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40代からの「更年期障害」の乗り越え方

2018年12月26日 公開
2023年09月15日 更新

天野惠子(医師)/堀江重郎(順天堂大学医学部教授)

身体の変化に負けない! メンタルの不調を防ぐ

40代は身体が色々と変化する時期だ。特に注意が必要なのは更年期障害。身体の不調だけでなく、メンタルにも影響し、無気力やイライラの原因になる。更年期はメンタルにどのような影響を与え、それに対してどう対処するのがいいのか。男女でメカニズムや対処法が異なる更年期障害の克服法を中心に、心身の健康を保つ方法について2人の専門家に話をうかがった。

 

女性ホルモンの減少がメンタルの不調を招く 

 40代になると、男女ともに心身に不調が現れる。更年期障害はその代表と言えるだろう。一般的に知られているのは女性の更年期障害だが、これによって、のぼせや火照りなどの身体的症状のみならず、不眠やイライラなどメンタルの不調に悩まされる人も多い。

 そもそも「更年期障害」とは一体なんなのだろうか。なぜ女性の身体は40代になると変化するのか。長年、女性の更年期障害の治療に携わる静風荘病院(埼玉県)の天野惠子氏は次のように話す。

「女性は30代半ばから卵巣の機能が衰え、エストロゲンという女性ホルモンの分泌の減少に伴い閉経へと向かいます。閉経前後の10年間、年齢でいえば45歳から55歳くらいまでが『更年期』です。この時期に、身体的・精神的に様々な症状が生じます。中でも、日常生活に支障をきたすほどの症状が出る場合を『更年期障害』と呼んでいるのです」(天野氏)

 更年期障害の典型的な症状は、ホルモンバランスの乱れが引き起こす自律神経失調症状である。のぼせ、火照り、発汗、冷え、動悸、めまい、耳鳴りなど多岐にわたる。

 それだけではない。エストロゲンには記憶細胞を保護する作用があり、その欠乏によって記憶力や思考力が低下したり、不眠、不安、憂鬱、イライラなどの精神的症状を引き起こしたりするというのだ。

「40代のメンタル不調には、更年期障害が関わっている可能性が大いにあります。しかも、この年代が抱える子供の進学・独立、親の介護などの生活環境や社会環境の変化は、症状をさらに悪化させる要因になっています。うつになったり、急に夫のことが嫌になって離婚を切り出したりするケースもあります」(天野氏)

 

入浴で身体を温めると症状が改善する

 更年期障害の症状には個人差があり、天野氏によると、病院での治療が必要なほど深刻な症状を訴えるのは、10人のうち4人程度だという。

 一方で、何事もなく終わる人も2人程度いるといい、誰もが更年期障害に苦しむわけではないようだ。

 ただし、更年期障害は突然訪れるため、予備知識がないまま症状に見舞われるとパニックに陥る人もいる。「事前に体験記などを読んで知識を得ておくことが大事」と天野氏。また、不眠やイライラなどのメンタル不調に襲われて、「更年期障害かな」と思ったら、女性外来で相談するのがよいという。

「眠れないからと心療内科を受診し、薬物投与を受け、かえって症状が悪化した人を何人も見てきました。更年期にはメンタルに不調をきたすことがあると知っておけば、落ち着いて対処できますし、まずは女性外来で診断を受けることで、より適切な治療を受けることができます」(天野氏)

 更年期の不眠やイライラなどの精神的症状への対処療法には、ホルモン補充療法や漢方などが有効とされる。加えて、自分で手軽にできる対処法として天野氏が勧めるのが、入浴である。

「私自身、更年期障害の症状がひどく、50歳から59歳まで続きました。対処療法をいろいろ試した中で最も効果的だったのが、なんといっても『お風呂』です。湯船に浸かり、身体を温めて血流を良くすることで、直後の数時間は症状を軽減することができました」(天野氏)

 そして、自身が体験したことでわかったことがあるという。

「更年期障害になると次から次へと症状が現れますが、必ず終わりが訪れます。身体の修復機能が働いて、身体の変調に慣れることで、症状が次第に収まっていくのでしょう。閉経後10年弱で症状は必ず安定します」(天野氏)

 

男性の更年期はメンタルに直結する!

 更年期障害は女性に特有のものと思われがちだが、最近は男性にもあることがわかっている。ただし、一般的にあまり知られていないため、本人の自覚がないまま更年期による不調を抱える男性が多いという。

 男性の更年期障害は、テストステロンという男性ホルモンの減少が原因である。性機能の低下、筋肉痛、関節痛などのほか、火照りやのぼせ、疲労感、めまい、耳鳴りなど女性の更年期障害と似た症状が表れる。

 さらに見逃せないのが、メンタルへの影響だ。「やる気が出ない」「眠れない」といった中高年男性のメンタル不調の原因には、テストステロン不足が疑われる──。そう指摘するのは、日本初のメンズヘルス外来を開設した泌尿器医療の第一人者、順天堂大学大学院教授の堀江重郎氏だ。

「テストステロンは、男性性に深く関与するホルモンです。絶えず外に飛び出していく冒険心やチャレンジ精神は、テストステロンに起因しています。仕事や人生の目標に向かって精力的に活動する人ほどテストステロン値は高く、また、受験戦争や出世競争など競い合う環境でより多く分泌されるのが特徴です。

 そのため、テストステロンが減少すると、活力を失い、倦怠感や不眠に襲われるだけでなく、ひどい場合にはうつ病を発症する人もいます。そうならないためにも、中間管理職としての活躍が期待される40代男性は、コレステロール値を気にするよりも、テストステロン値を意識して高めておくことが重要なのです」(堀江氏)

 

定年とストレスは男性ホルモンの天敵!

 男性の更年期障害は、始まる時期に個人差がある点で、女性の更年期障害とは大きく異なる。堀江氏によると、女性の更年期障害が閉経前後の約10年間に起こるのに対し、男性の更年期障害は「40歳を超えればいつでも起こり得るし、いつ終わるのかもわからない」という特徴があるという。

 なぜなら、テストステロンの減少が、老化ではなく、社会活動や生活習慣に起因するからだ。

「テストステロンの減少に最も影響するのは、定年退職です。社会の一線から離れ、家に閉じこもりがちになると、一気に分泌量が低下します。反対に、社会活動に積極的に参加している人は、70歳を超えてもテストステロン値が高いままです」(堀江氏)

 また、ストレスもテストステロンには大敵だという。仕事や人間関係でストレスを抱えている人ほど、テストステロン値は低く、更年期障害にかかりやすいと言える。さらに、テストステロン値が低下すると、同じ程度のストレスを受けたとしても、負荷を感じやすくなるという悪循環も生まれるという。

「男性の更年期障害は本人が気づきにくく、適切に対処されにくいという問題があります。では、どうすれば男性の更年期障害に気づくことができるのか。注意すべきは、次の3点です。

 一つ目は、体重の増加。テストステロンには、筋肉を維持し、肥満のもとになる脂肪細胞を抑制する働きがあります。昨年と比べ、体重が3キロ以上増えていたら要注意です。

 二つ目は、眠れなくなること。テストステロンは、昼と夜を区別し、1日の周期を把握する脳の部位に働きかけるため、分泌が減ると、眠りが浅くなるなど睡眠障害を起こしやすいのです。

 そして三つ目が、異性に対する興味の薄れです。これらの変化が表れたら、テストステロンの減少を疑ってみるとよいでしょう」(堀江氏)

 

筋トレとゴルフで男性ホルモンを増やそう

 女性にとって、加齢による女性ホルモンの減少は避けられないが、男性の場合は、生活習慣を見直すことで、男性ホルモンを高く保つことができる。簡単にできる方法として堀江氏が勧めるのが、次の二つの習慣だ。

 「まず、筋トレとストレッチ。テストステロンは筋肉からも作られるため、筋トレで筋肉量を増やせば、テストステロンも増やせます。また、テストステロンは、副交感神経が優位の状態で分泌されるため、ストレッチでリラックスすることも効果的です。

 もう一つは、仲間と趣味を楽しむこと。仲間と盛り上がるだけで、テストステロン値が上昇します。そこで、私は近年人気を盛り返しつつあるゴルフをお勧めしています。

 筋肉を使い、仲間と一緒に楽しめるゴルフは一石二鳥です。また、目標スコアを達成しようとすること自体が、テストステロン値を高めます。ただし、ストレスの元になる接待ゴルフはやめたほうがいいでしょう。趣味を一緒に楽しめる仲間を持つことが、いつまでもハツラツとしていられる秘訣です」(堀江氏)

 男女ともに、40代以降のメンタルに大きな影響を与える更年期障害。むやみに不安がらず、まずは自分自身が更年期障害についてしっかりと理解し、適切に対応することが大切である。

 

『THE21』2018年12月号より

取材構成 前田はるみ

著者紹介

天野惠子(あまの・けいこ)

医師

1967年、東京大学医学部医学科卒。東京大学保健センター専任講師、千葉県立東金病院副院長兼千葉県衛生研究所所長などを経て、2009年より埼玉県・静風荘病院にて女性外来を開始。日本性差医学医療学会理事、性差医療情報ネットワーク(NPO )理事長として、予防医学、病気の発症と進展における男女の差について、研究・啓発を続ける。

堀江重郎(ほりえ・しげお)

順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授

日本抗加齢医学会理事長。日本Men'sHealth医学会理事長。日米で医師免許を取得し、米国で腎臓学の研鑽を積む。泌尿器がんの根治手術と男性医学を専門とし、日本初のメンズヘルス外来を開設。著書に『うつかな?と思ったら男性更年期を疑いなさい』(東洋経済新報社)など多数。

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