“築地銀だこ”社長の新たなる挑戦 「私が石巻に本社を移す理由」

宮城県石巻市にオープンした「ホット横丁石巻」

たこ焼きチェーン「築地銀だこ」などを運営する株式会社ホットランドは、群馬県桐生市にある本社を宮城県石巻市に移す。東日本大震災での死者・行方不明者がもっとも多い被災自治体への本社移転となる。

佐瀬守男社長は「雇用や納税を通じて復興に貢献したい」と力強い。逆境に挑むベンチャー企業の意気込みを聞いた。

※本稿は、月刊誌『THE21』2011年11月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

一時的な支援だけで終わってよいのか

ホットランドと石巻市のかかわりは、ある社員の「声」がきっかけだった。避難所生活を送った社員に、佐瀬社長が「どのような支援ができるか」と訊いたところ、「現地の人たちは温かいものを食べたがっている」との回答が届いた。

数日後、キッチンカーで駆けつけ「たこ焼き」の"炊き出し"を始める。惨状を目の前に、佐瀬社長は「一過性のボランティアではなく、長期的に被災地を下支えしていく必要がある」と痛感したという。そのためにも「店をつくりたい」との思いが募った。

だが、インフラは壊滅しており、物流も滞っている。常設店の新設は困難をきわめた。佐瀬社長は、「自分の無力さが身にしみた」と振り返る。

社員が泊り込んで新業態開発に注力

「ホット横丁石巻」の参加店舗
↑たこ焼専門店 「築地銀だこ」	↑出来立てが嬉しい 「スマイル弁当」
↑元気な歌声が響く 「カラオケ本舗 まねきねこ」	↑スポーツを観る・参加する・ 語る 「SPOLABｏ」
↑新旧音楽情報を発信 「近藤レコード店」	↑海の幸を楽しむ 「炉端焼 ふるさと」
↑お好み焼きと焼きそばの 「しげちゃん」	↑アツアツのたい焼 「銀のあん」」

だが、諦めなかった。７月、トレーラーハウスを使った商店街を営む会社「ホット横丁」を設立する。製粉会社やカラオケ運営会社などとの共同出資だ。１億円の資本金のうち約 ６割をホットランドが出した。

沿岸部から内陸に約２キロ。何台ものクルマが横たわる場所に、新会社は飲食店やカラオケ店などを集めた商店街「ホット横丁石巻」を開設する。会社設立の半月後だった。約100人の雇用をつくったことになる。

長期的支援のため、商店街「ホット横丁石巻」に入った佐瀬社長は、なかなか群馬本社や東京本部に戻れなくなる。社長だけではない。ホット横丁事務所内の宿泊施設で、ホットランド東京本部ののべ約20の社員が共同生活を送った。「24時間、従業員と顔を合わす、久しぶりの時間だった」と振り返る。

その際、佐瀬社長は「ビジネスに大切なものを、会社が大きくなるにつれ、忘れていたのかもしれない」と気づいた。「顧客の支持を得るには何をするべきか」と、従業員とともに改めて考え続ける毎日だったという。その結果、いくつかの新業態が思い浮かんだ。

苦労を重ねた業態はポテンシャルが高い

描いた構想は「石巻発祥のブランドを立ち上げる」（佐瀬社長）。新業態のひとつがホットドッグ店「Rock'N Roll's」だ。名称は石巻市にちなんでいる。

地場米「ひとめぼれ」の米粉を使用したパンを焼き、そのパンに温めたソーセージを挟み、特産品「仙台味噌」入りのミートソースをかける。「香ばしくモチモチした食感」（佐瀬社長）が特徴だ。１個150円から販売する。

佐瀬社長は「全国にチェーン展開できる力強さがある」と自信満々。「従業員と車座になってつくりあげた」との思いがあるからだ。

「その意味で、東京で生まれた既存の業態はなかなか厳しい」と、佐瀬社長は打ち明ける。23年前の創業時に、ホットランドは群馬県桐生市で「焼きそば」を売っていた。その後、業態を増やしたものの、業績は伸び悩む。

そこで、もっとも売り上げのよかった「たこ焼き」だけに絞った。東京進出後、業績が上向いたこともあり、焼鳥屋や天ぷら専門店などのチェーン展開を始めた。しかしながら、10年以上が経つが、目標の100店舗に届かず、当初期待したほど拡大できていないという。