話題のベストセラー『その話し方では軽すぎます!』(すばる舎:刊)の著者、矢野香氏は、政治家や経営者などエグゼクティブ向けの話し方指導を手がける一方、現役の報道アナウンサーとして活躍している。
なぜ、いまこの本の需要が高まっているのだろうか。また、「大人の話し方」の条件とは。(取材構成:杉山直隆/写真:まるやゆういち)
※本稿は、『THE21』2012年7月号の内容を一部抜粋・編集したものです。
「『その話し方では軽すぎます!』 というタイトルにドキリとさせられたよ」。私の著書を読んでくださった経営者や管理職の方から、そんな感想をいただくことがよくあります。
経営者になったり、管理職に昇進したりしたとき、多くの人は、「その地位にふさわしい『大人の話し方』を身につけたい」と考えることでしょう。
そして、そのニーズは以前にも増して高まっていると思います。この本に対する反響から、私はそう実感しました。
なぜ、ニーズが高まっているのでしょうか。私は、その理由の1つは、昨年の東日本大震災にあると考えています。この震災を経験したことで、多くの日本人は、危機管理の意識を高めました。
身の回りの情報に関して、無条件に信じ込まず、信頼性や正確性を自然とチェックするようになっています。そんな風潮から、いい加減な話し方は好まれなくなってきたのです。その空気を敏感に感じ取った人が、自分の話し方は信用性がないのではないか、と危うさを感じているのでしょう。
また、記者会見で事態を悪化させた不祥事が相次いでいることも、理由の1つに挙げられます。記憶に新しいところでは、大手食品メーカーの産地偽装事件や飲食チェーンの賞味期限偽装、焼肉店の食中毒事件など。
ごまかそうとしたり、逆ギレしたりしたことで、当事者たちは、より一層、世論を敵に回してしまいました。そんな姿をみて、「話し方1つで、取り返しのつかない事態を招く」ことに気づき、自分の話し方を見つめ直した人が多いのでしょう。
ところで、「大人の話し方」とは、どのような話し方でしょうか。私が考える「大人の話し方」の定義は、「確実性、信頼性を重視し、落ち着いた、重みのある話し方」「自分が公人であることを意識した、責任感のある言動」です。このような話し方をしていれば、顧客や部下などから信頼を得ることができます。
しかし、大人の話し方ができる人は少数派。私が指導している経営者や管理職の方も、本のタイトル同様に、「重みのない、軽すぎる話し方をしている」方は少なくありません。
「そうッスね~」などといった若者言葉で話すのは極端な例だとしても、発言があいまいだったり、大げさだったりと、軽薄な話し方をする方は、社会的地位の高い方でも見受けられます。
その原因はいろいろありますが、意外と多くの方に共通しているのは「聞き手に興味を抱かせようと過剰にしすぎていること」です。
「淡々と話していては、相手に聞く耳をもってもらえないし、心に残らない」。そんな意識が強く、あれこれ脚色したり、ゼスチャーをしたりして、面白おかしく話そうとするわけです。
しかし、そうした“虚構”を入れてしまうと、ほとんどの場合、話の正確性が損なわれます。だから、軽薄な印象になってしまうわけです。
私は、大人の話し方を身につけたいなら、面白おかしく話すことなど考えないほうがいいと思っています。むしろ、大切なのは、面白みはなくても、話を正確に伝える話し方を身につけることです。
テレビでいえば、「ニュース番組の話し方」ですね。つまらない話し方かもしれませんが、これを身につければ、発言に信頼性や重み、責任感などを醸し出すことができます。流暢に話せなくても、相手の信頼を勝ち取ることができます。ぜひ習得してください。
更新:11月23日 00:05