安倍内閣の地方創生の流れもあり、全国各地の自治体が企業誘致にしのぎを削っている。だが、それよりはるか前から企業誘致の重要性を認識し、地道な活動で多くの企業の誘致に成功している街がある。それが北海道旭川市だ。規模がそれほど大きいわけでもなく、日本の北の端という立地にもかかわらず、人気を集めている秘密は何か。元パイロットという異色の経歴を持つ旭川市長の西川将人氏にお話をうかがった。
西川将人
1968年、旭川市生まれ。北海道大学工学部を経て日本航空入社。99年に退社。2006年に旭川市長に立候補し当選。現在、3期目を務める。
北海道第2の都市、旭川市。旭山動物園で知られるこの街だが、一方で「企業誘致のモデルケース」としても知られつつある。西川氏が市長になってから本格的な企業誘致の取り組みを始め、平成23年度以降だけでも新規で12社が進出。新規雇用は1200名にも上る。
「進出企業は食品から医療、ITなど多岐にわたります。また、データセンターやコールセンターなどのニーズも多いですね。平成23年度からは最大2億6000万円にもおよぶ助成など、かなり思い切った施策を展開しましたが、その効果も大きかったと思います。ここまでの規模の助成は北海道内はもちろん、全国的にもそう多くありません」
だが、助成以上に評価されている点がある。それが「旭川人」への評価の高さだ。
「旭川人の特長をひと言で表わすと、まじめでコツコツ。だから企業の研修にも真剣に取り組み、すぐに仕事を覚えてくれるという評価を得ています。また、人材の確保はどこの企業にとっても大きな問題ですが、まじめな旭川人は離職率も低い。
市もまた、人材育成のための様々なサポートをしています。たとえばコールセンターオペレーターや製造業のリーダー育成プログラムを、進出企業と共同企画したりもしているのです。
来ていただいて終わり、というのでは無責任。移転企業は一緒に街を盛り上げていくパートナーだという意識で、できることはなんでもやる、という万全のサポートを心がけているのです」
すぐ近くの札幌市など、旭川市より規模の大きい都市はいくつもある。同規模で首都圏、関西圏により近い都市も多い。人口約34万で、日本の北の端に位置する旭川は不利に思えるが、西川氏によればそこがむしろ「強み」になるのだという。
「大きすぎず、小さすぎずという『ちょうどいい』規模感。それが旭川の特長であり、強みでもあると私は思っています。
旭川には医療機関や教育機関が一通りそろっている一方で、大都市に比べて街がコンパクトなので、通勤にかかる時間も長くて30分ほど。住環境も都会に比べて圧倒的にいい。だからこそIターン、Uターンも多く、人材も確保しやすいのです。
また、このくらいの規模だと企業同士が連携しやすいというメリットもあるようです。たとえば、食品工場で出た野菜残渣を地元企業の技術により堆肥化する連携なども進出の際に生まれています」
また、アクセスが悪いというのもイメージ先行だという。
「東京へは旭川空港から一日7往復の航空便が出ており、所要時間は100分。冬場は雪の影響があるように思われがちですが、飛行機の就航率は年間99.8%に上ります。雪はもちろん降りますが、除雪もしっかり行なっており、道路や鉄道など交通がマヒするようなことはほぼありません。
むしろ旭川は『災害が少ない』ことが評価されているのです。政府の地震調査研究推進本部が発表した資料によれば、今後30年間の震度6弱以上の大地震発生確率は、東京47%、大阪55%に対して、わずか0.38%。あくまで確率の話ではありますが、そこも大きな強みです」
むしろ、北海道の中心部に位置するメリットが大きいという。
「北海道のどこへも行きやすいのはもちろんですが、北海道各地から新鮮な農産物が集まるなど、物流の集散地であることもメリットです。
たとえば旭川に工場を新設したある食品メーカーは、以前は工場のある静岡まで北海道内各地からジャガイモやカボチャなどを取り寄せていましたが、旭川に進出し、これら原材料が集めやすく、より新鮮なうちに加工することができるようになり、味の評価も高まったと聞きます。作った商品もスムーズに関東圏に輸送することができるので、質の高い商品が全国チェーンのコンビニエンスストアに届けられているのです」
更新:11月23日 00:05