2014年01月06日 公開
2024年12月16日 更新
《『THE21』2014年1月号より》
日本列島の多様性が凝縮されている
2013年12月4日、「和食:日本人の伝統的な食文化」が、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界無形文化遺産に登録されることが決定した。ますます国内外で注目を集める日本の食。寿司やすき焼きなどおなじみの料理にまず目がいくが、その真髄は各地域に伝わる郷土料理にある。これを機会に、故郷の伝統料理を味わい、研究してみてはいかがだろうか。<取材構成:麻生泰子>
和食を支えるのは調味料・だしの名脇役
日本各地で料理を味わってきて感じるのは、和食のしみじみとしたおいしさは、伝統的な製法で醸された「調味料」「だし」という名脇役によって支えられているということです。
台所の「さしすせそ」(砂糖・塩・酢・醤油・味噌)はもちろん、さらに私は、酒・鰹節・昆布・みりんを向笠流に「さかこみ」と総称し、和食に欠かせない重要な調味料として挙げています。
和食における調味料の特徴は、発酵調味料が非常に多いこと。とくに大豆、麹、塩を発酵させて作る味噌や醤油、米や米焼酎を発酵させた酢、みりん、また世界一硬い食品とされる鰹節も黴付けして発酵させています。昆布は発酵こそしていませんが、時間をかけて熟成させたものほど一級品とされています。
こうして手間ひまをかけて、日本の風土の中で発酵・熟成をさせた調味料だからこそ、奥行きのある旨みと、独特の香りに満ちた風味が誕生します。
地域ごとの多様性にも富んでいます。味噌ならば、仙台味噌、信州味噌、八丁味噌、西京味噌など地域ごとにさまざまな味噌の製法が伝承されてきました。醤油も、関東を中心に全国的に広がった濃口醤油、関西で生まれた薄口醤油、四国や九州で愛される甘めの醤油など味は一様ではありません。
さらに、料理に合わせて変える包丁、鍋など調理器具も日本人の細やかさを表わすもの。漆器や陶磁器などの食器もその料理を最高の状態で味わうために生まれた、和食文化を支える大切な脇役です。
こうした日本各地の食文化は、土地ごとの気候風土、人々の暮らし向き、伝承文化などによって育まれており、食をたどるほどにその土地を深く知ることにつながっていきます。
四季の変化があり、海山の幸に恵まれた日本は、新鮮な食材が豊富に揃うのはもちろんのこと、自然の滋味を存分に味わい尽くそうとする日本人の営みが息づいています。いわば豊かな自然の力と人々の知恵の結晶として、伝統調味料があるわけです。
ただ料理を味わうだけでなく、食卓にのぼるまでにたどってきた歴史や伝統まで考えることで、食の感動は深みを増します。和食は日本を知ってもらう第一歩になるのではないかと思います。
自分が好きな料理を和食の入り口にする
和食の魅力を伝えるには、まずは自分が好きな和食を極めることから始めてみてはどうでしょう。私が生まれ育った日本橋にはすき焼きの名店が多く、私はすき焼きが大好き。それが高じて全国のすき焼きを食べ歩き、本まで著しましたが、調理法から味つけ、食材まで日本全国さまざまで、実に奥が深いのです。
たとえば、関東ではかつて牛鍋と言われたように、だし汁と醤油、みりんを合わせた割下で野菜と肉をぐつぐつ煮込みますが、関西は肉を焼きつけてから、砂糖と醤油でしっかりと味付けし、それから野菜を加えます。
主役は何と言っても牛肉ですが、日本3大銘柄和牛の松阪牛、神戸牛、近江牛はすべて兵庫県の但馬牛にルーツがあり、兄弟のようなもの。上質な霜降りは共通しますが、さらに肉質のやわらかい近江牛、とろけるような神戸牛などとおいしさが微妙に異なります。ネギやしいたけにしても、地方ごとに品種にこだわりがあります。そのため、食べるたびにすき焼きの新たなおいしさに出合うことができます。
これは、親子丼やかつ丼、寿司、うなぎ、うどんなどにも共通して当てはまります。なぜなら、北海道から沖縄まで南北に長く、日本海側と太平洋側で気候風土が変わる日本では、地方によって食材や人々の好みも変わり、1つの料理でもさまざまな調理法が工夫されているからです。
まずは自分の好きな料理をとことん食べ歩き、自宅でも作ってみる。また、旅に出かけたときはその土地で伝わる味にふれてみる。そうすることで、和食や日本の食文化の知識が自然と身につき、食の楽しみもぐんと広がっていくことと思います。
向笠千恵子
フードジャーナリスト
東京・日本橋生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。農林水産省「農山漁村の郷士料理百選」選定委員などを経て、同省「食アメニティコンテスト」審査会長、本場の本物審査専門委員。食文化研究家。エッセイスト。本物の味、安心できる食べ物、伝統食品作りの現場を知る第一人者。志を持った生産者、味、民俗、歴史、器など食を多面的に捉えながら現代の食を綴る。グルマン世界料理本大賞グランプリ受賞の『食の街道を行く』(平凡社新書)をはじめ、著書多数。
<掲載誌紹介>
<今月号の読みどころ>
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更新:12月22日 00:05