてもダメージを受けるどころか、むしろアドレナリンが上昇して闘志が湧いてくるタイプなのでしょう。ですから、わかりやすい敵がいるあいだは、橋下さんの勢いは衰えることはないと思います。
問題は、噛みつく相手がいなくなったときです。これは一市民運動家から総理大臣にまで上り詰めた管直人さんも直面したジレンマです。菅さんは総理大臣になったとたん、噛みつく相手がいなくて抜け殻みたいになってしまった。
小泉さんにしても、郵政選挙圧勝後はあまり面白くなくなってしまいましたよね。『ヤマト』だって、イスカンダルに着いてコスモクリーナーを手に入れたら、地球への帰路は2秒くらいしか描かれないわけです。
ですから、橋下さんも大阪都構想を実現してしまった場合にどうなるか。攻撃をエネルギーに変えられる人だからこそ、叩かれなくなったらこれまでとは違うプロデュースが必要になってくる。そこが課題でしょうね。
プロデューサー
1965年、東京都生まれ。1987年『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の放送作家オーディションに合格。番組の総合演出だったテリー伊藤氏に師事し放送作家デビュー。『学校へ行こう!』『仕立屋工場』『音楽寅さん』『空飛ぶグータン』など数多くのヒット番組の企画や演出・プロデュースを手がける。さらにWEBサイトやSNSゲームをはじめ企業ブランディングやジャンルを超えたコラボ企画のプロデュース、ファッションからマンションなどさまざまな分野のデザインなど、その活動は多岐にわたる。「対談の名手」として雑誌や書籍のインタビュアーを務めることが多く、またブログやツイッターが高いアクセス数を誇り情報キュレーターとしても信頼度が高い。
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更新:11月27日 00:05