2022年01月13日 公開
2023年02月21日 更新
あなたはある化粧品メーカーに勤務していて、主力商品である「アイライナー」を担当することになったとします。
「アイライナー」とは、目元のメイクアップ化粧品の1つです。ペンやブラシでまつげの生え際の目の縁に沿って「アイライン」と呼ばれる細い線をひき、目元の印象を魅力的に変化させるアイテムです。
あなたが担当することになった「アイライナー」はここ数年、ずっと売れ行きが低迷していて、経営陣は困っていました。そんなある日、上司から呼び出されたあなたは「売れなくなったわが社のアイライナーを、再び売れるようにするために、リブランディングを進めてくれないか」と頼まれます。そのときに、もし「とりあえず、アイライナーについて調査しよう!」と動き出したとしたら、いったいどうなるでしょうか。
例えば「とりあえず、女性のアイライナーに関する悩みを聞いてみよう」と調査にかけたとします。その結果、出てきた情報は「にじむ、書きにくい、落ちる」という、すでに誰もが知っている「アイライナーにはよくありがちな不満点」ばかり。「何を明らかにし、どう活かせる情報」なのかがまったくわからず、せっかく出したデータが無駄になるという結果になってしまうでしょう。
あるいは、「とりあえず、すべてのお客様がアイライナーを買うときに何を重視しているのか、全年代の購入決定重視点を調べてみよう」と考えて調べてみたとします。すると、出てきた結果は「価格の安さ」が1 位というもの。価格が安いのが嬉しい、というのは当たり前のことなので、これもどう活かせる情報なのかわかりません。しかも10 ~70 代まで「全年代」から網羅的に取ったデータは、何にどう活かせるのでしょうか。お金と時間をかけて全年代のデータを取る必要はあったのでしょうか。
さらに、アイライナーをどうリブランディングすればいいかを知るために、「とりあえず、どんなアイライナーが欲しいか聞いてみよう」ということで、アイライナーを使用している女性を対象にアンケート調査を行ってみます。しかし、特に画期的なアイデアが出てくることはないでしょう。「生活者はアイデアマンではない」とはよく言ったものです。
そして、「広告のタレントを替えればいいのではないか?」と考えたとします。そこで「とりあえず、若い女性が憧れる女性タレント」の情報を集めます。すると結果は、「広瀬すず」さんばかり。他社の化粧品ブランドの広告に出演している女優さんなので、この事実をどう活用したらいいかわからない、という結果になってしまいました。
この例に似た経験を多々してきました。膨大な情報の山に埋もれて、何からどう調べればいいのかもわからず、途方にくれることはしょっちゅうで、時間とお金をかけても何も見つけられないという経験は数えきれないほどあります。活用できるデータがまったく出てこなかったり、分析が無駄に大変になったり……。
このように、「とりあえず」のリサーチは無駄になる確率が非常に高くなってしまうのです。だからこそ、それまでの失敗経験や試行錯誤のもと、「とりあえず調査」から抜け出し、ビジネスで成果を生み出すための調べ方を徹底的に磨くことにしたのです。
そこから私が見出したのが、ある2つのルールでした。
本来的には、リサーチというものはこれまで気がつかなかった新たな視点や、意思決定に必要な情報をもたらしてくれるものです。だからこそ、リサーチを無駄打ちせずに、有益な情報を得られるようになる「調べ方」ができるようになるために、私は以下の2つのルールを自分に課したのです。
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ルール【1】「とりあえず調査」という考え方を徹底的に捨てる
ルール【2】 まず「なんとなく」でかまわないので、自分が直感的に感じている問題、本質的な問題だと思うことから、必ず「仮説」を立てる
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「仮説」というのは、現時点で把握している情報から導き出す仮の答えです。経験による肌感覚的な部分はありますが、あてずっぽうということでもなく、「現時点で一番ありえそうな結論」を仮説として考えるのです。この2つのルールを遵守することで、無駄なリサーチが減っていき、それとは逆に、ビジネスでどんどん成果が出るようになっていったのです。
例えば、先ほどの「とりあえず女性のアイライナーの悩みを調べたら、誰もが知っている不満点しか出てこなかった」という失敗事例の場合。
先に仮説として「アイライナーは商品の種類がとても多くて、どれも同じように見えて選びにくい、と思っている女性が多いのでは?」という仮説を、自分の頭の中だけで考えて先に出します。
すると、「実際にそう思っている人、どのくらいいるんだろう?」のように、リサーチを使って明らかにしたいことが絞り込まれます。その上で、「女性のアイライナーの悩みを聞く」という手段を選んでいくという順番で調べていたら、活かせるデータを取れていたかもしれません。
購入決定重視点として「全年代で価格の安さが1位」という当たり前の結果になってデータを活かせなかった、という失敗事例の場合。
まず「メインターゲットは20 〜30 代女性」という仮説を立てて、さらに「ターゲットのアイライナーの購入決定重視点は、濃くならず抜け感があるトレンドメイクができることと、しっかり1日メイクが落ちずに持つことの2つなのではないか?」という仮説を考えます。
すると、「この2つのうち、どちらがより重要視されているんだろう?」のように、明らかにしたいことが絞り込まれます。その上で、「購入決定重視点を聞く」という手段を選ぶという順番で調べていたら、活かせるデータを取れていたかもしれません。
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更新:11月22日 00:05