2010年12月14日 公開
2024年12月16日 更新
刻々と変化を遂げる国際経済やマーケットへの造詣が深く、エコビジネスにも精通している伊藤洋一さん。
もはやビジネスに不可欠といえる、日本のエコ事情について語っていただいた。
[写真:Miki Sano 文:Kyoko Motoyoshi]
※本稿は、『THE21』1月特別増刊号[仕事に使える「エコの教科書」](PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
省エネ家電や住宅エコポイントなど、環境に配慮した製品や企業が話題にのぼることが多い昨今。来月には、日産から100%電気で走る電気自動車、「リーフ」が発売されるなど、エコカー競争もますます加熱しそうだ。エコビジネスは一過性のブームではなく、加速度的に広まっていくのだろうか? 伊藤洋一さんに伺った。
「社会の"美意識"がエコに向かっていることは、間違いありません。そもそも私たち人間は、必需品ばかりではなく、それほど必要ではないモノも買います。しかし、そこには"自分が正しい消費行動をしている"という理由づけが必要。たとえば価格の安さだったり、ブランド価値だったり、おもしろさだったり......。当たり前のようですが、自分を納得させられる理由がないと買いません。昨今、"環境にやさしい"という価値が、その理由の一つになっているわけです」
たしかに、トヨタから「プリウス」が発売されたとき、まずハリウッドの映画俳優たちのあいだで流行した。
「もちろん、プリウス10台分の高級車でも買えるお金がある彼らが、わざわざプリウスを選んだのは、それが"社会的に美しい"と思われる行為だったからです。日本人にとってもその感覚は同じで、どうせクルマを買うなら何か理由づけがほしい。誰でも"きれいな地球、きれいな日本を次世代に残せるほうがいい"と思っていますし、あと100年くらいで石油を使い果たしてしまうことに対する問題意識も抱えています。環境に配慮した製品が売れるのは、そんな消費者の美意識によるところが大きいですね」
エコは企業にとってそれほど"おいしい"のだろうか?環境にやさしい製品をつくるためにはコストもかかるうえ、また、企業の社会的責任の一環として、植林などの環境事業に資金と人材を投入することは負担ではないのだろうか。
「"環境活動と経済活動は相反する"という人もいますが、私はそうは思いません。むしろエコ・マインドなき企業は、これからどんどん淘汰されていくでしょう。たとえばいま、中国が行っているような、工場から黒煙をバンバン流している会社の製品が、この先も売れ続けるとはとても思えません。そのような製品はいくら安くても、近い将来、消費者から見離されるはずです」
もちろん、企業は儲けなくてはならない。平均年収400万円といわれる時代、いくら環境にやさしくても、高額な製品は売れないだろう。
「環境に配慮した製品のコストが高くなるとも限りません。たとえば、一つの工場を稼動するにおいても、エネルギーをどれだけ削除できるかといった技術革新を一つひとつ積み上げていくことで、消費者の懐にも環境にもやさしい製品を生み出すことは不可能ではないと思います。環境にやさしくて、しかも安いという製品が出れば、爆発的に売れる。100万円代前半でカッコいいハイブリッドカーをつくれば、それは必ず売れるでしょう? 最近、驚いたのはメルセデス・ベンツやBMW、ポルシェでもハイブリッドカーを出したこと。これは高級車といえども"カッコいい""速い"だけでは売れない時代が来ていることを、鮮明に示しています」
ヒット商品には、さまざまな魅力がある。たとえばプリウスは、環境にやさしいだけではなく、ガソリン代が劇的に安く、維持費を削減できる。
「企業にとって必要なのは、"環境"という理念を売ることではなく、環境をパッケージ化して、"環境に配慮した商品を買ったほうが得ですよ"とアピールできる商品をつくること。なぜなら、一般的な消費者は、自分にメリットを感じないモノは、社会的に美しい行為であっても買わないからです。プリウスが22ヵ月連続で売上げトップに君臨したのは、ガソリン代が浮くという実利があるからです」
2011年末にトヨタから発売される予定のプラグイン・ハイブリッドカー(直接、コンセントから充電できるハイブリッドカー)など、電気自動車の登場にともない、気になるのが充電スタンドだ。
「日産の電気自動車リーフは、すでに予約で埋まっているほど人気です。充電スタンドは、いずれ整うでしょう。早ければ来年ぐらいには、"充電スタンドあります"といった看板を見かけるようになるのでは。やがてガソリンスタンドはガラガラになる、という可能性はありますね。設置費用は1台200万円弱と聞いています。30分で8割充電できるので、スーパーで買い物をするのにはちょうどいいですね。しかも電気代自体は安価で、ほとんど経費がかからない。タダで充電できるようにして、地方のコンビニ、大型スーパー、デパートなどの集客にも使えます。パチンコ屋などは、絶対にやると思いますね」
充電に30分かかるというのが、肝。充電しているあいだに買い物を、といった「ワン・ストップ・バイイング」が主流になりそうな気配だという。
「これからは、電池が重要な産業セクターになっていくでしょう。つまり、電気がどんどん大量に必要になる。たとえば一般住宅にももっと太陽光パネルが普及し、余った電気を電力会社が買うといった制度がもっと広がると思います。もはや、あらゆる産業がエコ・マインドをもたなければ淘汰される時代。やがて石油が枯渇することは明らかですし、この流れは止まらないでしょう」
"環境にやさしい"とうい美意識のトレンドに、いかにうまく製品とサービスを結びつけていくか。それが、これからのビジネス成功の鍵といえそうだ。
更新:02月05日 00:05