2019年02月23日 公開
2023年03月10日 更新
いつか英語を身につけなければ」と思いつつ、どう英語をビジネスに活かせばいいのかわからない。特に40代まで実績とキャリアを積み重ねてきた人は、そう感じる人も多いかもしれない。そんな方は、英語×自分の築き上げてきたスキルという発想を持ってみてはいかがだろうか。実際に、英語と会計の知識を組み合わせることで、外資系企業のバートンジャパンのトップへとキャリアを切り開いた須川尚美氏にお話をうかがった。英語をビジネスの武器にする勉強法とは。
スノーボード業界のパイオニアとして、アメリカを中心に各国に展開するザ・バートン・コーポレーション㈱。その日本法人代表として、外国人スタッフとも気さくに会話をする須川尚美氏は、意外なことに、社会人2年目まで、ほとんど英語を話せなかったという。
「学生時代に、留学経験はありません。最初に就職したのも、ゼネコンの企業です。ドメスティックな業界なので、英語を使う機会はほぼありませんでした。
転機が訪れたのは、就職から2年半ほど経って、友人とハワイ旅行へ出かけたときのことです。ハワイに留学している日本人と知り合い、自主的に勉強する姿勢や、イキイキした生活を見て、私も留学して英語を活かす仕事に就きたいと思えたのです」
須川氏は留学の準備をスタート。まずは語学学校に入学するために、TOEFLを受験しなければならないことを知った。
「直近の試験まで時間がなく、なんの下準備もしないまま、会場に向かいました。400点もいかない無残な結果だったのを覚えています。海外の大学を目指すには、当時は500点以上のスコアが必要だと言われていましたが、100点も届かなかったのです。
それから勉強を始め、少し成績は上がりましたが、とにかく行けばなんとかなると思い、願書を提出しました。結果、カリフォルニアにあるコミュニティカレッジに併設された語学学校に入学が決まりました」
抜群の行動力で留学を決行した須川氏。ただ、腹をくくってスタートしたものの、予想以上の困難が待ち受けていた。
「ホームステイ先では会話が成り立ちませんでした。ゆっくり話してくれるのですが、それでも理解できないのです。仕方がないので、文字に書いてもらい、その場で辞書を引きながら理解していきました。
また、語学学校と違い、ネイティブと一緒に受ける大学の講義は、プレゼンやディスカッションもするので、英語のレベルが格段に上がります。授業に追いつくためには、猛勉強しなければなりません。少なくとも、1日6時間は勉強していました」
それでも足りずに、勉強時間以外は本を読んだり、ニュースを見て英語に触れ続けたという。
「特に、ケーブルテレビで流れてくるニュースや映画は重宝しました。なぜなら、そこには英語の字幕をつけられるからです。これは、自分がヒアリングした音が合っているかどうか、すぐに答え合わせができる最高の教材です。それに、スペルの確認もできます。
辞書も、英和辞典ではなく、英英辞典を使っていました。数多くの英語の例文に触れることになるので、それだけ語彙力も鍛えられていくからです」
英語力を鍛えるため、日本語は使わないよう心掛けたという。
「日本人留学生が多かったのですが、あえて距離を取っていました。会話をすれば日本語を使ってしまいますし、その環境が心地よいので英語を忘れてしまうような気がしたのです」
留学は1年半と短い期間だったが、徹底した英語漬けの日々を送ったおかげで、英語力は飛躍的に向上した。
その後、須川氏は現地でビジネススクールへの進学を考えていたが、資金などの関係で帰国を決断。留学経験を活かして、日本で働こうと職を探し始めた。しかし、1年半の留学と英語が話せるというだけで、採用されることはなかったという。
「そんな折、会計の勉強をしてみてはどうかと言ってくれた人がいました。税理士や公認会計士といったいわゆる士業は、将来的に仕事にあぶれないとアドバイスしてくれたのです。
でも、せっかく英語を学んできたのだから、国内の会計士ではなく、米国公認会計士の資格取得に挑戦してみたいと思いました。
そこで痛感したのは、英語+αのスキルがないと、キャリアを築くのは難しいということ。悔しいけれど、帰国子女と数年留学した人の英語力を単純に比べれば、企業は前者を採用したくなるはずです。
ただ、英語だけでなく、違うスキルを掛け合わせることで、市場価値はぐっと高まります。私の場合、それが会計のスキルだったのです。
40代ともなれば、何かしらの専門性を持つビジネスパーソンは少なくないはずです。さらに、中間管理職としてチームマネジメントのスキルにも長けていることでしょう。そうした、今持っている自分の武器を、英語を使ってどう活かすかという発想をすれば、次のキャリアにつながっていくのではないでしょうか」
米国公認会計士の勉強期間は、およそ2年。日本にいる間、英語を忘れてしまうといったことはなかったのだろうか。
「帰国後、英会話をする機会は減ったのは確かです。しかし、英語で書かれたテキストを声に出して読み続けたおかげで、リスニングやスピーキングの力はそこまでは落ちませんでした。
私は、英語習得のポイントはできる限り速く音読することだと思います。読む力が上がることで、他の能力も底上げされるからです。読んだ英文を処理する速度が上がれば、聞こえてきた言葉の意味を理解するスピードも上がります。同時に、声に出してアウトプットするので、スピーキングも鍛えられるのです」
独学で英語を習得する場合、音読はとても有効だ。ただ、須川氏のように専門書を読むのはハードルが高そうだが……。
「英語で専門書を読むのは難易度が高いと思われるかもしれませんが、難しいのは単語だけ。文法はむしろシンプルなロジックで書かれていて、まわりくどい日本語解説よりも理解しやすいのです。
あくまでも私のケースかもしれませんが、論理的に考えることに慣れた40代は、日本語訳されたテキストよりも、英語で書かれた専門書のほうが、理解しやすいこともあるかもしれません」
もちろん、専門書でなくとも興味関心のあるニュースや雑誌記事を音読することも効果的だ。
「さらに、鍛えた英語はネイティブの人に通用するのかどうか、英会話教室などで試してみましょう。スピーキングの練習になるだけでなく、発音のチェックもしてもらえます。
これを繰り返せば、日本にいながらでも、英語力を鍛えることは十分にできると思います」
米国公認会計士の資格を取得後、須川氏は外資系の小型家電メーカーに就職。マネージリアルアカウンタントという管理会計の仕事をし、3年後にフランスの化粧品メーカーへ転職。そこでは、経理部長としてファイナンスの責任者を担当した。
「公用語は日本語ですが、社長と打ち合わせをしたり、本社とのやり取りはすべて英語です。ネイティブはメールで『Dear』や『Mr.』『Mrs.』なんて使わないのか……といった具合に、ビジネス英語を実践で学びながら仕事をしてきました。
また、外国人スタッフと会話する機会を意図的に作ることで、ビジネスシーンで使う英語を徐々に馴染ませていきました」
その後、2005年にバートンジャパンへファイナンスディレクターとして転職し、現在で13年目。そして、今年の10月から日本法人のトップとして新たなスタートを切った。
社会人になってから、ここまで英語力を磨いたのは並大抵の努力ではない。しかし、ビジネス英語は今も勉強を続けているという。
「最近、また英会話スクールに通い始めました。本社とのやり取りも増えたので、それだけ英語を使う機会が増えたからです。
もちろん、今のままでも話すのに支障はありませんが、もっと流暢に話したいし、豊富な語彙を身につけたい。英語力をワンランク上げるために、さらにブラッシュアップしなければ、と考えています」
須川氏は、何歳になってからでも英語力は伸びると言う。
「私が社会人になってから英語を身につけたように、やる気さえあれば、いつでも習得できると思います。
私の父も、50歳を超えて独学で英語を始め、ある程度話せるようになっていました。それを見ると、年齢ではなく、勉強したいと思ったタイミングが、一番身につくのだと思います」
さらに、「むしろ、40代以降こそ英語力は伸びる」と続ける。
「20代や30代では、目標や将来の方向性が定まっていない人が少なくありません。
でも、40代以降は、築いてきたキャリアがあるため、英語を使う目標を見つけやすいと思います。漫然と学生の頃に勉強させられてきたときとは違うでしょう。
だからこそ、英語を勉強したときに得られる学習効果は、若い頃以上に期待できるのではないでしょうか」
取材構成 THE21編集部
更新:11月22日 00:05