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会社を出よう! 初心者のための「ノマドワーク」入門

2012年04月02日 公開
2023年05月16日 更新

安藤美冬(〔株〕スプリー代表取締役社長/「自分をつくる学校」学長),中谷健一(トリムタブジャパン〔有〕代表取締役)

ノートパソコンを片手に、カフェやレンタルオフィスを移動しながら働く。その様子が遊牧民を思わせることから、「ノマド(英語)」と呼ばれる新たなワークスタイルが最近話題だ。

「フリーランスならともかく、会社員には関係ないよ」と決めつけるなかれ。ノマドワークスタイルは、うまく活用すれば会社員にとっても強力な武器になる。自らも企業でのなかで働きながら独自のワークスタイルを確立した2人のノマドワーカーに、素朴な疑問に答えるかたちで「サラリーマンのノマドワーク」を伝授していただいた。(取材・構成 川端隆人)

※本稿は、『THE21』2012年4月号より内容を一部抜粋・編集したものです。

 

なぜいま「ノマド」が注目されているのか?

 最近、オフィス街のカフェにいくと、ノートパソコンに向かって黙々と作業をしている人たちをよく見かける。朝の新幹線のなかでも、大半の人が小さなテーブルのうえのパソコンや書類に目を落としていて、さながら移動オフィスのようだ。そんな状況に対して、『「どこでもオフィス」仕事術』の著者・中谷健一氏はこう語る。

「いままでは、仕事をすることができる環境はオフィスにしかありませんでした。しかし、ノートパソコンなどのIT機器の進化はもちろん、ソフトや無線LANの充実などによって、どこでも仕事ができる環境が整ってきた。

情報通信の発展がもたらすメリットを、個人の働き方レベルで享受できるようになったのです。同時に、これまでの終身雇用の仕組みが揺らぐなかで、気持ちの面でも、行動の面でも会社にしがみつかずに働くワークスタイルが注目を浴びるようになったということでしょう」

ノマドワークスタイルの実践者、オピニオンリーダーとして活躍する安藤美冬氏も、「『ノマド』が注目される背景には、『会社を離れて一人で生きていく力はあるか?』という問題意識があると思います」と語る。

とはいえ、「ITで武装し、自ら働く場所とプロジェクトを選択するプロフェッショナル」という、本格的なノマドワーカーのスタイルは、会社員にはやや縁遠いものに思われる。

「たしかに、それもノマド的な働き方の1つですが、それに限定してしまうと、ごく一部の人しか実践できないことになってしまいますよね。私は、『ノマド』はもっと多くの人に実践可能なものだと考えています。デバイスやクラウドサービスを自分なりに使い、1つの場所に留まらずに働くことに積極性を見出す働き方であれば、それはノマドワークスタイルといっていいのではないでしょうか」(中谷氏)

最初から完全な遊牧民をめざすのではなく、半日だけ、あるいは出張中だけ、積極的に外で仕事をしてみる。普段オフィスだけで仕事をしている人は、小さなことから実践してみるといいだろう。

 

「ノマド」の働き方には、どんなメリットがある?

 ノマドワークスタイルのメリットとして、実践者たちが真っ先に挙げるのが「発想が豊かになる」ということ。

「私は会社員時代から、意識してオフィスを離れて仕事をするようにしていました。いつも同じ人と同じ場所で仕事をしていると、思考回路が凝り固まってしまうような気がしたからです。とくに何かの企画を考える際は、会社の近くの喫茶店やホテルのティールーム、訪問先企業のロビーなど、環境を変えて仕事をすることを意識していました。クリエイティブなアイデアをひねり出すために、場の力を借りるという感じです」(安藤氏)

取り組んでいる課題に行き詰まっていたのにトイレに立ったらいいアイデアが浮かんだ、といった経験は多くの人にあるはず。環境はその人の思考に大きな影響をもたらすのだ。

もう1つのメリットは、仕事をする時間と場所を自分で決めることで、ワークライフバランスが向上するということ。

「たとえば、定時に退社して家族と一緒に食事をし、子供をお風呂に入れる。そのあと寝かしつけたところで近所のマクドナルドにいって、9時から12時まで仕事をする……といったこともできます。私は家族旅行中に旅館で仕事をしていることもありますよ(笑)。『忙しいから家族と過ごす時間がない』といっていた人も、ノマド的手法を取り入れることで解決策を見出せるのでは」(中谷氏)

単純に効率面からみても、ノマドワークスタイルには大きなメリットがある。

「ノマドワーカーに聞くと、オフィスで仕事をする場合より1.5倍から2倍の作業効率になる、と感じている人が多い」(中谷氏)というのだ。

たしかに、ノマドの働き方は、オフィスにいる場合と違って、電話や上司からの命令などに邪魔されにくい。「カフェに何時間も長居しづらい」というプレッシャーもある。自ずと集中力が高まるのだろう。

さらに、ノマドがマインドを変えてくれる効果も見逃すことができない。

「会社の外の空気を吸うことで、会社だけが自分の世界ではなくなります。積極的に外に出ることが、自分が独立した存在であるというアイデンティティの確認につながるのです」(安藤氏)

これからの会社員には、会社がなくなってもうろたえない心構えが求められている。ノマドは、その心構えを養う自立の訓練にもなり得るのだ。

 

ノマドワーク初心者は何から始めればいい?

 ノマドワークは、実行するにあたって大きな手間や費用を要するわけでもない。その気になれば今日からでも始めることができる。

中谷氏が「3大基本ツール」と呼ぶ (1)ネットにつながるノートパソコン、(2)スマートフォン、(3)ノートと筆記用具 があれば、とりあえず社外で仕事をするのに不便はないはずだ。まずはあれこれ荷物をもたず、この3つだけで外に出てみよう。

(ノマドワークにお勧めソフトとして、オンラインストレージ用に「ドロップボックス」、データバックアップに「シュガーリンク」、情報収集・整理に「エバーノート」。お役立ちグッズでは「携帯電話通信端末」「LANケーブル」盗難予防用の「ケンジントンロック」などがある。意外だが「レゴブロック」もスマートフォンを見ながらパソコンを操作する場合などに重宝する)

ただ、単に「たまに外で仕事をする」のではなく、「どんな場所でも同じように仕事ができる」状態にステップアップするには、1つやっておくべきことがある、と安藤氏。それは意外にも「会社のデスクの片づけ」だという。

「いつでもどこでも同じように仕事ができるようになるには、『会社のデスクに戻らないと仕事ができない』という状況ではいけないのです。そのためには、机周りを整理して、廃棄したりデータ化したりする必要があります」

実際、以前の安藤氏の机は、「資料がタワーのようにうず高く積まれていた」そうだが、それを徹底的に整理した。スキャナなどでデジタル化した資料もあるが、「もう見返すことはない」と捨てたものも多かったという。

「名刺も3000枚ほどあったのですが、ほとんど処分しました。メールを一度やり取りすれば、その人の連絡先は残りますから、ほとんどの場合問題ないのです。ノマドワークスタイルを続けるには、不要なモノを増やさないことも大事なことだと思います」(安藤氏)

 

ノマドの達人が実践しているコツとは?

いつでもどこでも仕事ができるというのがノマドワークスタイルの利点だが、ノマドワーカーは、それだけでなく、仕事のタイプによって場所の使い分けを意識しているという。

「企画やコピーを考える場合など、アイデアを出す場面では、天井が高い場所にいきます。ホテルのティールームなどが最適ですね。そういう場所は、なぜか発想が豊かになるんです。文書の校正をするときや資料を読み込む場合のように根を詰めて作業する場合には、静かな喫茶店にいきます。寡黙なマスターがコーヒーを掩れているようなタイプのお店ですね。そういう喫茶店ではおしゃべりをする人もあまりいないので、集中する必要のある仕事には向いています」(安藤氏)

中谷氏も、場所によって変わる脳の働きを積極的に活用すべきだと話す。

「『今日の仕事は、会社のデスクでやるよりも、カフェでやったほうがきっとはかどるだろう」と感じるなら、ぜひそうすべきだと思います。ただ、どの場所がどんな作業に向くかは個人の感性によって違う面もあるでしょうから、ある程度の試行錯誤が必要でしょう。いろいろな場所でノマドワークを実践してみて、その効果を測定しつつ、自分なりの“目的別サードプレイス”を見つけていくことも大切ではないかと思います」(中谷氏)

 

安藤美冬
(株)スプリー代表取締役社長、「自分をつくる学校」学長

1980年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、(株)集英社に入社。2011年に独立し、ソーシャルメディアでの発信とセルフブランディングを行ないながら、複数の仕事、複数の肩書きで仕事をする独自のノマドワークスタイルの実践者として注目される。新しいワーク&ライフスタイルを提唱するべく、執筆活動や講演を積極的に行うかたわら、2012年3月、学長を務める「自分をつくる学校」を設立。

中谷健一
トリムタブジャパン(有)代表取締役

1968年生まれ。大阪大学卒業後、(株)リクルートに入社。情報誌の創刊やウェブ企画立案に携わったのち、2005年にモバイルマーケテイングコンサルタントとして独立。現在、仕事の9割はカフェやクライアント先、移動中などでこなすノマドワーカー。そのノウハウは、著書『「どこでもオフィス」仕事術』(ダイアモンド社)のなかで公開している。

 

「ノマド」に役立つ便利サイト

最後に、ノマドワーキングに役立つサイトを3つご紹介。ブックマークして活用しよう!

●FREE SPOT

 無線LANスポットを素早くサーチ! 
 http://freespot.com/
市町村名や駅名から無料で使える無線LANスポットを検索できるサイト。「カフェ」や「ホテル」「駅jなどの業態や、「利用できる電源の有無」などから絞り込みできるので、初めていく場所でもすぐに「ノマド」できる場所を見つけられる。

 

毎月発表される「利用者の多いスポットランキング」も参考になる


●電源カフェ

情報の鮮度と信頼性が高いサイト 
http://dengen-cafe.com/
こちらも無線LANやモバイル用電源が使えるお店を探すサイト。ちゃんと電源が利用できることを店側に確認のうえ掲載しているので、情報の信頼性は高い。「スターバックス」「フロント」など、チェーン店名から検索できる点もマル。

 

ノマドワーカー好みの、“ちょっとオシャレな店”も充実


●net print

セブン-イレブンのコピー機を外出時のマイプリンターに
 http://www.printing.ne.jp/
ファイルをweb上に登録することで、全国のセブン-イレブンにあるマルチコピー機からプリントアウトできるサービス。iPhone/iPad、Android、携帯電話など各種モバイルにも対応しており、外出先でも自在にプリントアウトが可能。

富士ゼロックスが提供するサービスだけにプリントの質も高い

 

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