2019年06月10日 公開
2023年10月04日 更新
佐藤 菅社長は「働き方改革」を急ピッチで進めていらっしゃいますね。
菅 社長就任時、一部社員の長時間残業が常態化していました。優秀な社員に仕事が集中し、それが離職にもつながってしまっていた。これをなんとかしなくてはならないと考えたのです。
そこで、業務全体の見直しや管理監督者の意識改革などを通じて仕事を効率化するとともに、フリーアドレスの導入やペーパーレス化、モバイル環境の整備などで設備面での改革も実施。
その結果、改革前後で残業時間が20%減少する一方、営業利益は70%向上したのです。
佐藤 そうした改革は社員の満足度を高める一方、抵抗もあったのではないですか。
菅 確かに抵抗もありましたが、働きやすい職場作りは、トップが決断しないとスピーディには進まないものだと思います。
働き方改革を実現した企業への見学に社員と一緒に出向くなど、率先して社員を巻き込んでいくことも心がけました。
ただ、目的はあくまで「一人ひとりが働きやすい職場を作ること」であり、改革を押しつけることではありません。例えば弊社では8割の社員がフリーアドレスを導入していますが、2割は固定席のままです。社員の意見を聞き、固定席で残したほうがいいと判断した業務についてはそのままにしたからです。
佐藤 決断はトップダウンで行なうけれども、最終的には多くの人の意見を取り入れて実行するということですね。これもまた幸之助の経営姿勢に通じるところです。幸之助は何事もトップダウンで決めているような印象があるかもしれませんが、実際にはなるべく多くの人の意見を聞き、「衆知を集める」ことで、物事を進めていくことを重視していました。
それには社員の意見が直接届く環境を整えることが大事ですが、菅社長の場合、それがまさに「意見交換会」なのですね。
菅 ええ。ただ、それでも若手社員との距離を感じていました。そこで3年前から始めたのが、新卒社員との高尾山登山です。一緒に登山をして、役職を超えてざっくばらんに語り合う。
入社してすぐに「風通しの良い会社」であることを理解してもらいたいと考えています。」
佐藤 最近は人手不足が叫ばれ、特に建設業ではそれが顕著です。御社はいかがですか。
菅 これも現場から「若手をどんどん採用してほしい」という意見が多く挙がっていたこともあり、私自身が陣頭指揮を取って、採用活動にはかなり力を入れています。努力の甲斐もあってか、ここ数年は今まで採用のなかった大学からのエントリーも増え、応募者が倍増するなどの成果が出ています。
佐藤 就職を希望する人たちは、御社のどのあたりに魅力を感じているのでしょうか。
菅 やはり、一連の働き方改革による「働きやすさ」を評価してくれている人が多いようです。実際にオフィスに来てくれた学生は特に、想像以上だと思ってくれるようです。
例えば、この業界では設計図などがうずたかく積まれたオフィスも多いのですが、弊社のオフィスはフリーアドレスやペーパーレス化によりモノがほとんどなく、カフェのような打ち合わせスペースがあったりと、最先端のIT企業のような印象を持つ人も多いようです。
佐藤 これも働き方改革の一環だと思いますが、社長自らが「最高健康責任者」となり、健康経営に力を入れてらっしゃるのですよね。
菅 私は経営者の仕事は「みんながハッピーになる仕組みを作ること」だと考えています。
社員の健康もまた、その重要な要素です。ただ、忙しいなどの理由で、健康をおろそかにしてしまう人が後を絶ちません。そこで精密検査に補助金を出すなどの施策で、背中を押そうと考えているのです。
佐藤 御社がそこまで「人」にこだわるのには理由があるのでしょうか。
菅 弊社の事業は上下水道の調査、計画、設計、施工監理・情報管理などですが、この仕事は特に「人」で成り立っている部分が大きいのです。
例えば今、高度成長期に作られた上下水道施設の老朽化が全国各地で問題となっています。
ただ、日々の生活に欠かせない水道や下水道を止めてしまうと生活に大きな影響があるため、24時間365日止めることなく更新を行なわなくてはなりません。
この計画や設計にはベテランの経験と知恵が不可欠なのですが、彼らエキスパートの高齢化が進んでおり、後を継げる人材の育成が急務なのです。
佐藤 社会インフラの整備はこれからの日本において非常に重要ですが、その苦労や努力はなかなか見えにくいですよね。
菅 私は業界団体の副会長も務めているので、もっと発信していかねばと感じています。
佐藤 御社の経営は、何よりも「人」を大事にした幸之助の理念をまさに体現されていると感じます。今後のご発展を期待しております。
更新:11月21日 00:05