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JALパイロットの「想定外に対処する」エラー防止術

2017年05月10日 公開
2021年07月28日 更新

靍谷忠久(日本航空777運航乗員部機長)

「経験」に頼らず、標準化された手順を重視

――問題が発生した時に意思決定を迫られるのは、どんな職業でも同じだ。だが、「正しいプロセスを踏んで意思決定ができる人は、意外と少ないのではないか」と靍谷氏は指摘する。

「手順の確認や分析をすることなく、いきなり直観的な意思決定をしようとする人は多いはず。『前もこれでうまくいったんだから、自分の言う通りにやってよ』と部下に命令する上司は、どの職場にもいるものです。

しかし、自分の経験に基づいて判断するのは、あくまで二番目以降の段階。とくに航空機のフライトは、飛行中の環境やお乗りいただいているお客さまが毎回違うので、『過去の経験がそのまま役に立つことはない』と考えます。だからこそ、標準化された手順やフレームワークに従い、合理的かつ客観的な基準にもとづいて行動することが求められるのです。

『意外と当たり前ことだな』と思った方もいらっしゃるでしょう。しかし、当たり前のことを当たり前に実践することが、エラーの発生を最小限にするためには、何より大事なのではないでしょうか」

 

【コラム】「気をつけよう」はNGワード
パイロット間のコミュニケーションでも、主観的な表現は使わず、「客観的かつ合理的」の原則が厳守される。よって、機長と副操縦士の会話では、「気をつけましょう」「注意しましょう」といった曖昧な表現が使われることはない。
「たとえば空港の滑走路が混雑している時に、『今日は滑走路が混んでいるので、地上を走行中は注意しましょう』では不十分。『今日は34R滑走路まで地上を走行する時、右方向から入ってくる国際線が普段より多くなります。よって、右手に別の航空機が見えたら、そのことを声に出してから、速度を落としましょう』。このように、実際の行動にまで落とし込んだ具体的な指示や確認が必要です」
「何がどうなったら、どのように行動すべきか」というところまで具体的に言葉にすること。これは一般企業の職場でも有効なエラー防止策になるはずだ。

(プロフィール)
靍谷忠久
Tadahisa Tsuruya
日本航空〔株〕777運航乗員部機長/広報部担当部長
1986年、日本航空㈱入社。90年、747型機セカンドオフィサー(パイロット資格を所有し、航空機関士業務を行なう運航乗務員)として乗務開始。92年、747型機副操縦士。2000年、767型機機長。01年、747型機機長。08年、運航安全企画部調査役機長。10年、777型機機長、兼運航訓練審査企画部HF訓練企画室室長。14年、運航訓練審査企画部副部長。16年、広報部担当部長。

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