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リモートワークは一過性の流行で終わるのか!? 見落とされがちな「社員の帰属意識の変化」

2021年07月02日 公開
2023年02月21日 更新

長田英知(良品計画執行役員)

長田英知

仕事(Work)と休暇(Vacation)を組み合わせた造語である「ワーケーション」。「リモートワーク等を活用し、普段の職場や居住地から離れ、リゾート地などで普段の仕事を継続しながら、その地域ならではの活動も行うこと」と一般的には定義される。

しかし、長田英知氏は、「休暇と仕事を混在させた時間を意識的に作り出すことで、創造力=クリエイティビティを引き出す一種の仕掛け」と定義し、「絶え間なく変わる市場環境の中で、新しい価値を生み出し続けるためには、この仕掛けをどう活用していくかがとても大事になる」と言う。とはいえ、ワーケーションでは、社員のコミュニケーションが悪くなってしまうのでは…?

※本稿は、長田英知 著『ワーケーションの教科書』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

 

距離とコミュニケーションには「負の相関」がある

企業が社員のワーケーション、あるいはその前段となるリモートワークを好まない理由として、会社のオフィスから物理的に離れることによるコミュニケーション不足と社員の帰属意識の低下があります。

高度経済成長期からバブル崩壊前まで、日本企業における働き方は、年功序列と終身雇用のシステムをベースとして考えられてきました。誤解を恐れずに言うならば、それは働き手が会社へのコミットメントを誓う代わりに、会社が雇用と老後の安心を約束する仕組みであったと言えます。

会社へのコミットメントはオフィスにいる時間の長さや、雨が降ろうが槍が降ろうが就業時間に間に合うようにオフィスに来るといった場所と時間への従属関係で測られ、ときに働き手の仕事のスキルや成果よりも重要な意味を持っていました。

会社に属するという概念や本業・副業の捉え方が大きく変化している今も、仕事をする=会社のオフィスにいるという前提は、社会の中に根強く残っています。

ただし、社員がオフィスに来ることに会社がこだわるのも、理由がないわけではありません。米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授のトーマス・J・アレンは、1970年代に、「物理的な距離とコミュニケーションの頻度には、強力な負の相関的な関係がある」ことを証明しました。

彼の研究結果では、席の近い同僚(約1.8メートルの距離にいる人)と、席の遠い同僚(約18メートルの距離にいる人)では、コミュニケーション量に4倍の差が生じたと言います。そしてフロアや建物が別になると、さらに連絡をとり合わなくなるという結果が出されています。この距離とコミュニケーションの負の相関性は、「アレン曲線」と呼ばれています。

一方、今日ではメールやテレビ会議など、距離に関係なく誰とでも密にコミュニケーションがとれるため、アレン曲線は成立しないと反論される方もいるかもしれません。

しかし米コーネル大学ILRスクールのバネッサ・K・ボーンズ准教授の研究結果によると、物理的に同じオフィスで働いているエンジニアは、別々の場所で働いているエンジニアと比べて、デジタルツールで連絡をとり合う確率が20%高いことが明らかになっています。

また緊密なコラボレーションが必要な場面において、同じオフィスのエンジニアがメールをやりとりする頻度は、オフィスが異なる場合の4倍だったと言います。デジタルツール全盛の現在のビジネス環境においても、アレン曲線は成立しているのです。

私が勤務していたIBMは他社に先駆けて在宅勤務のリモートワークを始めており、2009年には社員の約40%が在宅勤務をしていました。しかし2017年には、この制度を利用していた社員に、オフィスに戻って勤務するようにという指令が出されました。

これも、デジタルツールを活用したリモートワークよりも、会社のオフィスに人を集めてリアルなコミュニケーションを大事にするワークスタイルの方がよいと判断されたのです。

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