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来るべき大規模な自然災害に、行政はどんな対策をしているのか?

2019年05月02日 公開

渡辺実(防災・危機管理ジャーナリスト)

 

「避難タワー」で本当に命を救えるのか?

 南海トラフ地震で大きな被害を受けると予測されている自治体には、防災意識が高いところが多いという。

「特に、静岡県は一番の先進地域です。しかし、東海地震説から四半世紀以上も経過し、防潮扉の中には開閉がうまくできないものもあるなど、防災設備のメンテナンスも課題です。

 高知市や高知県黒潮町なども津波対策に熱心です。防潮堤の建設の他、市民の防災訓練も、随時、行なっています」

 では、首都直下型地震の危機にさらされている東京都はどうだろうか。

「東京都では12年に帰宅困難者対策条例が成立し、都内に通勤する人たちは、大規模災害発生後、最長3日間、帰宅せずに勤務先の備蓄で待機する条例ができました」

 首都直下型地震には、国の対策も不可欠だ。しかし、残念ながら、優先順位が高いとは言えない状況だ。

「内閣府は、首都直下型地震が起こると、最悪の場合、死者2万3,000人、建物の全壊と全焼失61万棟、経済的被害は95兆円に上るという被害想定を出しています。それにもかかわらず、本気で対策に力を入れているとは言えません。

 政府の機能を他の都市に分散させることも必要なはずですが、東京一極集中に政府が歯止めをかける気配もまったく見られません」

 南海トラフ地震の対策も似た状況だという。

「こちらの被害想定では、死者最大30万人という恐るべき数字が出ています。それが今後30年以内に80%の確率で発生するとされている。国家存亡の危機とも言っているのに、有効な対策が講じられているとは言えません。リニア新幹線よりも先にやるべきことがあるはずです。

 巨大津波の高さの予測もされていて、各地に避難タワーが建設されていますが、実際に足を運んで見てみると、実効性は怪しい。延々と階段が続いていて、高齢者にはとても上れないでしょう」

 

必ず来る三つの大災害。「備災」で命を守れ

 国の姿勢は消極的と言わざるを得ず、自治体の耐災力も低下する中、災害が起これば甚大な被害が生じることを前提として考える必要がある、と渡辺氏。

「特にハードの劣化は深刻です。電気、水道、ガスなどのインフラの老朽化は甚だしく、災害が起きれば、長期間にわたって停電や断水が生じることを覚悟しておくべきです。

 インフラの交換には膨大な時間がかかりますから、残念ながら、それより先に大災害が来てしまう可能性が高いでしょう」

 遠からず来る大災害は三つ。首都直下型地震と南海トラフ地震、そして、富士山の噴火だ。

「富士山は再噴火の周期に入っていて、周辺では小規模地震が増えています。

 観測は常時続いていますから、避難はある程度可能でしょう。しかし、火山灰の降下は避けられません。偏西風に乗って、東京23区でも10cm以上積もる可能性があると想定されています。もしそうなれば、首都機能が停止するでしょう」

 三つの大災害がどの順番で来るかはわからない。しかし、その激しさは我々の予測をはるかに超えるだろうと渡辺氏は断言する。

「まさに、未知との遭遇です。特に南海トラフ地震では、太平洋沿岸の地域が一斉に壊滅するわけですから、国の存続さえも危ぶまれます」

 その日に備えて、我々ができることはなんだろうか。

「『備災』の意識を持つことです。もはや、『防災』や『減災』は現実的ではありません。災害は来るし、インフラも機能しなくなるのは目に見えている。

 災いは必ず来る。その前提に立った備え、『備災』が国民の義務です。

 住んでいる地域や勤務先の被害想定を調べて、安全な避難の方法を知っておくこと。備蓄を充実させ、怪我の手当や防寒の知識もつけておくこと。個人も社会も、全力で備えを厚くするべきときが来ているのです」

 

《取材・構成:林 加愛》
《『THE21』2019年4月号より》

著者紹介

渡辺 実(わたなべ・みのる)

防災・危機管理ジャーナリスト

1951年生まれ。71年に工学院大学工学部建築学科卒業後、〔株〕邑都市設計研究員、〔社〕日本都市計画学会主任、〔財〕都市経済研究所理事などを歴任。89年、〔株〕まちづくり計画研究所を設立。30余年にわたり国内外の災害の現場に足を運び、報道活動や復興・防災の啓蒙を行なう。講演・研修指導およびメディア出演多数。NPO法人日本災害情報サポートネットワーク顧問も務める。『巨大震災 その時どうする? 生き残りマニュアル』(日本経済新聞出版社)他、著書多数。

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