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「完成までのプロセス」が価値を生む...差別化できない時代に伸びる会社の共通点

2021年11月08日 公開
2023年02月21日 更新

THE21編集部

会議

「今や、完成品では商品・サービスの差別化は難しくなっており、完成品に至るまでのプロセスこそが価値を生む時代だ」と言われる。プロセスには、作り手の哲学やこだわりが表れるからだ。そこで、様々な業界で、顧客にプロセスを見せることで価値を生んでいる企業を取材した。

 

ユーザーの意見をもとに開発したクッキー

BASEFOOD
BASE FOOD Labo

26種のビタミンやミネラル、たんぱく質、食物繊維などを含んだ「完全栄養食」の「BASE FOOD」を手がける2016年創業のベンチャー企業・ベースフードは、2018年から「BASE FOOD Labo」というオンラインコミュニティを運営している。会員は、定期購入者を中心とした、同社の商品のユーザーだ。

「以前からユーザーの意見を聞くためにイベントや試食会を開催していたのですが、頻度が限られますし、地方在住の方は参加しにくい。そこで、匿名で参加できる、オンラインのコミュニティを立ち上げました」(同社CMO・齋藤竜太氏)

現在、会員数は1万人を超え、ユーザー同士や、ユーザーと社員との交流の場になっている。このBASE FOOD Labo上で、同社は会員とともに商品・サービスの改善や新商品の開発も行なっている。

「例えば、今年6月に発売した『BASE Cookies』は、ユーザーのBASE FOOD Laboへの投稿を見ていると、BASE FOODを間食として食べている人も多いことに気がついたのがきっかけで開発した商品です。

BASE FOODにはパン(『BASE BREAD』)とパスタ(『BASE PASTA』)があるのですが、間食として食べるならどんなカテゴリーの商品がいいのか、会員にアンケートを取るなどして、クッキーを作ることにしました。

『クッキーにする』と決まった後も、サンプルを自宅に送って食べてもらったり、フレーバーや価格についての意見もいただいたりしながら、商品化しました」(齋藤氏)

商品開発のためにユーザーの意見を聞くことは、多くのメーカーが、グループインタビューなどの形で行なっている。しかし、BASE FOOD Laboには、一般的なグループインタビューとは違う特徴があるという。

「一般的なグループインタビューは、商品のターゲットとなる年代・性別のモニターに向けて実施することが多いので、その1回限りの関係になることが多いと思います。

一方ベースフードの場合は、ユーザーとの関係性が継続し、長い間、当社の商品を購入していただいている方々の意見を聞けます。ユーザーも、自分の意見が商品やサービスに反映されるのを実感できるので、ますます当社との関係性が強くなっていきます」(齋藤氏)

BASE FOOD Laboでアンケートを取るなどするのは月に1度ほどだが、日々のユーザーの投稿を見ることも、重要な情報になっているという。

「Instagramだと写真映えする画像が多く投稿されがちですが、BASE FOOD Laboでは、商品のリアルな使用シーンを投稿してくれたり、ユーザーがやってみた『研究』を投稿してくれたりします。

最近だと、BASE BREADでマリトッツォを作ってみたという投稿も多かったですね。BASE BREADをカレーと一緒に食べている方の投稿から、BASE BREADのカレー味を商品化したりもしました」(齋藤氏)

BASE FOOD Laboでのユーザー同士の交流が活発になるように、「秋の食材を使ったワンプレートアレンジレシピ」といった「研究課題」を毎月出している。

「会員は皆、健康意識の高い方々ですから、そうしたテーマで会員が交流できるイベントも、コロナ禍が明けたら開催したいと思っています。また、現在も定期購入者から社員を採用することがあるのですが、BASE FOOD Laboの会員からも社員を採用できればとも思っています」(齋藤氏)

 

デザイナーが自ら発信してファンを作る

maison407

ステイト・オブ・マインドが行なっている、洋服のブランドを育成するためのプロジェクト「maison407」では、デザイナーがブランドを作る過程をSNSやYouTubeで発信している。

「当社は、『nutte』という、縫製職人とデザイナーとのマッチングサービスから始まりました。そこで作った商品を『teshioni』というECサイトで販売しているのですが、自分のブランドを持ってteshioniで販売したいという方が多くなってきたので、そうした方と伴走しながらブランドを育成するプロジェクトを始めました」(同社取締役・佐藤杏里氏)

maison407では、まだ自分のブランドを持っていない人たちを募集している。応募者にプレゼンをしてもらい、面接をして「この人から買いたい」と思える人、「モノではなく、ブランドを作る」ことを理解している人を選抜しているという。

「ECで販売する以上、SNSを活用しない手はありませんから、以前からteshioniでは、デザイナーがSNSで商品やイベントについて発信してきました。こうした発信は断面的なものになりがちなのですが、中には継続的に発信をしているブランドもあり、そうしたブランドはうまくいっていたんです。

『あのとき、こういうことを考えて、こういうことをやって、こういうことを発信した』という情報が蓄積されると、それが価値を生んで、商品を再販したときに値段が下がらないどころか、むしろ上がる。その経験から、SNSで継続的に発信をしていけば、ブランド自体を育成することもできると考えました」(佐藤氏)

YouTubeで配信しているのはドキュメンタリー風の映像。例えば、デザイナーが悩み、質問を投げかけられ、考えて答えを出す、といった過程が映し出されている。

「デザイナーがインスタライブをすると、『YouTubeでこう話していたよね』といったコメントをもらうこともあります」(佐藤氏)

maison407がSNSやYouTubeで発信をするのは、デザイナーにファンを作るためであり、商品開発のためではない。

「私たちが作っているのは、あくまでブランドです。ですから、例えば『もっと丈が短いほうがいい』というコメントがあったからといって、その通りにするというわけではありません」(佐藤氏)

今年8月に選ばれた第1期生4人のブランドは、10月に発売され、うち3ブランドの商品が即日完売した。

「ファンになっていただいたお客様からデザイナーに『完売、おめでとう』というメッセージが届きました。普通は完売したことをお客様に喜んでいただくことはないと思います」(佐藤氏)

9月には、実際に商品に触れられる完全予約制の試着室「407試着room」も東京都渋谷区にオープン。販売はせず、デザイナーと直接交流ができる場だ。これもまた、ブランド育成のプロセスを見せる1つの方法だと言えるだろう。

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