
「平均以下だから不要」という判断は、本当に正しいのだろうか。
※本稿は、堀場英雄 著『一流の頭脳だけが解ける33問 コンサル思考1分間トレーニング』(Gakken)の内容を一部抜粋・編集したものです。
あるアパレルチェーン(全10店舗)の不採算店のリストラについて話し合う会議中。
コンサルのA君は、データ分析の結果、「月間利益300万円のZ店」を「存続」と判断しました。それを見たクライアントは、訝しげに質問します。
「コンサルのくせに、数字が見えてないんじゃないの?ウチの1店舗あたりの月間平均利益は『400万円』だ。平均以下のZ店を残す必要なんてあるのか?」
しかし、A君はデータを見て、Z店は「閉鎖してはいけない」と確信しています。なぜでしょうか?
Z店が「平均以下」に見えた平均値のゆがみは、一部の「超大型店」が平均を不自然につり上げていたためでした。実はZ店は、全10店舗中の上位店舗だったのです。
学生時代のテストなら、「平均点より下=クラスの真ん中より下」と考えて、ほぼ間違いありません。しかし、ビジネスのデータでは、この直感が「大きな罠」になります。
実はこのチェーン店、全10店舗の利益の内訳は、次のようになっていました。
都心の超大型旗艦店(2店舗):各1500万円
Z店(1店舗):300万円
地方の小型店(7店舗):0~200万円
一部の超大型店(外れ値)が全体の平均値を400万円まで引き上げていただけで、実態は、店舗の半分以上が赤字スレスレの状態だったのです。
平均値だけで判断すると、一般的な店舗としてはトップの成績を叩き出している「未来の稼ぎ頭」を、自ら切り捨てるという致命的なミスを犯すことになります。
このような検討力(クリティカルシンキング)を求められるケースは、日々のニュースや、仕事で見る資料でも、よく遭遇するものです。
ここで、ニュースに目を向けてみましょう。少し昔の話ですが、2021年7月、「ワクチンの有効性が64%に低下」というタイトルの記事がありました(Newsweek)。
これを読んで、「ワクチンってたいして効かないんじゃない?」と思った人も多かったことでしょう。
ところが同じ時期、「死亡した新型コロナ患者の99.2%がワクチン未接種だった」というタイトルの記事もあったのです(Courrier)。
同じワクチンの話なのに、印象がまるで違いませんか?
これは、「1つの数字」だけに目が行ってしまっているという点で、先ほどの「平均以下の店舗は閉じるべき!」と、まったく同じ罠にはまっている可能性大です。見えているところだけ、表面だけを見て、判断してしまっているのです。
2つの記事を並べてみると、多くの人が「あれ?」となると思います。ある記事では「死亡者のうち接種者は0.8%」といい、別の記事では「64%しか効かない」という...。効くの?効かないの?と、思わず聞きたくなってしまいます。大切なのは、並べなくても「ん?」と気づける思考力です。
「平均以下=不要」と短絡的に考える人は、「その前提は、本当か?」と、一呼吸置いて検証する力が弱い可能性があります。ある主張が、妥当な前提や仮説に基づいているかを判断できる力を、妥当性検討力(plausibility)といいます。
次に、「なんで平均以下の売上の店舗を、残したほうがよいという提案をしてくるんだ?」と考え、たとえば「店舗ごとの分布を見せてもらえますか?」と、検証行動に移れる力も大切です。これを批判的吟味(critique)といいます。
そして、このようなケースでのデータの見える化(dataviz)は、ヒストグラムです。外れ値の見える化ができます。ワクチン例の解決策を考えるとき、この3つの観点が重要です。
では、先ほどの「ワクチンの有効性64%」を、この3つの観点で見ていきましょう。
まずは、妥当性検討力。「64%しか効かない」というのは、感染予防なのか?重症化予防なのか?死亡予防なのか?この視点によっても、結論は変わってきます。「何に効かなかったのだろう?」「何がもっともらしいだろう?」というところが見えてくることが重要です。
次に、批判的吟味。「64%しか効かない」というのは本当なのか、他の数字や情報はないかを、探しにいきます。たとえば、「コロナ死亡者の99.2%がワクチン未接種(=死亡者のうち接種者は0.8%)」という数字を見つけられると、「感染しても、死亡にはつながっていないのではないか」と、多角的に検討できるようになるのではないでしょうか。今回のクイズで言うなら、「店舗売上の分布を見る」に気づけるかどうかと、同じことです。
最後は、データの見える化。たとえば、感染予防率は64%、重症化予防率は90%超、死亡予防率は99%超と、棒グラフで並べてみる。このグラフを見れば、「64%」という1つの数字に引きずられることの危うさが、一目瞭然になりませんか?クイズで、ヒストグラムによって「外れ値の平均への影響」を見える化したのと、同じですよね。

ところで、人は1日に何回、意思決定していると思いますか?「人は1日3万5000回意思決定する」と言われているのです。へぇ~って、思いましたか?
ちょっと計算してみましょう。1日12時間活動しているとすると、3万5000回って、約1秒に1回です。さすがに多くないですか?
そこで“疑わしい”と思って調べてみると、わかることがあります。たとえば、「食行動の行動経済学者」として2000年代に一世を風靡した、コーネル大学のブライアン・ワンシンク教授の研究に、「食べ物に関する意思決定は1日226回」といった報告があるのですが、その後2018年に、大規模な不正疑惑で撤回されています。
これこそが、日常に潜む罠なのです。「権威ある人が言っていた」「有名な研究」というだけで信じてしまう。本書で扱う「検討力」は、まさにこういう思い込みを軌道修正するためにあります。
更新:10月20日 00:05