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「平成の敗北」から日本企業はどうすれば巻き返せるのか

2019年05月09日 公開
2023年10月24日 更新

遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長),入山章栄(早稲田大学大学院教授)

日本基準の人事制度が終わり、格差が広がる

 もっとも、日本のモノづくりが優れているといっても、現在のままでは、グローバル競争に勝ち抜くのは難しい。

 遠藤 日本的な強みを生かして、グローバルに戦えるビジネスモデルを作る鍵となるのが、人材です。国内外から、優秀な人材を雇わなければなりません。

 その際、問題となるのが、「日本基準」の人事制度です。年功序列や終身雇用といった、世界から見ると異質な人事制度は、一部改善されてきましたが、まだまだ色濃く残っています。

 例えば、給与面。経産省の「日米のIT人材の平均年収」によると、日本企業とアメリカ企業ではすさまじい差があります。30代で比べると、日本企業は600万円に対し、アメリカ企業は1200万円超、と2倍以上の差。さらに、日本企業の年収のピークは50代ですが、アメリカは30代にピークがある。

 入山 これでは若くて優秀な人材が来るはずないですね……。

 遠藤 日本企業もわかっているのですが、急に「グローバル基準」に変える勇気はない。そこで、最近は「日本基準」を残しながら、「グローバル基準」の特別制度を取り入れる「一社二制度」の会社が増えています。

 入山 武田薬品工業などはそうですね。社名は日本でも役員はほぼ外国人で、グローバル基準で働く人たち。しかし、現場では日本基準が残っています。

遠藤 今後は武田のような、一社二制度の会社が増えるでしょう。すると、日本人もリスクは高いけど給料が高い「グローバル基準」と、リスクは低いけど給料も低い「日本基準」、どちらで働くかの選択を迫られる。

 入山 ただ、日本基準が楽だというわけではありませんね。

 遠藤 単純作業を行なうマニュアルワーカーは、AIやロボットに代替されてしまう。知識や知恵で高い付加価値を上げるナレッジワーカーでないと生き残れません。日本基準を選ぶ人も、「強い個」を目指す必要があります。

 

 

真面目なゆでガエルになっていないか?

 それでは、強い個になるためにはどうしたらよいのだろうか。

 遠藤 自分が「真面目なゆでガエル」になっていないかどうか、確認することです。これは、SOMPOホールディングスの櫻田謙悟社長の言葉で、その意味は、日々頑張っているけれど、外の世界が見えておらず、頑張る方向性を間違えている人のことです。社外で通用せず、定年まで会社にしがみつく可能性があります。

 そうならないためには、外の世界を見ること。転職せずとも、様々な人たちと会って、考えを聞くことが重要だと思います。

 入山 同じ会社にずっといると、会社の常識を疑わなくなりますからね。それを破るには、私も多様な人がいる環境に身を置くことが重要だと思います。

 ネスレ日本の高岡浩三社長は、常識を次々とひっくり返している屈指のイノベーターですが、実は高岡さんも、昔はそういう人ではなかったそうです。

 でも、世界中の人たちが働くネスレのなかで揉まれて、自分の常識がどんどん破壊されたそうです。同様に、自分とは違う価値観の人たちが集まる環境にいくと、「今、自分がやっていることは正しくないのではないか?」と気づかされるはずです。

 

 

「学生時代の優等生」ほど主体性がない!?

 こうして外の世界を見ることで、自分の現状が見えてくる。そのうえで、自分は何をすべきかを考えていくことが大切だ。

 遠藤 そもそも、自分はなんのために生きているのか、何をしたいかを問い直すことが大切だと思います。人生、仕事だけではありません。仕事で活躍したくないなら、無理して強い個を目指す必要はないのです。

 それでも、仕事で何かを成し遂げたいなら、今の環境でいいのか、どこに身を置くべきかを考えればいい。今は、起業やNPOなどの選択肢も広がっていますから、大きな組織の中で飼い殺しにされるよりは、外に飛び出していく選択肢もアリだと思います。

 入山 今の仕事を辞めるかどうか悩んだら、「今の会社で働くことを、腹落ちしているかどうか」を考えると良いと思います。

 私自身がそうだったんですが、なんとなく世の中で良いとされている大学や会社を選んでいる人が多いと思うんですよ。しかし、そのまま生き続けていると、どこかで行き詰まります。

 遠藤 主体性がないまま過ごすと、まったく成長しません。学生時代に優秀だった人ほど、そうなる恐れがある。数年前に会った、学生時代にエリートだった同級生が、出世コースから外れて「こんなはずじゃなかった」と今の境遇を嘆いていました。

 入山 「昔はイケてたのに」と。

 遠藤 そうそう。過去の栄光をひきずってるんだよね。でも、それは自分がまいた種。自分が主体的にキャリアを決めてこなかったからであり、努力を怠ってきたからなんですよね。

 入山 私も、勉強もスポーツもできてモテモテだった学生時代の友人が、お堅い大組織に就職したら、しょぼくれてしまったのを見たことがあります。やはり、自分のキャリアを主体的に決めてなかったのかも。

 何を選ぶにせよ、自分が腹落ちした選択をすれば、失敗しても納得がいくものです。

 

 

40代は、自分が主役になる必要はない

 自分のキャリアを主体的に決めることは大切だが、40代以上は若手とは少し事情が異なる。

 遠藤 自分を磨く手段の一つとして、ビジネススクールがあります。20~30代なら別に構いませんが、40代で入るのはまったくお勧めしません。私が教えていたときは、「ビジネススクールに来る暇があったら、他のことをしろ」と言っていました。

 入山 遠藤先生、学生さんに「なんでお前ら来たんだ」とか言っていましたからね(苦笑)。

 遠藤 40代は残された時間が限られているからです。スクールに通うのは機会ロスが大きすぎる。それよりも、今までの経験をベースに、自分をどう生かすかを考えるべきです。

 その際、ぜひ一考してほしいのは、「自分は主役になる必要があるのか」ということです。 

 20~30代の頃は、自分が主役になろうと走ってきたかもしれませんが、40代になったら、自分より時間があってやる気がある若手がいくらでもいます。40歳を超えて、そういう人たちと張り合っても勝てないと思うのですよ。それなら、若い主役をサポートすることに生きる道を見つけても良いと思うのです。

 入山 サッカーでも、皆が花形のフォワードを目指す必要はありませんし、サイドバックでも良いわけですからね。

 遠藤 重要なのは、どのポジションかよりも、1軍にいるかどうか。1軍の試合に出れば、面白いことが経験できますし、力もつきますからね。どうすれば1軍の試合に出られるか考えたほうがいい。

 入山 繰り返しになりますが、自分のポジションを知るうえでも、外の世界を見ることは大切です。そうすれば、自分がフォワードで通用するかどうか、わかりますからね。一番マズいのは、頭では考えているけど、行動しない人。すると、「自分はフォワードだ」と言い続けながら、3軍で終わる。

 遠藤 そして、試合に出してくれないチームを批判する(笑)。こういう人は最悪ですから、自分がそうなっていないか、自問自答してほしいですね。

 

 

「いつもの帰り道」を変えることから始めよう

 一歩踏み出さなくてはいけないとわかっていても、変化するのは怖いものだが……。

 入山 参考になるのは、僕の同級生で、ウィルという今や日本最大のベンチャーキャピタルを創業した伊佐山元くんの話です。彼を授業に呼んだとき、学生からの「どうすれば私は変われるのか」という質問に対して、「とりあえず、今日帰る道順を変えなさい」と答えていました。些細なことでもいいから変えなさい、と。その積み重ねが、大きな変化につながる、というのですね。

 遠藤 毎朝同じ時間に起きて、同じ電車に乗って、同じオフィスに行って、同じ人と会って、同じ連中と飲みに行く。この生活に疑問を持つことが第一歩でしょうね。少し視点を変えるだけで人生は楽しいものにできます。

 入山 新しい時代に不安を覚えている人もいるかもしれませんが、令和はものすごく面白い時代になると思っています。AIが奪う仕事は基本的に面倒くさい仕事なので、我々人間は楽しくて面白い仕事ができるようになると思うんです。そういう時代の波に乗るためには、変化を楽しむこと。そのためには、小さな変化から慣らしていくことが大切だと思います。

 

取材構成 杉山直隆

写真撮影 長谷川博一

著者紹介

遠藤 功(えんどう・いさお)

遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長)

ローランド・ベルガー日本法人会長。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。経営コンサルタントとして、戦略策定のみならず実行支援を伴った「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得ている。ローランド・ベルガーワールドワイドのスーパーバイザリーボード(経営監査委員会)アジア初のメンバーに選出された。株式会社良品計画 社外取締役。ヤマハ発動機株式会社 社外監査役。損保ジャパン日本興亜ホールディングス株式会社 社外取締役。日新製鋼株式会社 社外取締役。コープさっぽろ有識者理事。『現場力を鍛える』『見える化』(以上、東洋経済新報社)、『新幹線お掃除の天使たち』(あさ出版)など、ベストセラー著書多数。

入山章栄(いりやま・あきえ)

早稲田大学大学院(ビジネススクール)教授

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティングに従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。13年より現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)など。

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