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星野リゾートの現場力(7)青森屋の「みちのく祭りや」

2017年01月27日 公開
2023年05月16日 更新

星野佳路(星野リゾート代表)

星野佳路氏の視点――地方で優秀な人材に働いてもらうこと

(以下、星野佳路氏談)

地元に思い入れを持っていて、楽しく仕事をしている武田さんのようなスタッフは、会社にとって大切な存在です。

星野リゾートではここ最近は年間300人ほどの新卒社員を採用していますが、その大半が、入社した途端に地方の施設に配属されます。地方で働くことを是とする人でなければ観光業では務まりませんので、人材の確保は容易ではありません。その点、首都圏の大学を卒業後に地元に戻ろうという若い人は貴重な存在です。

最近は、UターンやIターンが以前に比べて増えているのも事実です。依然として東京で働きたいとか、大手志向や安定志
向は残っているものの、私がこの会社を継いだ1991年当時に比べると、地方で働くことに対する若い人のネガティブ感は薄まっていると思います。

せっかく当社を選んで入社してきてくれたスタッフには、楽しく仕事をしてもらいたいし、がっかりさせたくない。ですから、できるだけ本人の希望に沿う形で配属やキャリアが実現するよう、体制を整えています。

武田さんはまだ入社3年目ですし、青森屋で楽しく仕事をしているうちは、異動や業務指示をあれこれ言うつもりはありません。ただ、5年後、10年後にライフスタイルや求めるキャリアが変わったときに、できるだけ希望に沿った配置や業務内容を叶えたい。それが優秀なスタッフに長く会社で働いてもらうためには大切なことだと思っています。

 

コンセプトありきの自由が現場の競争力を高める

「みちのく祭りや」は、青森屋の大きな魅力の一つです。集客するうえで、また、お客様に青森文化を体験していただくためにも必要なコンテンツです。それを、青森に愛情を持った地元出身のスタッフが担うのは自然なことだし、お客様にも伝わりやすい。スタッフが話す方言もナチュラルで、実に青森らしいと好評です。

「みちのく祭りや」の他にも、青森の地酒が飲める「ヨッテマレ酒場」や、スタッフによるスコップ三味線の演奏があったりして、地元スタッフを中心にどんどん新しいサービスやアクティビティが生まれています。地元を愛し、地元文化に精通する彼らに自由を与えていることが、青森屋の競争力につながっているのだと思います。

ただし、自由といっても「なんでもあり」ではありません。社内で合意された「のれそれ(=目一杯)青森」というコンセプトのもとで自由ということです。

青森屋は2004年に経営破綻し、その翌年から星野リゾートが運営を担っています。最初に作ったのが、皆で考えたコンセプトでした。東京の一流ホテルの真似事をするのではなく、青森らしいことをしようと。東京の旅館を真似ようとすると、「どうせ勝てやしない」と思考が停止しますが、「青森らしさを目一杯表現しよう」というコンセプトなら、自分たちにも『できる』感覚がある。しかも、自分たちで考えたコンセプトだから、納得感も高い。俄然やる気が出ます。「このサービスは『のれそれ感』があるか」という視点で、新しいサービスを考え始めたのがきっかけです。

小さな挑戦が集客やお客さまの満足につながると、自信になります。小さな成功体験から良い循環が生まれ、業績アップや職場環境の改善につながり、強いチームになっていくのです。

最近は、青森屋が成功した祭りのショーを他社も模倣するようになり、競争が激しくなっています。私たちも祭りのあり方や魅力を進化させていく必要があります。武田さんのような青森愛に溢れた若いスタッフにこそ、お客様の声に耳を傾けながらサービスの進化を担っていってほしいと期待しています。

 

《『THE21』2016年9月号より》

著者紹介

星野佳路(ほしの・よしはる)

星野リゾート代表

1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。日本航空開発(現・JALホテルズ)に入社。シカゴにて2年間、新ホテルの開発業務に携わる。89年に帰国後、家業である㈱星野温泉に副社長として入社するも、6カ月で退職。シティバンクに転職し、リゾート企業の債権回収業務に携わったのち、91年、ふたたび㈱星野温泉(現・星野リゾート)へ入社、代表取締役社長に就任。

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