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オリンピアン為末大氏が現役時代コーチをつけなかったワケ

2021年04月14日 公開
2023年01月12日 更新

為末大(Deportare Partners代表/元陸上選手)

為末大

人に質問することは「思考の外注」である

課題解決のために他人に質問をすることは、いわば「思考の外注」だと為末氏。とはいえ、多くの人に質問すれば、多様な答えが返って来て、それらの間に相違や矛盾が生じることもある。その場合は、どの答えを受け入れればいいのだろうか。

「答えてくれた人それぞれが置かれている立場や状況、キャラクターといった、バックグラウンドを見て判断しますね。

例えば陸上競技の場合、『スピードを上げるにはどうするべきか』という質問に対して、『筋肉をつけるべきだ』と答える人と、『筋肉をつけると身体が重くなるから良くない』と言う人がいます。

一見、対立しているようですが、実はどちらも『筋肉と体重』という同じ軸の上で話しているんです。『筋肉と体重のベストなバランスはどこか』という視点からの答えという点で、どちらも同じです。

一方、『腕の振り方が重要だ』と言う人もいます。その人は、筋肉と体重のバランスよりも、バイオメカニクスを重視する立場です。心理学を重視する人は、また違った答えをするでしょう。

『この人は、この分野を学んできたから、こういう答えをするのだろう』といった、相手のバックグラウンドによる答えの偏りを踏まえることが大事です」

また、視点の違う答えは、どれか一つを選ぶようなものではないとも話す。

「僕自身はバイオメカニクスを重視する立場で、まずは効率的な身体の動かし方を身につけるべきだと考えています。そうしないと、悪いクセがついてしまいますから。

では、筋肉については軽視しているのかと言えば、そんなことはありません。階層というか、順番があって、まずは身体の動かし方をしっかりと身につけてから、そのあとで筋肉をつけるのがいいと考えています。

違う視点からの答えでも、階層や順番をつけることで、どちらも受け入れることができます」

 

思考の傾向によって質問の仕方も変える

このように、為末氏は、質問に対する答えを、そのまま鵜呑みにしているわけではない。

「極端に言えば、答えの内容よりも、答えの返し方に興味が移ってきましたね。つまり、人に関心があるんです」

相手の思考には、どんな傾向があるのか。質問をすることで、それを知ることができる。数多くの人に質問をしていると、職種によって、質問への答え方に傾向があることにも気づいたという。

「例えば、コンサルタントは『即答主義』です。テニスのラリーのように、即、打ち返して来る。悩む様子を見せるべきではないという価値観を持っているのかもしれません。

対照的に、アーティストは1分くらい考え込んで、なかなか返事が来ないことが多い。

ですから、コンサルタントに質問をするときと、アーティストに質問をするときは、接し方を変えなければなりません。

たまに、その類型から外れている人もいて、それもまた面白いですね」

相手によって質問の仕方を変えるポイントは、他にもある。

「特に専門用語には注意が必要ですね。専門家から専門的な答えが欲しいときは『乳酸が溜まっているときは~』という表現をして、一般の方に対しては、伝わりやすいように『疲れているときは~』という表現をするというように、相手がイメージしやすい言葉を選ぶことが大切です。

コーチでもなければ、基本的に、相手は僕の質問に答える義務はないので、答えたくなるような聞き方をしないといけません」

質問が詰問にならないようにも注意が必要だ。

「取材や面談など、目的と制限時間が決まっている場は別として、僕はたいてい、雑談の延長のような雰囲気の中で質問をします。ですから、『○○ですか?』と疑問文ばかり重ねず、『○○ですよね~』と投げかけることもよくあります。

社員との面談でも、真正面で向き合うのではなく、横並びに座って、デスクの上の同じ資料を見ながら質問をするなど、リラックスしてもらうことを心がけています」

相手が言いづらいことを聞き出すときにも、工夫をしている。

「例えば、競技で好調なときは、油断して自分の客観視が甘くなるので、他人の意見をもらうことが特に重要です。でも、『どう見える?』と質問しても、相手にしてみればダメ出しはしづらいもの。

そこで、『最近、僕、ちょっと調子乗ってるかな?』というように水を向ければ、『それ、あるかもね』と返しやすくなります」

 

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