2015年03月06日 公開
2022年11月14日 更新
《『THE21』2015年3月号[特別企画]より/写真提供:JR東日本》
2015年3月、いよいよ北陸新幹線が金沢まで開業する。北陸地方にとってはまさに悲願だったわけだが、航空網も発達した現在、新幹線開業がどれほどの経済効果をもたらすのか、首をかしげる人も多いだろう。そこで、経済に精通し、年間100回以上新幹線に乗るという「新幹線好き」として知られる経営コンサルタントの小宮一慶氏に、「北陸新幹線で何が変わるのか」についてうかがった。
3月14日、いよいよ北陸新幹線長野-金沢間が開業します。北陸にはお客様も多いため、しばしば行っているのですが、地元ではすでにかなり盛り上がっているようです。新幹線開業直後のホテルや旅館はもう、ほぼ満室とのことです。
実は私は自他ともに認める「新幹線好き」。毎年少なくとも100回は乗っており、『新幹線から経済が見える』という本まで書いているほど。そんな私ですから、もちろん開業は非常に楽しみです。ただ、だからといって全国にどんどん新幹線を走らせればいいと思っているわけではありません。2016年に函館(新函館北斗駅)まで、さらに札幌までの延伸が予定されている北海道新幹線や、九州新幹線の長崎ルートなどは、事業の採算が取れるのかなと心配しています。ただ、この北陸新幹線に関しては、人の流れや経済に確実に大きなインパクトを与えると考えられます。リニアを除いて、日本経済や文化に大きな好影響を与える最後の新幹線と言えるでしょう。
まず、東京と北陸との間の人の流れが変わるのは確実です。現在、東京から富山県や石川県に行く人の大半は、羽田から空路を利用しています。羽田から富山や小松(石川県)への路線は国内で最も短い航空路線の1つで、飛行時間はわずか1時間。空港へのアクセスの時間などを考えても、現状、越後湯沢経由で4時間はかかる鉄道に比べて圧倒的に優位です。
それが、新幹線開通により金沢まで最速2時間半で着くようになります。ドアトゥドアの時間では飛行機と大差ないかもしれませんが、私のお客様に聞いてもほぼ全員が「新幹線を使う」と言います。なぜなら、ビジネスマンにとっては「忙しいときこそ新幹線」だからです。
飛行機の場合、30分前には空港に到着せねばならず、その後も手荷物検査や搭乗などが慌ただしく続きます。離陸時には何もできず、やっと安定飛行に入ったと思ったらまもなく着陸。さらに空港から市街地まではバスに乗り換えと、落ち着く暇もありません。
一方、新幹線はギリギリに駅に到着してもすぐに乗ることができ、車内では到着まで落ち着いて過ごすことができます。私を含め、新幹線の車内で仕事をする人は多いと思いますが、日本の新幹線は揺れが少ないので、仕事をするにはもってこいの環境です。フランスのTGVなどに乗ってみるとわかりますが、ここまで揺れの少ない高速鉄道は世界に類を見ません。しかも、北陸新幹線に投入される新型のE7/W7系新幹線車両には、普通車にも全席に電源コンセントがついているというのですから、パソコン作業はますます便利になりそうです。さらに、駅から市街地まで近いこと、比較的遅延や欠航がある飛行機に比べ、天候に左右されにくいのもビジネスでは重要です。
東京-金沢間の所要時間2時間半というのは、東京-大阪間とほぼ同じです。言うまでもなく、東京-大阪間を移動する人の多くは新幹線を使っています。とくに、所要時間が2時間強の富山は、ビジネスユースの大半が新幹線に切り替わるでしょう。
ちなみに、北海道新幹線は東京から函館まで4時間10分、札幌までは約5時間の予定。新幹線長崎ルートの時短効果はわずか20~30分。これでは、劇的なシフトが起こるとはとうてい思えないのです。
北陸は歴史的に関西圏とのつながりが強い地域で、現在でも大阪-金沢間は特急「ザンダーバード」で約2時間半と、東京より圧倒的に近い。それが新幹線開通でほぼ同じ所要時間になるわけで、当然、北陸と首都圏との結びつきは強化されます。企業同士のつながりや人の移動の増加などが予想されるでしょう。
実は石川県や富山県には、コマツやYKK、インテックなど多数の優良企業があります。有効求人倍率を見れば、石川県1.40倍、富山県1.39倍(平成26年11月)。これは全国平均1.11を大きく上回り、東京都や愛知県などに次ぎトップ10に入っています。それだけ業績のいい企業が多いということでしょう。また、農業や漁業も盛んです。
それもあってか、県民の幸福度ランキングでは北陸の各県が常に上位を独占しています。実際に行ってみると、この地域の家はどこも広く、何より仏壇の大きさに驚かされます。これも裕福さの表われでしょう。
そして、見逃せないのが観光です。とくに古い街並みが残る金沢は、今でも欧米人を中心に多くの外国人観光客を集めていますが、新幹線開通によりさらに増えるのは確実。食べ物もおいしく、今後はアジア系の観光客も見込めるでしょう。こうした観光客をうまく取り込むことができれば、飛行機も意外と利用者が減らないかもしれません。
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更新:11月22日 00:05