2016年02月06日 公開
2017年10月03日 更新
働きながら世界一周11年目。
いまだ訪問国数が90に届かず、地球の広さを噛み締めています。
日本から持ち込んだ軽自動車に鞭打ちながら、シベリアの冬将軍をかいくぐり、昨年から季節外れの中央アジアをさ迷っています。
国土の40%以上が海抜3,000メートルを超す天空の国、キルギスに突入しました。
同国は、旧ソ連圏ではいち早くビザを免除した開国派であり、国名から辛気くさい「スタン」を外し、中央アジアで初めてWTOに加盟するほどリベラルですが、GDPの3割を占める輸出品は、“労働”です。
天然資源に恵まれず、中央アジアではGDP的に最貧国なのです。
隣国が独裁政権に染まるなか、大統領がふたりも国外逃亡せざる得なかった、民意の民主国家。2011年の選挙では、83名も大統領に立候補するほど政治は開かれています。
ソ連時代の老築化した水力発電に頼っているせいか、首都であっても夜道は洞窟のように暗いです。
ある晩、妻Yukoが闇につまづいて激しく転倒。
また歩道には正体不明の穴が多く、やはりYukoが、田村亮子選手の小内刈をくらったようにひっくり返りましたが、概ね命に別状はありません。
昨年訪問した安倍総理の手みやげ139億円のODAで、街灯の設置を希望します。
首都ビシュケクは、「マルシュルートカ」と呼ばれる小型バスが市民の足として活躍。運転手にキルギス人の働きぶりが垣間見えます。
器用だが無愛想、決して怠惰ではないがはた迷惑な俺様ぶりです。
彼らのドライビングテクニックは、曲芸レベルに達しています。
煙草を吸いながら携帯電話で話しつつ料金を受け取ってお釣りを渡した瞬間、さくっとギアチェンジ。前後左右に割り込んでくる車をパッシングで蹴散らし、ギアは三速へ。命知らずの歩行者に腹を立ててクラクションで威嚇しつつ、トップギアへ。
道路の穴を巧みに避け、決して側溝にはまらず、右に路駐した車があれば紙一重でかわし、左に割り込んでくる車があれば左手で制し、縦横無尽に車線を変更。
頓死寸前のクラシックなエンジンにトドメを刺すがごとく力一杯アクセルを踏み込んでポールポジションを目指すさなか、ボクらのような旅人が「ここで降ろしてくれ!」と叫ぶわけです、素の日本語で。
文句ひとつどころか返事もせず、すーっと停まってくれます。
もちろん微塵の笑顔もありません。
ちなみにドアの開閉は、乗客の仕事です。
彼らの巧みな運転は高く評価しますが、停留所の使い方は謎と混沌に満ち、非常に不可解です。
バスが4台くらい並ぶスペースがあるにもかかわらず、多くの運転手は停留所の一番うしろに停まるのです。
次のバスも前方に停まらず、どういう了簡なのか横に停車。
3台目はその後ろ。4台目以降のバスが、先頭車の頭をおさえます。
ある程度乗客が集まらなければ発進しないので、他の乗用車やトロリーバスが通れなくなり、道は空いているにもかかわらず渋滞が発生します。
しかもどのバスも頭から斜めに突っ込んで停車するので、バックしないと抜け出せないことしきり。
団子状態になった後続車から、殺意のこもった激しいクラクションとパッシングを浴びせかけられても、決して怒らず。いつも静かに笑って携帯。美味しそうに煙草を吸うコンクリート製の神経をお持ちなのです。
とはいえ、事故が起きるときは起きる。
中央アジアと聞くとなにやら危険なイメージがつきまといますが、キルギスは安全です。
強盗の類いが少なく、落とした財布がお金付きで戻ってくると、2回も財布を落とした間抜けなカナダ人が自慢するほどです。
ただ唯一、油断ならないのが警察官。
荷物検査と称してお金を抜き取る巧みな指さばきと、賄賂を払うまでパスポートを返さないタフな交渉力に長けています。
先日、掘建小屋に連れ込まれました。
この警察官が無精な人でして、せめて冤罪にしてくれるのがたかりの仁義ってものではないかと思うのですが、なんのエクスキューズもなく、いきなり「100ソム(160円)出せ!」ときました。
「なんでもいいから、プレゼントをくれ!」
誕生日を迎えた子供のように、プレゼントという単語を連呼するだけの幼稚なおねだりです。
気の小ささにおいては人後に落ちぬワタクシですが、たっぷりと10分間、ひと言のロシア語も英語も話せない役柄を演じたところ、無罪放免と相成りました。
聞くところによると、キルギスの警察官は、給料は自分で稼ぐものなのです。
キルギス人は意外と勤勉。
更新:11月23日 00:05