2018年12月29日 公開
2022年10月25日 更新
2010年に1号店を出店して以来、都市圏を中心に急速に店舗数を増やしているストレッチ専門店『Dr.ストレッチ』。18年7月には全国で120店舗を超え、シンガポール、中国(上海)、台湾にも進出している。運営会社の〔株〕フュービックは他にも様々な事業を手がけており、業績を拡大中だ。倒産の危機を乗り越え、「ストレッチ」というブルーオーシャン市場を発見した創業社長・黒川将大氏に話を聞いた。
――『Dr.ストレッチ』が好調ですが、以前はリラクゼーションサロンを事業の中心にしていて、倒産の危機もあったということですね。
黒川 リラクゼーションサロンの業績が悪くなっていたわけではなくて、黒字だったんです。新規出店のための融資枠を、銀行の支店長と口約束していたのですが、11月に当社の決算書が出て、12月の頭に銀行をまわったら、その年の9~10月に起こったリーマンショックのために、どこも融資をしてくれませんでした。10店舗くらい出店の予約をしてしまっていましたから、その支払いを自己資金でしていたら行き詰まって、経営が苦しくなったのです。出店をキャンセルしても、違約金を支払わなければなりませんし。そのうえ詐欺にも遭って、泣きっ面に蜂でした。
そんなときに、息子がサッカーで膝に怪我をしたんです。治療のために接骨院や整形外科に行っても痛みが取れなかったのですが、あるトレーナーがストレッチで痛みを取ってくれたので、「ストレッチというのはすごいな」と思いました。
それから、息子に言われて自分でもやり方を覚え、息子にストレッチをしているうちに、「一般の人に対してやってもいいんじゃないか」と思うようになりました。けれども、トレーナーの方々に声をかけてみると、「マッサージなら気持ちが良いからお客さんが来るけど、ストレッチは痛いから来ないだろう」と言われたんです。
「確かに、そうだな」と思いながらも、「痛くても、お客さんが来るには……」と考えながら、たまたま歯医者に行ったとき、「痛いのに、お客さんが来るのは、歯医者じゃないか!」と気がつきました。
そこで、歯医者の接客フローをそのまま取り入れて、『Dr.ストレッチ』の接客フローを作ったのです。要は、何か不具合を感じて来たお客様に対して、他の部分の不具合への対策も提案し、「こういう理想的な身体にしましょう」と目標設定するのです。目標ができると、痛みに耐えて頑張れます。
最初の1年間は店舗を一つだけにして、色々な接客を試しました。接客によって、月ごとの売上げがあり得ないほど大きく上下する中で、目標設定をうまくして、リピートしてもらうためのポイントを、11個洗い出しました。今は20個くらいに増えているのですが、そのポイントのうちの一つでも欠けたら、リピート率が落ちるのです。
――接客のポイントがわかってから、急速に多店舗展開を始めたわけですね。
黒川 5年間で100店舗に広げました。
リラクゼーションサロンのときの経験で、7店舗になったとき、30店舗になったときなど、店舗数が増えるときに躓くポイントがわかっていたので、100店舗に対応した仕組みを1年で作ってから拡大しました。これが、従来はなかった「ストレッチ専門店」が成功しているのを見て、他社が追随しようとしてもできない要因の一つになっていると思います。「そんなに急に店舗を増やして大丈夫?」とよく聞かれたのですが、会社の中はいたって平穏でしたよ(笑)。
最初の2年間で30店舗くらい出したのですが、その頃はリーマンショックの影響が続いていて、詐欺の裁判も続いていたため、まったく融資が受けられませんでした。ですから、フランチャイズを2店舗出して、その利益で直営を1店舗出す、というような形で増やしていました。事業は好調なのに、会社にはお金が全然ない状態でしたね。その後、試行錯誤の結果、資金面での不安はなくなりました。
――人手を集めるのも大変なのではないでしょうか?
黒川 サービス業では一人採用するのに60万~100万円かかるのが一般的なのですが、当社では年々下がっていて、今は10万円くらいになっています。それは、採用戦略を作り込んだからです。
ストレッチはもともとスポーツの世界の技術ですから、やはりスポーツ経験者にやってもらうのがいい。大学までスポーツ漬けだった人が、社会に出ると畑違いの仕事をしているケースが多いですが、それはもったいないと思います。身体に向き合う仕事のほうが合っているでしょう。
そこで、スポーツ強豪校に新卒採用の募集をかけることにしたのです。ですから、当社には「アンダー○○」の元日本代表選手もいっぱいいますよ。某プロ野球のOBチームと試合をして勝ったりもしています(笑)。
――採用人数はどのくらいですか?
黒川 新卒のトレーナーが、昨年は100人くらい。今年は150人を目標にしています。
――トレーナーの教育は、どうしているのですか?
黒川 当社には教育機関があって、その部門と、店舗をマネジメントする営業部門とが、明確に分かれています。営業が教育に口出しすることは、いっさいできません。ですから、店舗で人が足りないからといって、焦って、まだ技術が身についていない社員を店舗に入れることがありません。もちろん、営業の担当役員は早く店舗に人を出したいと思うものですが、私が止めています。そうすることで、サービスのクオリティを担保しているのです。
一定の技術が身につかなければ店舗に出ることができませんし、店舗に出ても、一定の成績が残せないと研修所に戻ります。成績は個人ごとにPOSで管理しています。
――シンガポール、中国、台湾にも出店していますが、海外でも同様の教育をしているのですか?
黒川 はい。最初は日本から教育部門の社員が行って教えて、現地の社員が教えられるようになったら、引き揚げています。
――トレーナーの教育も、他社が容易に真似できるものではなさそうですね。
黒川 しかも、会社のノウハウが1カ所に集まらないようにしています。教育のノウハウを、営業の社員は知らないわけです。教育と営業との間での人事異動もありません。当社から独立した人が、当社と同じことをする、ということが最大のリスクですから、それを防いでいるのです。
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更新:11月21日 00:05