THE21 » カルチャー&トレンド » 運転手に放った一言を後悔...笑い飯・哲夫、新刊主人公誕生の裏側

新刊小説『頭を木魚に』が発売された笑い飯・哲夫氏。プライベートでは地元・奈良県に移住し、農業とお笑い業の二足のわらじで活動しているという。仏教要素を盛り込んだ新刊の内容も踏まえ、哲夫氏の考える「本当の豊かさ」について語ってもらった。
ーー新刊、『頭を木魚に』ご執筆の経緯を教えてください。
【哲夫】元々、仏教に関するお話をしたり本を書いたりしていたのですが、それを受けて主婦の友社さんから「仏教の教えで死の恐怖を乗り越えるような小説を出せないか」という依頼をいただいたことがきっかけです。
書き進めていくうちに、「死への恐怖を乗り越える」が行き過ぎて生への執着がなくなってしまうのはよくないなと思い、最終的には「死の苦しみを乗り越えつつ天寿を全うしたくなる小説」を心がけました。
ーー小説に仏教の要素を入れられたのは今回が初めてです。小説に限定しなければ、仏教本は過去に何冊も出されています。今回、小説というかたちを選ばれた理由は?
【哲夫】これまでの小説には、「エロ」や「青春の美学」といったテーマを注入してきました。仏教をテーマとして注入した完全創作小説は初めてですね。本業が漫才師なので日ごろからネタを考えているのですが、小説のようなフィクション作品が一番ネタに近い感覚で書けるんです。
ーー本編の主人公は、元会社員のタクシードライバーという設定です。哲夫さんご自身の漫才師というご職業とはまるで異なる属性だと思いますが、なぜこのような設定にされたのでしょうか?
【哲夫】主人公を漫才師にするというのは、なんだか自分を押し出しているようで、僕はあまりしたくないんですよね。
そのうえでなぜタクシードライバーにしたかですけど、僕自身がかつてタクシードライバーの方に失礼なことを言ってしまったことがありまして。
妻の出産時に、病院までタクシーで向かっていたんです。その時のドライバーさんが、アクセルを踏んだり離したりして、車を前後に揺らすタイプの人だったんです。
ーーまれにそういった方もいらっしゃいますね。
【哲夫】僕も普段ならそんなことしないんですけど、妻の出産時ということもあって、「ちょっと一定で踏んでくれませんか?」とその時はお願いしたんです。
ドライバーさんはそれに対して嫌な顔をしなかったですし、ちゃんとお願いを聞いてくれたんですけど。ただ、後になってから「あんなこと言ってよかったのかな?」と思うようになって...。
ーーそうなんですね。状況を考えれば仕方のないことだと思うのですが...。
【哲夫】自分の中にあるマイナスの感情、これまでであれば「言ってはいけないこと」と思っていた感情を伝えてしまったことへの罪悪感ですね。プロであるドライバーさんに対して、なにか一線を超えてしまったような...。
惨めな思いをさせてしまったのではないかと、ずっと考えていました。今回、主人公が惨めな状態でスタートするというストーリーがありますので、この時に延々としていた思考を、エッセンスとして反映させています。タクシードライバーという設定も、その名残です。
ーーここからは本編の内容から離れて、仏教や世の中全体のことについてお伺いします。世の中どんどん便利になっていきますが、その一方で現代人はかえって生きづらくなっているという考え方もあります。哲夫さんの目線からは、どのようにお考えでしょうか?
【哲夫】前に、僧侶の釈徹宗先生と『みんな、忙しすぎませんかね? しんどい時は仏教で考える。』という本を共著で出したことがあります。
そのとき釈先生がおっしゃってたんですが、昔は電車もなければコンピュータもない。今は移動も仕事も短縮されて時間が有り余っているはずなのに、なぜか現代人の方が急いでないか、と。
僕自身、昔の方がゆったりしてたなって気がするんですよね。なんだか不思議な傾向だなと思うんですけど、「忙しぶれる」道具が増えちゃったのかなという気がしますね。
ーーそれは一つは科学の発展であったり、あるいはSNSのようなものが原因だったりはするのでしょうか。
【哲夫】そうですね。僕自身は現在SNSもやっていないしジムにも通っていないんですが、それでも充実していると思っています。
今、奈良の実家にある畑を継いでお米と野菜を育てているんですよ。農業をやって、子育てをして、漫才をして、移動時間中には本を書いてと、自分より充実している人はいないんじゃないかというくらいです。
ーーお仕事に家業、子育てと、近年ありがちな「マウンティング」や「見栄」を感じさせない生活スタイルですね。
【哲夫】昔の人みたいな生活もちょっと取り入れてみたら、本当の忙しさがわかるっていうことだと思います。世間にアピールしたり自分を高めたりしようとして生まれた忙しさではなく。
一駅分歩いてみたり、休日に土いじりをしたり、そういったところから生活に取り入れてみたらいかがでしょうか。
ーースローライフにあこがれながら現代の便利さを手放せない、というジレンマを抱えている人も多いでしょう。哲夫さんが現在のような暮らしを実現された経緯を教えていただけますか?
【哲夫】きっかけは子どもの進学です。僕自身が奈良の田舎で育ったのですが、子どもも同じ環境で育てたくて。小学校に進むタイミングで妻とも話し合い、田舎に帰りました。
長男として実家の畑も継がなくてはいけなかったり、他の理由もありましたけどね。
ーー田舎での暮らしは、お子さんの成長にどのような効果がありましたか?
【哲夫】遊ぶものや場所を与えられるのではなく自分で楽しいものを探すという環境なので、想像力は豊かになっていると思います。
子どもは今、小学校3年生なんですが、高校生になるまではスマホは与えない予定です。たまに動画が見たいと言ってきたら見せていますが、その程度です。
更新:09月15日 00:05