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「滝沢カレン」「ピューロランド」がコロナ禍でバズった理由

2021年06月16日 公開
2023年02月21日 更新

本田哲也(PRストラテジスト)

ソーシャルディスタンス

広告やPR、口コミ、SNSなどで情報の流通や拡散の経路が複雑化しているところに新型コロナウイルスの感染が拡大し、リアルイベントへの集客もできなくなった。この状況で、企業はいかにステークホルダーとの間で適切な「間合い」を取ればいいのだろうか? 戦略PRの第一人者・本田哲也氏に、ニューノーマルの「間合い」について聞いた。

※本稿は、本田哲也著『ナラティブカンパニー』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

 

今こそ心理的距離を考慮した「新しいエンゲージの取り方を」

「ソーシャルディスタンス」は、実はもともと社会学の概念だ。とくに欧州には歴然とした階層が存在するが、そういう社会的な階層や世代の心理的距離を意味している。

よって、「物理的に人と離れましょう」というよりはもっと深く、人と人の間や、その人が属するグループとグループの心理的な距離感、そして隔離などのニュアンスも含む、差別的な意味もある言葉だ。

そのような背景があるため、英語圏ではコロナ対応で用いる場合は、必ず現在進行形の「ソーシャルディスタンシング」と表現している。

日本では「ソーシャルディスタンス」で定着してしまったが、これは本来、社会的・心理的隔たりであり、人間関係の感情的な距離も含むということは念頭においてほしい。社会学でいうソーシャルディスタンスを日本的に表現すると、「間合い」という言葉に近いだろう。

そして、リアルイベントができないという狭義の話から広げて考えると、ソーシャルディスタンスは、物理的な距離や同じ空間を共有するというところからいったん解放されて、企業やブランドとユーザー、生活者との関係を見直し、新しいエンゲージの取り方を定義できる言葉なのではないかと思う。

つまり、生活者との精神的な「間合い」を意識することで、そこに新しいチャンスが生まれるのではないだろうか。

 

ステークホルダーを感激させた、滝沢カレンのメッセージ

ここで僕のお気に入りのエピソードを紹介しよう。モデルでタレントの滝沢カレンが書籍のスリップに書いた書店員へのメッセージの話だ。

2020年4月11日、ある書店員が『カレンの台所』(滝沢カレン著/サンクチュアリ出版)に挟まれていたスリップのメッセージに感激し、写真をツイッターにあげた。ちなみにスリップとは、書店が売り上げや返本を管理するため書籍に挟まれている紙のこと。

スリップには、滝沢カレン独特の表現で、書店員のおかげで本が読者の手に渡っていることや、本を大事に扱ってくれていることに感謝する気持ちが綴られていた。つまり、著者から書店員への感謝とねぎらいのメッセージである。

なお、この本が発売された4月7日は緊急事態宣言が発出された日だった。本来ならおそらく著者が書店を挨拶回りしたり、イベントを開いたりする時期だろう。

一方書店側も、緊急事態宣言が出てイベントどころではないばかりか、いつ休業要請が出てもおかしくない状況だった。コロナ対応で通常業務も店頭販促もままならず、書店員のストレスも相当溜まっていたはずだ。

そんなピリピリした状況下での、彼女からのメッセージである。前述の書店員のツイートは大いにバズり、「いい話」として多くのリツイートや「いいね」が集まった。

この一連の流れは「滝沢カレン、素敵だね」というエピソードではあるのだが、それと同時に企業やブランドとステークホルダーとの関係を考える上での学びがあると思う。

例えば著者が本の販促のために書店をめぐり、書店員やファンと直接握手をしたとしても、それでこのエピソードのようにほっこりするわけではない。

これは実際にその場に行かなくても、コミュニケーションを工夫したことによって、書店員やファンなどの本を売るために大切な人々、つまりステークホルダーにエンゲージした好例と言える。そこに、ニューノーマルの世界での企業やブランドが行うべきコミュニケーションの示唆がある。

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