2013年09月02日 公開
2023年05月16日 更新
私の場合、キャリアを深めるために、米国の大学院への留学を決めました。
有意義な学生生活でしたが、同時に米国のいわゆるエリート学生に対して、ちょっとばかりの失望を抱くようになりました。彼らのキャリア構築がつまらなく感じるのです。
有名な高校から、アイビーリーグに進み、著名なビジネススクールで経営学修士号(MBA)を取得する。就職はコンサルティング会社かインベストメントバンク(投資銀行)。そこから生まれるものは、同じ発想によるものだけで、厚みがまったくないのです。
成長の鈍化は否めないと思ったところ、これは米国だけが抱える問題ではないということに気がつきました。
東京の山の手に住み、大手町に勤めるエリート会社員を父親に持ち、東京の有名私立中学から東京大学に進み東京の大企業に入る、日本の若者の姿と重なるのです。
違う環境で育ち、違う行動原理や発想を持つ人々が、1つのチームとして企業で働けば、いろいろなアイデアが出てくるでしょう。だから、画一的な若者が目立つことにもどかしさを感じるのです。
そのような若者は、同質性を強めて、異質との共存への耐性が衰えています。環境の変化にも、時代の変化にも、発想の変化にも、うまく対応できない似たり寄ったりの若者が大量に生産されているのです。
日本の経済全体、社会全体に、暗い影を落としているのではないでしょうか。
そのような状況を前に、国は何をするべきか。どの分野に注力するべきなのか。いろいろな課題が山積しますが、私は教育にもっとお金を使うべきだと思います。
たとえば、小学生を受け持つ先生を3倍にする、というアイデアはどうでしょう。
ひとクラスの担任を2人(ベテランと新人の先生)にする。先生が独りで悩んだりすることなく、クラス運営を円滑に進めることができます。先生も育つことでしょう。
教える先生が心にゆとりを持てれば、生徒たちの成長にプラスになります。先生が興味のあることを勉強して、その勉強したことを生徒たちにアウトプットする、といった好循環が生まれることでしょう。
先生の数を3倍ほど大きく増やせば、子供の学習能力の向上につながります。放課後や夏休みに補習ができるでしょう。住んでいる場所や経済的な理由で、学習塾に行けない子どもも学べます。社会問題となっている託児所不足に対する解決策にもなるでしょうか。財源は、ハコモノを造らなければ、人件費は捻出できると思います。
そして、この「教育」の強化は、「地方を強くする」という意味にもとらえられるでしょう。そして、地方を強くするということは、東京を含め「日本全体を強くする」ということと同義です。
今や、地方で育つ子供の数が減っています。地方で子供を育てるには、その親がその地方に住まなければならない。望ましい仕事があり、魅力的な子育て環境にあり、同時に、親自身の生活も充実しないといけない。それが、できない状況にあるのが、日本の地方の姿なのです。地方を強化する政策が必要です。その1つに「教育」を大きく掲げたいと思います。(談)
小幡績(おばた・せき)
慶應義塾大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授。1967年、千葉県生まれ。1992年、東京大学経済学部卒、大蔵省(現財務省)入省、1999年、退職。2000年、IMFサマーインターン。2001~03年、一橋大学経済研究所専任講師。2001年、ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。03年より、慶應義塾大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授。行動派経済学者として知られ、TV、雑誌等のメディアのほか、自身のプログ等でも積極的に発言。著書に『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『リフレはヤバい』(ティスカヴァー携書)、『ハイブリッド・バブル』(ダイヤモンド社)、『成長戦略のまやかし』(PHP新書〕などがある。
更新:11月27日 00:05