2016年09月18日 公開
2023年05月16日 更新
新日本プロレスをV字回復させた「100年に一人の逸材」・棚橋弘至。何事にも全力で組織をも変えた、その生き様は従来のプロレスファンのみならず、さまざまな人から支持されている。この企画では読者の皆さんからお寄せいただいたお悩みに棚橋選手がお答えする。《取材・構成=村上敬、写真撮影=永井浩》
Q1 昨年10月から異動してきた直属の上司(部長)が苦手なタイプです。威圧的に怒鳴るため若手が委縮していますし、無意味な会議ばかりやりたがります。うまくつきあうには、どうしたらいいのでしょうか。
この上司はダメですね。相談内容を見るかぎり、叱り方に愛がないでしょう? 部下に成長してほしいという思いを込めて叱っているんじゃなくて、自分を偉く見せるために叱っているだけ。指導のフリをしているかもしれないけど、ただのポーズですよ。
叱るという行為は、人間の活動の中でももっともエネルギーを使う行為の一つです。新日本プロレスでも真壁刀義さんや他のコーチが若手を厳しく指導していますが、あれは「お前と一緒に歩いていくぞ」という覚悟がないとできません。僕は若手を直接叱るより、黙って背中を見せて「わかるやつだけわかればいい」というスタイルで指導していますが、自分のベストを尽くせばいいので、ある意味では楽です。その点、真壁さんの叱り方には「俺は逃げない。とことんつきあってやる」という深い愛を感じる。あれは誰にでもできることじゃないです。
もし上司が部下のことを真剣に考えて叱っているなら、叱られたほうも思いをしっかり受け止めるべきでしょう。では、今回の相談者のように自分の地位や権力を誇示するためだけに部下に威張り散らしている上司がいたらどうするのか?
僕なら、適当にやり過ごします。ラリアットを受けたとき、下手に踏ん張ろうとすると衝撃が逃げずにダメージが大きくなります。だから場面によっては、わざと後ろに倒れて力を逃すことがあります。そのほうがダメージは少なく、結果的に早く立ち上がれるんです。この「受け身の理論」は、愛のない叱られ方をしたときも同じです。愛のない指導を真正面から受け止めて、ストレスを溜め込むのは馬鹿らしい。適当にスルーして後ろに受け流すべきです。
もちろん適当に流すといっても、あからさまなのはダメです。ノーダメージでニコニコしていると、「なにヘラヘラしているんだ」と余計に怒らせる恐れがあるから、一応しおらしい顔をして「申し訳ございません」と反省するフリをします。上司を欺くことに罪悪感を抱く必要はないんじゃないですか。相手も「愛のある指導」のフリをしているのだから、こちらも「反省」のフリで返せばいいんです。
軽くやりすごせないくらいにストレスの大きい上司だったら、逆に立ち向かって、乗り越えていくしかないでしょう。プロレスラーのタイプはさまざまで、なかには「この人はやりづらいな」と感じる相手もいます。ただ、苦手な相手を克服できたら、レスラーとして一回り大きくなれます。だから僕はやりにくい相手との対戦をチャンスととらえて、「相手を自分の糧にしてやる」という気持ちで試合に臨むことにしています。
嫌な上司もこれと同じです。克服すればものすごい経験値が入ると考えれば、ドラクエのメタルスライムのようなものです。愛のない叱り方をする上司が何か言ってきたら、「メタル部長が現われた!」と思って倒せば良いのです。
倒し方はいろいろあります。議論して凹ませてもいいし、直接対決に問題があるなら、仕事で誰からも認められる結果を出して、「あの部署は上司より部下のほうが優秀だ」という評判を社内で確立させるのもかっこいい。乗り越えることで、メタルスライム並みの経験値が手に入り、ビジネスマンとしてパワーアップしているはずです。
更新:11月22日 00:05