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星野リゾートの現場力(2)星のや竹富島の「種子取祭」

2016年12月27日 公開
2023年05月16日 更新

星野佳路(星野リゾート代表)

星野佳路氏の視点――使命感から生まれる情熱

(以下、星野佳路氏談)

3年がかりで島の人たちを説得

田川さんが地元で取り組んでいる活動は、星のや竹富島にとってまさに必要な社会貢献です。星野リゾートが地域の人たちとどう接していくべきかを、竹富島という特殊な環境の中で、最適な活動を自分なりに選んで取り組んでいるのだと思います。

竹富島には、現地からの要請を受けてリゾートを開業しました。しかし、リゾートを開業するには、住民投票で大多数の賛成を得なくてはならないなど島独自のやり方があって、住民への説得のために私自身が、何度も島へ足を運びました。

反対派の人たちは、何も我々のことが嫌いだから反対しているのではなく、島のいろいろな事情で反対していました。あるいは、我々が信頼できる相手なのか、確かめている人もいたでしょう。だからこそ、丁寧に説明することが大事だったのです。

また、その過程でさまざまな意見や要望があっても、我々が最適だと考えるプランを一貫して主張し続けました。

その主張とはつまり、「竹富島は観光が経済に何ができるかを試す場である」ということです。島の経済は観光に依存しています。日帰り観光では島にお金が落ちないので、宿泊してもらう必要があります。宿泊してもらう理由として、島の自然や文化などを「島の魅力」として発信していくことが非常に重要。それをリゾート施設のサービスとしてだけでなく、島全体で取り組んでいかなければならないということです。

住民の説得には3年を要しましたが、結果的には圧倒的な賛成を得ることができました。時間をかけて正解だったと思います。さらに開業後には、我々が主張してきたとおりのことが、実際に起きています。つまり、地域文化の発信により観光客の宿泊が増え、そして何より、リゾートと地域が共存共栄できている。これによって島の人たちからの信頼感が確実に高まりました。これが最も大きな成果だと思っています。

 

ミッションへの共感と使命感が楽しく働く秘訣

竹富島は「観光が経済に何ができるか試す場だ」と書きましたが、日本全体の縮図でもあると思います。日本は地球全体からみると、非常に小さな島です。その島が、観光を地域の基幹産業に、観光立国を目指している。つまり、我々が竹富島で試していることを、もっと大きなスケールで取り組んでいこうとしているのです。田川さんはこの考えに共感し、そのミッションのために竹富島で活動してくれています。

「人と交わることが好き」ということが大きなモチベーションになっているとはいえ、必ずしも「好き」だけで取り組んでいるわけではないと思います。「好き」だけでは、プライベートの時間を使ってまで島の人たちのために草むしりなどできないでしょう。

むしろ、彼を突き動かしているのは、「使命感」ではないでしょうか。観光が地域に対して何ができるかを、使命感を持って取り組もうとしています。

「好き」であれば情熱を持って続けられるのと同じように、「使命感」もまた、情熱を持つためには重要な要素です。田川さんのように、使命感を持って仕事をすることも、長く楽しく仕事をするための方法だと思います。

また彼には、島の人との交流から得た体験を、竹富島の魅力としてサービスに落とし込むセンスがあります。こうした観光センスも彼の強みです。

最近は以前に比べ、日本の人口減少や地方経済の衰退に危機感を感じ、なんとかしたいと考える若い人たちが増えています。そういう人たちが使命感を持ち、100%全力投球できる機会を、我々としても作っていかなければならないと思います。

 

《『THE21』2016年2月号より》

著者紹介

星野佳路(ほしの・よしはる)

星野リゾート代表

1960年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。日本航空開発(現・JALホテルズ)に入社。シカゴにて2年間、新ホテルの開発業務に携わる。89年に帰国後、家業である㈱星野温泉に副社長として入社するも、6カ月で退職。シティバンクに転職し、リゾート企業の債権回収業務に携わったのち、91年、ふたたび㈱星野温泉(現・星野リゾート)へ入社、代表取締役社長に就任。

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